24日目 ~ダ・ヴィンチ邸~
24日目 ~ダ・ヴィンチ邸~
翌朝。
波の音で目が覚めた。
テントの入口を開けると、朝日が水平線からゆっくりと昇り始めている。
オレンジ色に染まる海の向こうでは、モアイたちが今日も静かに海を見つめていた。
「……いい朝だな。」
「オハヨウゴザイマス。」
AIWatchが静かに起動する。
「朝食の準備は完了してイマス。」
「ありがと。」
簡単に朝食を済ませると、俺は辺りを見回した。
昨日のバーベキューの跡。
テント。
椅子。
テーブル。
楽しかった時間の名残が、そのまま残っている。
「片付けるか。」
「異空間収納を開始シマス。」
AIWatchが小さく光る。
次の瞬間、テントやテーブル、椅子、コンロが淡い光に包まれ、一つずつ姿を消していった。
「毎回思うけど……。」
「便利すぎるな。」
「快適化デス。」
「そこだけは絶対ブレないな。」
思わず笑ってしまう。
荷物の確認を終えると、ギュルルが嬉しそうに鳴いた。
「ギュルル♪」
「よし。」
「アトランティスへ帰ろう。」
俺はギュルルの首を優しく撫で、その背へまたがる。
大きく翼が広がった。
朝日に照らされたイースター島が、ゆっくりと遠ざかっていく。
どこまでも続く青い海。
静かに並ぶモアイ。
旅の締めくくりにふさわしい、美しい景色だった。
「また来たいな。」
「飛行を開始シマス。」
ギュルルは力強く羽ばたき、港の結界へ向かった。
やがて淡い光が二人を包み込む。
「結界を通過シマス。」
一瞬だけ視界が白く染まる。
次の瞬間。
眼下には見慣れたアトランティスの街並みが広がっていた。
「……帰ってきた。」
中央にそびえる創造神殿。
放射状に伸びる街並み。
数日ぶりの景色なのに、どこか懐かしく感じる。
ギュルルはゆっくりと高度を下げ、港の貸し出し所へ降り立った。
俺はギュルルの背から降りる。
「ありがとう。」
首筋を優しく撫でると、ギュルルは気持ち良さそうに目を細めた。
「ギュルル♪」
そこへ義竜さんが静かに歩み寄る。
「……無事で何より……である。」
「ありがとうございました。」
「世界中を旅できました。」
義竜さんは小さく頷いた。
「ギュルルも……喜んでいた……である。」
「また頼むな。」
「ギュルル♪」
俺は軽く手を振り、港を後にした。
◇ ◇ ◇
いつもの串肉屋へ立ち寄る。
「おっ、兄ちゃん!」
「帰ってきたか!」
「ただいまです。」
「いつもの二包みお願いします。」
「毎度!」
焼きたての串肉を受け取り、俺はダ・ヴィンチ邸へ向かった。
コンコン。
「どうぞ。」
扉を開けると、ダ・ヴィンチさんは机へ向かったまま軽く手を挙げた。
「おぉ、帰ったか。」
「遺跡巡りから帰ってきました。」
「お土産です。」
串肉を差し出す。
「おぉ、いつもすまんのぅ。」
ダ・ヴィンチさんは嬉しそうに受け取り、さっそく一本頬張った。
「それで、旅はどうじゃった?」
俺はエジプトで見たピラミッドやモヘンジョダロ、メソポタミア、マヤ文明、そしてイースター島まで、この数日間の出来事を簡単に話した。
ダ・ヴィンチさんは時折頷きながら、楽しそうに耳を傾けている。
「ほっほっほ。」
「実に良い旅じゃったようじゃな。」
「はい。」
「めちゃくちゃ楽しかったです。」
その時だった。
ピコン♪
AIWatchが小さく音を鳴らす。
「ダ・ヴィンチ様からフレンド申請が届いてイマス。」
「え?」
思わずダ・ヴィンチさんを見る。
「連絡先を交換しておこうと思っての。」
「また面白いものを見つけたら教えてくれ。」
「もちろんです!」
「承認シマス。」
ピコン♪
「フレンド登録が完了シマシタ。」
AIWatchは続けて告げた。
「現在、未承認のフレンド申請が二件ありマス。」
「え?」
画面を覗き込む。
『チャトラ』
「チャトラ!?」
「いつの間に……。」
さらにその下には、もう一件表示されていた。
『エドワード・アレクサンダー・フォン・ローゼンベルク・フォン・シュヴァルツェン・アルカディウス・マクシミリアン・フェルナンド・ヴァレンシュタイン・…………(勇者)』
「長っ!!」
「途中で読むのやめた!」
AIWatchが静かに補足する。
「勇者様デス。」
「あぁ、勇者か。」
俺は迷わず登録名を変更した。
『勇者』
ピコン♪
「登録名を変更シマシタ。」
「これでよし。」
ダ・ヴィンチさんは串肉を食べながら吹き出した。
「ほっほっほ。」
「本人が見たら泣くぞい。」
「名前長すぎるんですよ。」
気が付けば、外は夕焼け色に染まり始めていた。
「もう遅い。」
「今日も泊まっていくがよい。」
「ありがとうございます。」
こうして俺は、ダ・ヴィンチ邸で一夜を過ごすことになった。




