1日目~ポセイドン~
無理やりワープさせられた俺は、見知らぬ岩場に立っていた。
目の前には一人の男性。
腰まで届く青銀色の長い髪。
日焼けした肌。
波を思わせる青い外套。
手には、神話で見たままの三叉の槍。
そして何より目を奪われたのは、その圧倒的な肉体だった。
「……。」
「……。」
「ぽ、ポセイドン……さま?」
「いかにも」
「ファンなんです! サインくださーい!」
「……サインは後だ。アトランティスを案内してやる。我の背に乗れ」
「背?」
そう言ったポセイドン様の姿が、忽然と消えた。
「ポセイドンさま……どこへ?」
その時だった。
背後から、大地を震わせるような低い唸りが響く。
同時に、巨大な影が俺を覆った。
恐る恐る振り返る。
そこにいたのは、一頭の巨大な海龍。
青く輝く鱗は陽の光を受けて波のように煌めき、その長い身体は岩場を越え、海へ、そして空へと続いている。
「…………。」
「え?」
「我は、ここだ。」
俺は思わず海龍に飛び乗った。
(かっけえええー!本物?本物だよね?)
「……乗るのだな」
海龍にそう言われ我にかえる。
「アアアア!ポセイドンさま……
海龍はゆっくりと首をもたげた。
次の瞬間、その巨大な身体は海面を蹴ることもなく、空へと泳ぎ始める。
「うわあぁぁぁぁぁっ!」
思わず海龍の鱗にしがみつく。
眼下の海がみるみる遠ざかり、潮の香りを含んだ風が頬を駆け抜けていった。
やがて海龍が高度を上げるにつれ、一つの大陸がその全貌を現し始める。
「……え。」
言葉を失った。
そこには、人類が知るどの都市とも違う世界が広がっていた。
海を中心に幾重もの円を描くように街が築かれ、その外側へ向かうほど緑豊かな森や農地が広がっている。
青く透き通る運河は大地を縫うように流れ、白い橋が静かにそれらを結んでいた。
巨大な神殿群は陽光を受けて輝き、その塔は雲へ届くかと思うほど高い。
空には鳥だけではない。
静かに浮かぶ船が、まるで風に乗るように都市の上を行き交っている。
どこを見ても煙はなく、喧騒もない。
それなのに、この大陸は確かに生きていた。
人々が歩き、笑い、働き、暮らしている。
文明は、人類が想像した未来より遥か先へ進んでいる。
なのに、自然は少しも失われていなかった。
海と森と都市が、一つの生命のように調和している。
胸の鼓動が速くなる。
何度も本で読み、映像で想像し、夢にまで見た伝説の大陸。
「……アトランティス。」
その名を口にした瞬間、長年抱き続けた憧れが、ようやく現実へと姿を変えた。
「人の世では、沈んだことになっている。」
俺は知っている。
遥か昔、地球上に存在したとされる超古代文明、アトランティス。
神の怒りに触れ、一夜にして海へ沈んだと語り継がれている伝説の大陸だ。
「ここ……地球ですよね?」
海龍は静かに答えた。
「そうだ。アトランティスは今も存在している。」
「え……。」
「滅んだのではない。隠されているのだ。」
「ちょ、ちょっと待ってください! 意味が……。」
俺は混乱した。
ここは異世界ではない。
今も俺たちが暮らしている地球だ。
そのどこかに、アトランティスが今も存在しているというのか。
海龍は振り返ることなく、静かに告げた。
「その意味は、お前自身の目で確かめるがよい。」
「そろそろ戻るぞ。良いな?」




