13日目~エジプトの職人~
翌朝。
「うぅ……。」
頭が重い。
人生で初めて飲んだ酒は、見事に俺をノックアウトしたらしい。
テントの外では、ドワーフが朝から飛竜に餌をやっている。
「起きたかーー!」
「頭いてぇ……。」
すると、AIWatchがいつものように目の前へ浮かんだ。
「エルフ製の二日酔い薬デス。よく効きマス。」
「そんなものまであるのか……。」
恐る恐る飲む。
数秒後。
「あれ?」
さっきまでの重さが嘘みたいに消えていく。
「すげぇ……。」
「アトランティスでは一般的な薬デス。エルフ族が得意としていマス。」
「文明ってすげぇ……。」
ドワーフが飛竜へ飛び乗った。
「今日は仕事だぞーー!」
「仕事?」
「仕事だーー!早く乗れーー!」
俺は苦笑しながら飛竜へまたがる。
飛竜は翼を大きく広げ、朝焼けの砂漠へ飛び立った。
◇ ◇ ◇
しばらく飛ぶと、地平線の向こうに巨大な三角形が見え始める。
「……え。」
近付く。
さらに近付く。
そして。
「でっかぁぁぁ!!」
思わず叫んでしまった。
昨日見た階段ピラミッドも十分大きかった。
だが、目の前の三大ピラミッドは桁が違う。
「写真じゃ全然分からなかった……。」
「こんなに巨大だったのか……。」
飛竜が静かに着地する。
俺は巨大な石へ近付き、そっと手を当てた。
「この石は?」
ドワーフはさっきまでとは違う、落ち着いた口調で答えた。
「石灰岩だ。加工しやすい。だから外側に大量に使われている。」
「中も全部これ?」
「違う。重要な場所には花崗岩を使う。硬いが丈夫だからだ。」
AIWatchが補足する。
「現在もそのように考えられてイマス。石の特徴に合わせ、用途を使い分けていたとされてイマス。」
「加工は?」
「石によって変える。叩く。削る。磨く。同じ方法では作れない。」
「銅の道具だけじゃ無理って聞いたことあるけど?」
「それもある。石の硬さで道具を変える。現場で決める。」
その一言には、何百年、何千年という経験が詰まっているように聞こえた。
AIWatchが静かに続ける。
「現在も加工方法には複数の説がありマス。銅製工具、石製工具、砂を研磨材として利用したと考えられてイマス。」
「運ぶのもソリだったって説があるよね?」
「それもある。」
「長い坂を作った説も。」
「それもある。」
「じゃあ、どっち?」
「一つじゃない。石の大きさ、人数、地形。全部違う。現場で決める。」
思わず笑ってしまう。
「答えになってるようで、なってないな。」
「現場では、それが答えだ。」
俺は思わず黙った。
確かにそうだ。
同じ建物でも、毎日同じ条件とは限らない。
昨日と今日でも違う。
なら、方法が一つのはずがない。
AIWatchが補足する。
「現在も外部ランプ説、内部ランプ説など複数の説がありマス。運搬方法についても決定的な結論には至ってイマセン。」
「積み上げる時も?」
「もちろんだ。最初に水平を出す。積んでから直すことはできない。だから最初が一番重要だ。」
「そんなに大事なの?」
「一段ズレれば、その上も全部ズレる。最後になっても直せない。」
「だから最初か……。」
俺は巨大な石積みを見上げた。
何千年も前の建物とは思えないほど、真っ直ぐだった。
AIWatchが補足する。
「三大ピラミッドは現在でも非常に高い精度で東西南北に合わせて建設されていることが確認されてイマス。測量技術の高さを示す代表例デス。」
「昔の人って、本当にすごかったんだな……。」
ドワーフは小さく首を振った。
「人間は覚えるのが早い。ご先祖は少しだけ教えた。人間は工夫した。作ったのは人間だ。」
その一言が妙に胸へ残った。
歩き始めてしばらくすると、砂漠の向こうに巨大な石像が姿を現した。
「あっ……。」
思わず足が止まる。
「スフィンクス……。」
何度も写真で見た。
テレビでも見た。
それでも、本物は想像よりずっと大きかった。
「これは?」
ドワーフはスフィンクスを見上げ、にかっと笑った。
「遊びだぞーー!」
「……は?」
「ご先祖さまの遊びだぞーー!」
一瞬で先生が消えた。
「ちょっ……さっきまでの職人は?!」
「終わったぞーー!」
「切り替え早っ!」
「仕事は仕事!遊びは遊びだぞーー!」
俺は巨大なピラミッドを指差した。
「仕事だぞーー!」
今度はスフィンクスを指差す。
「これは?」
「遊びだぞーー!」
「ピラミッド!」
「仕事だぞーーーー!」
「スフィンクス!」
「あ!そ!び!だぞーーー!」
「わかった、わかった。」
思わず吹き出してしまう。
さっきまで何千年も前の建築技術を真面目に語っていた職人は、もうどこにもいない。
「ドワーフくん、次はどこ行こうか?」
「モヘンジョダロだーー!面白いぞーー!」
AIWatchが静かに補足する。
「ここからモヘンジョダロまでは飛竜でも約二日デス。」
「途中で野営を推奨シマス。」
「了解。」
俺は飛竜の首を優しく撫でた。
「ギュルル、また乗せていってくれるか?」
「ギュルル!」
飛竜は嬉しそうに小さく鳴いた。
「よーーし!」
「出発だーーー!」
ドワーフくんは勢いよく飛竜へ飛び乗る。
その姿を見て、思わず笑みがこぼれた。
俺も飛竜の背へまたがる。
大きく羽ばたいた飛竜は、夕日に染まるエジプトの空を駆け抜け、次なる目的地、カッパドキアへ向けて飛び立った。




