20日目【閑話】 ~勇者の帰還~
19日目【閑話】 ~勇者の帰還~
メソポタミアからアトランティスへ戻ると、中央広場はいつになく賑わっていた。
「何だ?」
俺は人だかりを見つめる。
チャトラがちらりと広場を見て、小さく頷いた。
「勇者が帰ってきたにゃ。」
「勇者?」
その瞬間だった。
「私は選ばれし者!勇者!魔王を倒しここに帰還した!」
大きな歓声が広場に響く。
「きゃーーー!勇者さまーー!」
「この聖剣の力を見よ!」
聖剣を高く掲げる。
「きゃーーー!勇者さまーー!」
周囲では女性たちが黄色い歓声を上げていた。
(こそこそ……485回目だって。)
(でも、お金持ちじゃん?)
(めっちゃイケメンじゃん?)
(彼女になりたいなー。)
「……。」
何とも言えない光景だった。
その時、チャトラが大きく手を振る。
「あー!幸にゃ!」
「あ、チャトラ。アレ何だ?」
「あー、オーク肉持ってきてくれる人にゃ♪」
「そこ!?」
思わずツッコんでしまう。
勇者はこちらへ歩いてきた。
「久しぶり。」
「オーク肉あるよ。」
「やったにゃーー!」
チャトラは大喜びだ。
「最近ねー!面白い人間と友達になったにゃ!」
俺の背中をぽんと叩く。
「串肉くれるにゃ♪」
「だからそこ!」
俺は軽く頭を下げた。
「あ、どうも。」
「49日滞在してます。幸です。」
勇者も軽く頭を下げる。
「どうも。」
少しだけ沈黙が流れる。
「最近、地上を旅してるんだって?」
「うん。」
「エジプトやモヘンジョダロ、メソポタミアを見てきた。」
「へぇ……。」
勇者は少しだけ遠くを見る。
「楽しそうだね。」
「俺は強い。お金だって持ってる!女性にだって……」
勇者はチャトラにチラッと視線を向ける。
「モテる……俺は!誰もが憧れる勇者なんだ。」
しばらくの沈黙の後、勇者が続けた。
「俺さ。」
「ずっと18歳なんだ。」
「ずっと勇者なんだ。」
俺は首をかしげる。
「それやってて楽しい?」
勇者は一瞬だけ動きを止めた。
「……。」
「考えたことない。」
それだけ言うと、小さく笑った。
「またね。」
そう言って人混みの向こうへ歩いていく。
しばらくして歓声も落ち着き、広場にはいつもの空気が戻っていた。
勇者は広場の端にある串肉屋へ向かう。
「おう。」
串肉屋のおじさんは、いつも通り串を焼いていた。
「いつもの一本。」
「ああ。」
勇者は串肉を受け取る。
少しの沈黙。
やがて、おじさんがぽつりと呟いた。
「勇者。」
「……?」
「そろそろやめてもいいんじゃないか。」
勇者は黙ったまま、おじさんを見る。
「楽しそうに生きてもいいんじゃないか。」
勇者は何も答えなかった。
ただ、小さく笑うと、そのまま歩き去っていった。
俺は串肉屋のおじさんへ近づく。
「あの人と知り合いなんですか?」
おじさんは串を返しながら短く答えた。
「……まあな。」
それだけだった。
その時、AIWatchから念話が届く。
『元転生者デス。』
『転生終了後、後から訪れる転生者を見守るため、不死を選択。』
『現在も中央広場で串肉屋を営んでイマス。』
俺は静かにおじさんの横顔を見つめた。
勇者という存在が、心のどこかに残った。
そしてきっと。
勇者の中にも、ほんの少しだけ俺という存在が残った。
そんな一日だった。
「今日もオーク串肉、美味しいにゃ♪」
チャトラは幸せそうに串肉を頬張る。
「お前は気楽でいいな。」
思わず笑うと、アトランティスの夕暮れは、いつもと変わらず穏やかだった。




