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8日目~チャトラの友達~

「今日は何しようかな。」


宿を出た俺は、大通りを歩きながら伸びをした。


「今日は食べ歩きでもするか。」


「今日は串肉買わにゃいにゃ?」


突然、木の陰から声がした。


「え?」


振り向くと、猫耳の女の子がこちらをじっと見ている。


「俺?」


「そうにゃ。」


「串肉、美味しいにゃ?」


「うん、美味しいよ。」


女の子は満足そうに頷く。


「知ってるにゃ。」


「……知ってる?」


「武器屋入ったにゃ。」


「出てきたにゃ。」


「服屋入ったにゃ。」


「出てきたにゃ。」


「また串肉買ったにゃ。」


「……。」


「見られてたの!?」


女の子は得意そうに尻尾を揺らした。


「今日は買わにゃい?」


「……食べたいの?」


「食べるにゃ♪」


思わず笑ってしまう。


「じゃあ、一本買ってくるよ。」


俺は串肉屋へ向かった。


「おっ、兄ちゃん!」


炭火の前で肉を焼いていた大柄な店主が豪快に笑う。


「ここ数日、よく来てくれるな!」


「美味しいですから。」


「そりゃ嬉しいねぇ!」


店主は串を返しながら、猫耳の女の子へ目を向けた。


「おいおい。」


「ウチの客にまたねだったのか?」


「ねだってにゃい。」


「これから獣人街を案内するにゃ。」


「そのお礼にゃ♪」


「……。」


「先にお礼もらうのかよ!」


チャトラは首を傾げた。


「ダメにゃ?」


店主は豪快に笑う。


「ははは!」


「まぁ、ちゃんと案内はしてくれるぞ。」


「今日は何本だ?」


「二本お願いします。」


「毎度!」


焼きたての串肉を受け取り、そのうち一本をチャトラへ渡す。


「美味しいにゃ♪」


幸せそうに串肉を頬張る姿を見ていると、こっちまで笑えてくる。


「今日は食べ歩きする予定なんだ。」


チャトラはレストラン街の方をちらりと見て首を横に振った。


「まだ本番じゃないにゃ。」


「え?」


「チャトラが獣人街を案内するにゃ。」


AIWatchが静かに補足する。


「補足シマス。」


「獣人街は、美食の街として知られてイマス。」


「本場にゃ♪」


「なるほど。」


「じゃあ今日はチャトラに案内してもらおうかな。」


「任せるにゃ。」


AIWatchが一拍置いて口を開く。


「……。」


「ワタシの出番ハ?」


「今日はチャトラの日にゃ。」


AIWatchは少しだけ沈黙した。


「了承シマシタ。」


「本日の案内役を、チャトラ様ヘ一時譲渡シマス。」


「よし!」


チャトラは嬉しそうに尻尾を揺らした。


「チャトラの友達も紹介するにゃ。」


「よろしく。」


二人が歩き出そうとした、その時。


「兄ちゃん。」


店主が小さく呼び止めた。


「ん?」


チャトラに聞こえないよう、少しだけ声を潜める。


「チャトラはウチの看板猫なんだ。」


「看板猫?」


「あいつが店の前をうろうろしてると、不思議と客が増える。」


「へぇ。」


「だから串肉一本くらい、安いもんさ。」


店主は炭火へ串を返しながら笑った。


「ほら。」


「待たせると怒られるぞ。」


少し先でチャトラが手を振る。


「早く来るにゃ!」


「今行く!」


俺は軽く手を振り返し、チャトラの後を追いかけた。


役場前の賑わいを抜けると、飲食店が立ち並ぶ通りへ出た。


パスタ専門店。


サンドウィッチ専門店。


お洒落なカフェ。


どの店からも美味しそうな香りが漂ってくる。


その中に、一軒だけ見覚えのある文字が目に入った。


日本食レストラン。


「え? に、日本食?」


AIWatchが答える。


「日本からの転生者が広めたとされてイマス。」


「そっか……。」


「地球の文化も残ってるんだな。」


橋を渡ると、街の雰囲気が少し変わった。


通りを歩く人々の耳や尻尾は様々で、猫族や犬族、熊族、虎族が笑顔で行き交っている。


辺りには食欲を誘う香りが漂っていた。


「あら、チャトラじゃない。」


後ろから声がした。


振り向くと、チャトラによく似た猫族の女の子が立っていた。


「ライバルのキジトラにゃ。」


「ワタシはキジトラ。」


「へぇ……その人間がお友達?」


「そうにゃ。」


キジトラは胸を張った。


「ワタシの方が毛並みが美しいの!」


チャトラも胸を張る。


「チャトラの方が可愛いにゃ!」


「美しい!」


「可愛いにゃ!」


「美しい!」


「可愛いにゃ!」


「……。」


「仲、悪いの?」


「ライバルにゃ。」


「あ、猫族みんなが『にゃ』って言うわけじゃないんだ。」


AIWatchが答える。


「チャトラさんの特性かとオモワレマス。」


キジトラは毛並みを整えると、ふんっと鼻を鳴らした。


「また勝負しましょう。」


「負けないにゃ。」


キジトラは去って行った。


チャトラは俺を振り返る。


「本場はこっちにゃ。」


「チャトラについて来るにゃ。」


尻尾を揺らしながら、ずんずん歩き出す。


少し歩くと、一軒の食堂の前でチャトラが立ち止まった。


木の看板には、


『森のくまさん』


と書かれている。


「ここが一番美味しいにゃ♪」


店の奥から、大きな熊族の店主が顔を出した。


「おっ、チャトラ!」


「今日は友達連れてきたのか。」


「人間さんにゃ。」


「いらっしゃい。」


店内へ入ると、昼時ということもあり多くの客で賑わっていた。


「おすすめは何ですか?」


熊族の店主は胸を張る。


「オークカツ丼だ。」


「うちの一番人気だぞ。」


「オーク肉?」


思わず聞き返す。


チャトラは得意そうに胸を張った。


「勇者がとってくるにゃ♪」


「え?」


「勇者?」


思わず聞き返した。


AIWatchが補足する。


「勇者様は定期的に討伐依頼を受注してイマス。」


「討伐対象は主に、オークやゴブリンなどの魔物デス。」


「討伐後、食用に適した個体は食肉として流通シマス。」


「廃棄を減らす目的もあり、現在では一般的な仕組みとなってイマス。」


「へぇ……。」


「ちゃんと食べるんだ。」


熊族の店主が頷いた。


「命をいただくんだ。」


「無駄にはしねぇ。」


「うちでも一番人気だからな。」


ほどなくして、湯気を立てる大きな丼が運ばれてきた。


サクッと揚がったカツに、とろりと半熟の卵。


甘辛い香りが食欲を刺激する。


「いただきます。」


一口頬張る。


「……美味しい。」


肉は驚くほど柔らかく、噛むほどに旨味が広がる。


衣は軽く、甘辛いタレと卵がよく合っていた。


「これは人気になるわ。」


熊族の店主は嬉しそうに笑う。


「だろ?」


チャトラは得意そうに胸を張る。


「美味しいにゃ♪」


「知ってる。」


思わず笑ってしまった。


気が付けば丼はあっという間に空になっていた。


「ごちそうさまでした。」


店を出ると、チャトラが通りの向こうへ向かって大きく手を振った。


「虎さんにゃ!」


振り向いたのは、大柄な虎族の男だった。


引き締まった体に、腰には使い込まれた剣。


歴戦の冒険者らしい雰囲気をまとっている。


「お、おう。」


少し照れくさそうに手を挙げる。


「友達の虎さんにゃ!」


「時々冒険者してるにゃ!」


「よろしく。」


「……よろしく。」


短いやり取りだけだったが、穏やかな笑みからチャトラとの付き合いの長さが伝わってきた。


別れ際、チャトラは再び歩き出す。


「次は服屋にゃ!」


AIWatchが補足する。


「獣人服のプロフェッショナルデス。」


「人間用の服も丁寧に仕立てることで知られてイマス。」


「へぇ。」


「俺も新調しようかな。」


「それがいいにゃ!」


「おすすめにゃ。」


チャトラは嬉しそうに尻尾を揺らすと、先頭に立って歩き出した。


俺たちは仕立て屋へ向かった。


店内には様々な服が並び、獣人用に耳や尻尾の位置まで工夫された仕立ての良さが一目で分かる。


「いらっしゃいませ。」


優しそうな犬族の店主が笑顔で迎えてくれた。


「人間用の服もお願いできますか?」


「もちろんです。」


「一着一着、丁寧にお仕立てします。」


採寸を終え、生地やデザインを相談する。


「出来上がりは三日後になります。」


「よろしくお願いします。」


店を出ると、空は夕焼け色に染まり始めていた。


「今日はここまでにゃ。」


チャトラが俺を見上げる。


「案内ありがとう。」


「すごく楽しかったよ。」


チャトラは嬉しそうに笑った。


「また遊ぶにゃ。」


「もちろん。」


少し歩き出したチャトラは、くるりと振り返る。


「また串肉食べるにゃ♪」


「そこかよ。」


思わず笑ってしまう。


チャトラは満足そうに尻尾を揺らすと、人混みの中へ駆けて行った。


「充実した一日だったな。」


AIWatchが静かに答える。


「本日も有意義な一日デシタ。」


俺は宿への道を歩き出した。




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