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第12話:狂い始めた陰謀と、夜の裏仕事(無双)の開幕

昨夜、屋敷の地下にあるワインセラーで、グレイソン執務長と裏商会のゴードンが交わした密談。

 自室のベッドに戻った後も、俺は怒りで沸騰しそうになる血を必死に抑え込んでいた。


『トマスに横領の濡れ衣を着せて暗殺し、伯爵を毒殺する』


十二年後の処刑エンドが、まさかこんなにも早く、俺の目の前に突きつけられるとは。

 だが、焦りはない。ゲームのシナリオライターであり、この世界の「生みの親」である俺にとって、彼らの計画は手札が全て透けて見えるポーカーのようなものだ。


(……上等だ。俺の大切な人たちを理不尽に奪おうっていうなら、生みの親の権限チートで、お前らの存在ごとバグ扱いにして消し飛ばしてやる)


翌朝。

 俺はいつものように、父トマスと一緒に伯爵邸の厨房へ向かった。

 トマスが伯爵の朝食用のコンソメスープを火にかけている隙に、一人の見習いコックが不自然な動きで鍋に近づくのを、俺の目は見逃さなかった。

 あいつはグレイソンの息がかかったスパイだ。


見習いコックが周囲を窺いながら懐から小さな小瓶を取り出し、スープに数滴の透明な液体を垂らそうとした瞬間。

 俺はテーブルの影から、無詠唱で『風』と『水』の魔法を極小サイズで発動させた。


ピシッ!


「痛っ!?」


風の刃が見習いコックの手首を軽く叩き、驚いて手を滑らせた小瓶を、水で覆った風のクッションで音もなく空中でキャッチする。

 そのまま小瓶を俺の手元まで引き寄せ、ポケットに突っ込んだ。


「どうした、何をボーッとしてる。スープが焦げるぞ」

「あ、いえっ! なんでもありません!」


トマスに怒られ、見習いコックは慌てて持ち場へ戻っていく。毒を入れ損ねたことにも気づいていないらしい。

 ポケットの中で小瓶の蓋を開け、匂いを嗅ぐ。


(無色透明で無味無臭。数日かけて体内に蓄積し、やがて急性心不全を引き起こす暗殺用の劇薬……『青蛇の涙』か)


設定資料集に俺自身が書き込んだ毒薬だ。解毒の仕方も、混入の経路も、全部俺が知っている。

 証拠の確保と、伯爵の毒殺の阻止。まずは第一段階クリアだ。


* * *


その夜。

 平民区にある俺の家。トマスとマリアが深い眠りについているのを確認し、俺はそっとベッドを抜け出した。


俺の家を囲む路地裏の暗がりに、三つの不穏な気配が潜んでいるのが分かる。

 ゴードン商会が放ったプロの暗殺者たちだ。

 五歳の子供の身体で夜の闇に紛れるのは容易い。俺は窓から音もなく外に出ると、屋根の上に降り立ち、彼らを見下ろした。


黒装束の男たちが、毒を塗った短剣を抜き、俺の家の鍵をピッキングで開けようとしている。


「……悪いな。お前らの出番は、ここで強制終了カットだ」


俺は無詠唱で『土』と『風』の複合魔法を展開した。

 彼らの周囲に音を奪う「真空の結界」を張り巡らせ、同時に足元の石畳を泥沼のように変化させて両足を飲み込ませる。


「なっ……!?」

「ぐ、が……っ!?」


声を出すことも、逃げることもできず、もがく暗殺者たち。

 俺は風の刃で彼らの武器を弾き飛ばし、後頭部に精密な物理衝撃(風のハンマー)を叩き込んで全員を一瞬で気絶させた。

 そのまま土魔法で彼らを地中に首だけ出して埋め、魔法の枷で拘束する。これも後で証拠として突き出してやる。


暗殺者の迎撃、完了。第二段階クリアだ。

 次はいよいよ、全ての元凶であるゴードン商会の本拠地へのカチコミである。


ゴードン商会は、王都の歓楽街の裏手にある。

 表向きは輸入雑貨を扱う優良商会だが、地下には広大な隠し倉庫があり、違法な奴隷売買や密輸品、そして伯爵家から横領した金の「裏帳簿」が隠されている。


俺は全属性適性の魔力を隠密魔法に全振りし、夜の王都を影から影へと跳躍した。

 五歳児の身体能力は低いが、風魔法で自重を軽くし、風の反発力を利用すれば、まるで空を飛ぶように建物の屋根を駆け抜けることができる。


商会の裏口。

 屈強な見張りが二人立っているが、俺の姿は「光魔法」の屈折を利用した光学迷彩により、周囲の景色に完全に溶け込んでいる。


「ふわぁ……暇だな。こんな夜中に誰か来るわけでもなし」

「全くだ。伯爵家の横領がうまくいけば、俺たちにもたっぷりボーナスが出るって話だがな」


その言葉が終わるより早く、俺は二人の周囲の酸素を風魔法で遮断し、意識を刈り取った。


倒れた見張りを跨ぎ、地下へ続く隠し扉の前に立つ。

 鍵は複雑な魔法陣で守られているが、パスワードは『0831(野菜)』。当時のプログラマーが徹夜明けに適当に設定し、俺が「世界観ぶち壊しだろ」と突っ込んだバグまみれのセキュリティだ。

 魔力を流し込んでパスワードを入力すると、重厚な扉はあっさりと開いた。


* * *


地下倉庫の中には、数十人の武装した荒くれ者たちがたむろしていた。

 酒を飲み、下品な笑い声を上げている。

 だが、今の俺にとっては、ただの経験値モブ以下の存在だ。


「さて、お掃除の時間だ」


俺は隠密を解き、堂々と彼らの前に姿を現した。


「あ? なんだこのガキは? どこから入ってきやがった!」

「おいおい、迷子か? ここは遊び場じゃねえぞ、お嬢ちゃん……いや、坊主か?」


下卑た笑いを浮かべて近づいてくる男たち。

 俺は無表情のまま、右手をスッと横に振った。


発動するのは、『水』と『風』の複合魔法――『氷結の暴風ブリザード』。


室内という閉鎖空間で放たれた絶対零度の嵐が、男たちを瞬時に吹き飛ばし、その四肢を床や壁に凍りつかせた。


「ひぃぃっ!?」

「ば、ばけもの……っ! こいつ、ただの子供じゃねえ!」


誰一人として殺してはいない。だが、反撃する意思すら完全にへし折る、圧倒的な力の行使。

 五歳の子供が、数十人の武装した大人たちを指先一つで、文字通り一瞬で制圧したのだ。


「な、何事だ! 貴様ら、何をして……ひっ!?」


その騒ぎを聞きつけ、奥の部屋から太った男が飛び出してきた。

 裏商会の主、ゴードン商会長だ。

 床に転がり、氷漬けになって呻く部下たちを見て、ゴードンは腰を抜かしてその場に尻餅をついた。

 その視線の先にいるのは、全くの無傷で立つ小さな平民の子供。


「よお、ゴードン商会長。俺の家族を殺そうとしてくれたお礼参りに来たぜ」

「き、貴様……トマスの息子の、ルークか!? なぜ、お前がこんなところに……!? だ、誰か! こいつを殺せ!」


俺はゴードンの悲鳴を無視し、ゆっくりと彼に近づいた。

 俺の足元から広がる冷気が、ゴードンの豪華な衣服を白く凍らせていく。


「無駄だよ。お前の手駒はもう誰も動けない。それに、伯爵への毒殺も、俺の家への暗殺者も、全部俺が潰した」

「ば、馬鹿な……っ!? そんなこと、五歳の子供にできるわけが……っ!」

「できるさ。お前らの浅知恵なんて、俺が全部『書いた』ようなもんだからな」


俺はゴードンを氷で床に縫い留めると、彼の執務室の奥にある壁の絵画を指差した。


「その絵の裏の隠し金庫。暗証番号は右に三回、左に二回だ。中には、グレイソン執務長と交わした横領の裏帳簿と、伯爵を毒殺するための計画書が入ってるよな?」

「な、なぜそれを……っ!? その金庫の存在は、私とグレイソンしか知らないはずだ!」


ゴードンは顔面を死人のように蒼白にし、ガチガチと歯の根を鳴らした。

 俺は風魔法で絵画を吹き飛ばし、隠し金庫を魔力で強引にこじ開けた。中から出てきたのは、分厚い裏帳簿の束と、大量の裏金の証書だ。


「なぜって? 俺がこの世界の『神様シナリオライター』だからだよ」


俺は裏帳簿を手にしてパラパラと捲り、中身を確認してニヤリと笑った。

 完璧だ。これさえあれば、グレイソンとゴードンを一発で死罪に追い込める。


「た、頼む! 金ならいくらでも出す! 命だけは、命だけは助けてくれ!」


プライドをかなぐり捨て、土下座をして命乞いを始めるゴードン。

 俺は冷たい眼差しで彼を見下ろした。


「命は取らないよ。お前らを裁くのは俺じゃない、アルバート伯爵だ。……せいぜい、明日を楽しみにしているんだな」


俺はゴードンの意識を風の衝撃で刈り取ると、裏帳簿を抱え、再び夜の闇の中へと消えた。

 トマスに濡れ衣を着せようとした処刑フラグの粉砕、および悪党への逆襲ざまぁの舞台は、これにて完全に整った。


明日の朝。

 俺の家族とセリアの平穏を脅かそうとした愚か者たちに、生みの親からの容赦なき「断罪」が下される。

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