10日目~竜と龍~
~10日目 竜と龍~
朝食を終え、宿へ戻る。
「さて。」
今日はどこへ行こうか。
AIWatchが絵地図を広げる。
「昨日は役場だけで終わっちゃったな。」
指で地図を辿る。
「獣人街……行った。」
「小人の娯楽施設……行った。」
「ダークエルフ街……夜の街……歓楽街……俺には必要……ないな。」
「……奥手なんデスね。」
「違うわ。」
地図を見ていると、一つの文字が目に入る。
『竜貸出所』
「竜貸出所?」
「アトランティスでは竜は重要な交通手段デス。」
「飛竜は長距離移動。」
「地竜は運搬などに利用されマス。」
「乗れるの?」
「可能デス。」
「ただし、乗竜訓練は初回利用者全員が受講しマス。」
「決めた!」
「今日は竜人街!」
♢♢♢♢♢♢
ワープゲートを抜ける。
白い漆喰。
黒瓦。
石畳。
竹が風に揺れる。
「……。」
「日本みたい。」
「東洋文化を基に独自に発展した街並みデス。」
静かな街だった。
すれ違うドラゴニュート達は軽く一礼を交わし、遠くから木剣を打つ音だけが聞こえてくる。
その時。
頭上を飛竜がゆっくり旋回した。
「すげぇ……。」
♢♢♢♢♢♢
「はーい!初めてのご利用ですねぇ!」
「こちらでぇす!」
受付嬢に案内され、訓練所へ入る。
「義竜指導員、おねがいしまぁす!」
奥には三人のドラゴニュート。
「初めてですかねぇ。私は概眼頑張ると良いぞ。」
「ブッハッハッハ!我は呉慈羅と申す。」
そして一人が静かに前へ出た。
「我が名は義竜……である。」
「本日は義竜指導員が担当しマス。」
義竜は短く頷いた。
「参ろう……である。」
◇
「こちらは地竜……である。」
穏やかな竜だった。
さらに奥には翼を持つ飛竜がいた。
「こちらは飛竜……である。」
幸は飛竜を見上げる。
「そういえば。」
「竜と龍って違うの?」
「……違う。」
「西では竜は畏れられ。」
「東では龍は敬われる……である。」
AIWatchが補足する。
「地上では東西で伝承が異なりマス。」
「詳細は諸説ありマス。」
「へぇ。」
「同じドラゴンでも違うんだな。」
義竜は静かに頷いた。
「名は似ていても、同じではない……である。」
幸は飛竜を見つめた。
「子どもの頃から……。一度でいいから竜に乗るの憧れてたんだよなぁ。」
義竜は飛竜の首へ静かに手を添える。
「……それでいい。」
「え?」
「先ずは……心を通わせることだ……。」
義竜に促され、ゆっくり飛竜へ近付く。
恐る恐る鼻先へ手を伸ばいた。
飛竜は嫌がることなく、静かに目を細める。
「……。」
「よろしく。」
飛竜が小さく鳴いた。
義竜が頷く。
「……乗ってみろ。」
ゆっくり背へ跨る。
飛竜が翼を広げた。
ふわり。
身体が浮く。
「おぉっ……!」
高くは飛ばない。
竜人街の屋根より少し高い場所を、ゆっくり旋回する。
白い漆喰。
黒瓦。
竹林。
道場。
武人達がこちらを見上げ、小さく手を振る。
頬を撫でる風が心地良い。
「すごい……。」
「本当に飛んでる……。」
飛竜は静かに地面へ降り立った。
幸は背から降りる。
飛竜の首をそっと撫でた。
「ありがとう。」
飛竜は嬉しそうに目を細める。
義竜が静かに口を開く。
「ピクシードラゴンという竜を知っているか……。」
「いや。」
「竜と妖精の間に位置する存在……である。」
「自ら気に入った者の前にしか姿を現さぬ。」
「人が選ぶのではない。」
「選ばれる……のである。」
「へぇ……。」
AIWatchが補足する。
「ピクシードラゴンは非常に希少デス。」
「共に暮らす相手を自ら選びマス。」
幸は少し笑った。
「いつか会えたらいいな。」
義竜は静かに頷く。
「焦る必要はない……である。」
「竜は売り物ではない。」
「役場で借りる。」
「代々受け継ぐ。」
「あるいは……縁を結び共に帰る。」
「全ては心次第……である。」
幸はもう一度飛竜を見る。
「なるほど。」
「だから最初に、心を通わせることなんだ。」
義竜は口元をほんの少しだけ緩めた。
「……その通り。」
「講習修了……である。」
AIWatchが光る。
ピッ。
「登録完了しマシタ。」
「え?」
「これで飛竜を借りることができマス。」
幸は思わず笑った。
「じゃあ明日は……。」
AIWatchも静かに答える。
「地上への遺跡探訪デス。」
胸が高鳴る。
「楽しみだ。」
飛竜はもう一度、小さく鳴いた。




