18日目・19日目 ~メソポタミアからバビロンへ~
18日目・19日目 ~メソポタミアからバビロンへ~
翌朝。
野営を終えた俺達は飛竜へ乗り込んだ。
飛竜は大空を滑るように飛び、やがて一つの遺跡へと降り立つ。
「ここが……。」
辺りを見回した俺は思わず声を漏らした。
「……え?」
「ここ?」
エジプトの巨大なピラミッド。
モヘンジョダロの美しい街並み。
そんな景色を想像していただけに、目の前に広がる遺跡は驚くほど静かだった。
「ああ。」
ドワーフくんは短く頷く。
「ここ。」
「いや……何にもないけど?」
「ウルク遺跡デス。」
AIWatchが静かに答える。
「世界最古級の都市の一つであり、楔形文字が発展した場所として知られてイマス。」
「文字の?」
「その通りデス。」
ドワーフくんは足元に落ちていた粘土板を手に取る。
しげしげと眺めると、一言だけ呟いた。
「粘土。」
「好き。」
「そこなんだ。」
俺が苦笑すると、AIWatchが続ける。
「推定復元映像を表示シマス。」
目の前へホログラムが浮かび上がった。
そこには、小さなドワーフの子ども達が粘土板を囲み、楽しそうに遊ぶ姿が映し出される。
「描きやすいぞーー!」
「楽しいぞーー!」
「絵を描くの好きだぞーー!」
棒切れで夢中になって絵を描き、笑い合っている。
「平和だな……。」
ドワーフくんはホログラムをじっと見つめ、小さく頷いた。
「好き。」
「ドワーフ族は古くから石材や粘土など、加工しやすい素材を好む傾向がありマス。」
「しかし、文字を考案したのは人間デス。」
ホログラムが切り替わる。
動物や壺、小麦などの絵。
それらは少しずつ形を変え、やがて楔形文字へと変わっていく。
「人は忘れマス。」
「だから記録する必要がありマシタ。」
「……そっか。」
俺は静かに粘土板へ目を落とした。
ドワーフくんは粘土板をそっと元の場所へ戻す。
「面白かった。」
「好き。」
「それ、お前の感想しか言ってないぞ。」
思わず笑ってしまった。
---
その後、俺達は飛竜でウルへ向かった。
やがて視界の先に、巨大な階段状の建物が姿を現す。
「……おぉ。」
「ピラミッドとは全然違うな。」
「ジッグラト。」
「神殿デス。」
「王の墓ではアリマセン。」
ドワーフくんは石壁へそっと手を当てる。
「石。」
「好き。」
「やっぱりそこを見るんだな。」
俺は笑いながらジッグラトを見上げた。
飛竜へ戻ろうとした、その時だった。
「幸サン。」
AIWatchが珍しく俺を呼び止める。
「提案がありマス。」
「提案?」
「この先、バビロンへ立ち寄ることを提案シマス。」
「何で?」
「幸サンが興味を持つ可能性が高いと判断しまシタ。」
「……確かに。」
「行こう。」
飛竜は再び空へ舞い上がった。
---
しばらく飛ぶと、巨大な城壁跡が姿を現した。
「ここがバビロンか……。」
俺は辺りを見回す。
「塔は?」
「ありマセン。」
「……。」
「俺、塔見るの楽しみにしていたのに……。」
AIWatchは少しだけ間を置いて答えた。
「幸サン。」
「ん?」
「好きなんデスよね。」
「バベルの塔。」
思わず苦笑する。
「うん。」
「好き。」
「バベルの塔は聖書に登場する建造物デス。」
「実在は確認されていませんガ、バビロンに存在した巨大な神殿『エ・テメン・アン・キ』がモデルの一つと考えられてイマス。」
「現在は基礎部分のみが残ってイマス。」
「そっか。」
少しだけ残念だった。
でも、不思議と来て良かったとも思った。
「他にもイシュタル門やハンムラビ法典など、後世へ大きな影響を与えた文化が残されてイマス。」
「ハンムラビ法典。」
「『目には目を、歯には歯を』で有名な法律デス。」
「へぇ。」
「目にはサミングを。」
「歯にはエルボーを。」
「金的には金的を。」
「プロレスに変換するのはヤメマショウ。」
「え?」
「合ってるやん。」
「合ってイマセン。」
「バビロンって、教科書でよく見る名前だもんな。」
「その通りデス。」
「ありがとう。」
「来て良かった。」
「了解デス。」
俺達は飛竜へ乗り込み、アトランティスへの帰路についた。
俺は次の旅への準備のため、一度アトランティスへ戻ることにした。




