34日目 前編 ~陰陽師の天文~
34日目 前編 ~陰陽師の天文~
翌朝、目が覚めた。
昨夜は結局、穏やかな夜だった。
「主人がお待ちしております。」
式神の少年が静かに一礼する。
「おはよう。」
俺は立ち上がり、少年の後を歩いた。
障子をくぐる。
その瞬間。
頬を夜風が撫でた。
「え……?」
見上げれば、満天の星空。
静かな宮廷の庭に、月明かりが降り注いでいた。
一瞬で朝から夜へ。
俺は言葉を失う。
庭の中央では、一人の男性が静かに星空を見上げていた。
「お待ちしておりました。」
ゆっくりとこちらを振り返る。
「安倍晴明です。」
「よろしくお願いします!」
俺は慌てて頭を下げた。
晴明は穏やかに微笑み、再び夜空を見上げる。
「良い夜です。」
俺もつられて空を見上げた。
「綺麗ですね。」
しばらく二人で星空を眺める。
静かな時間だった。
やがて晴明が口を開く。
「この星々を眺めることも、陰陽師の仕事の一つでした。」
「え?」
「陰陽師と聞けば、式神や呪術を思い浮かべる方が多いでしょう。」
「ですが、それは仕事の一部に過ぎません。」
俺は少し驚いた。
「じゃあ、普段は何を?」
「宮廷では、天文を観測しておりました。」
「天文?」
「はい。」
「星や月、太陽の動きを記録し、暦を作ります。」
「天文をもとに、祭礼や儀式の日程を定めることもありました。」
「へぇ……。」
「また、日食や月食、彗星など、天の異変も観測いたします。」
「天の動きは、人々の暮らしや国の行く末にも深く関わると考えられておりました。」
俺は夜空を見上げた。
「俺、陰陽師って妖怪退治ばっかりしてる人だと思ってました。」
晴明は小さく笑う。
「そう思われることも少なくありません。」
「ですが、陰陽師とは宮廷に仕え、天を読み、国を支える仕事でもあったのです。」
「陰陽師は一人で働くのですか?」
「いいえ。」
「陰陽寮という役所がありました。」
「そこには天文や暦を扱う者、占術を学ぶ者など、多くの陰陽師がおりました。」
「私は、その一員として宮廷へ仕えていたのです。」
「なんか……。」
「思ってた陰陽師と全然違います。」
晴明は優しく微笑む。
「そうかもしれませんね。」
静かな風が庭を吹き抜ける。
俺はもう一度、夜空を見上げた。
「じゃあ……。」
「式神って何なんですか?」
晴明は夜空から視線を俺へ移した。
「では。」
「次は、陰陽道についてお話しいたしましょう。」




