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婚約破棄の慰謝料として呪われた公爵領を貰ったら、公爵様が超絶美形な上に私の魔力で呪いも解けて、幸せすぎて死にそうです  作者: おーちゃん


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32話

第32話 経済封鎖


 ハネムーンの余韻を胸に残したまま、ラザフォード公爵邸の門をくぐった私を待っていたのは、セシルさんの張り詰めた報告だった。


「お帰りなさいませ、旦那様、奥様。お寛ぎのところ恐縮ですが、緊急事態です。バレンタイン伯爵領を通る全物流が、今朝方完全に遮断されました」


 報告を聞いた瞬間、隣で肩を抱いていたアルヴィン様の気配が一変した。先ほどまでの温もりが嘘のように冷え切り、空気が張り詰めていくのを感じていた。


「バレンタイン伯爵か。リリアーナの実家という唯一の価値すら捨てて、こちらに敵対したということか」


「はい。背後には神聖オーギュスト帝国のフェルナンド皇子の存在があります。伯爵家は帝国の圧力に屈し、我が領へ向かう魔導触媒の輸送を停止しました。これにより、領内の魔導産業の半分が停止する恐れがあります」


 魔導触媒は、魔導具にとって欠かせない中核素材だった。実家であるバレンタイン伯爵家は、それを唯一産出する領地でもあった。追放された後も取引は続いていたが、それが完全に断たれたのだと理解した。


「なるほど。ならば簡単だ」


 アルヴィン様は静かに剣へ手を伸ばしていた。その表情には、恐れられた冷酷さが戻っていた。


「少し離れていろ。一時間もあれば伯爵領を地図から消してくる。跡形も残さない」


 そのままでは本当に実行しかねないと感じ、私はすぐに腕にしがみついた。


「お待ちください、アルヴィン様」


 必死に引き止めながら、冷静に言葉を選んでいた。


「力で解決すれば、相手の思惑通りになります。私たちを孤立させるための挑発です。実家がそのつもりなら、別の方法で対抗します」


 短く息を整え、はっきりと告げた。


「経済で、完全に封じましょう」


 まず私は、旅先で縁を結んだロセッティ王国へ連絡を取った。

 水の都の第一王子、ルカ殿下。敵対していたが、今では協力関係にある存在だった。

 魔導通信機越しの声は、意外にも明るかった。


『リリアーナ様。事情は聞いています。問題ありません。我が国の船団をすぐに動かしましょう。バレンタイン領を通らない海路を確保します』


「ですが、帝国の監視があるのでは」


『その点も心配いりません。潜水輸送艇を使います。通常の監視では見つかりません』


 その提案により、物資の流れは確保できる見通しが立った。

 通信を終えると、アルヴィン様は小さく鼻を鳴らしていた。


「妙な恩を売られたな」


「主、外から運ぶだけじゃ足りないよ」


 庭園の噴水から現れたシルヴァンが、穏やかな調子で言った。

 彼の手には、小さな種が握られていた。


「これは、この土地の月見草を改良したものだ。君の力を加えれば、鉱石の代わりになる触媒が作れる」


「植物から、触媒を」


「そう。毎日少しずつ魔力を流せば、純度の高いエネルギー源になる」


 発想は常識を覆すものだったが、同時に大きな可能性を感じていた。

 私はすぐに領内の人々を集め、新しい事業の立ち上げを宣言した。


「私たちの手で、新しい基盤を作ります」


 決意に応えるように、土地には新たな芽が広がっていった。


 一ヶ月後。

 本来であれば打撃を受けるはずだった公爵領は、むしろ発展していた。

 海路による交易は順調に機能し、新たな触媒は従来のものを上回る性能を示していた。商人たちは次々と訪れ、領地は活気に満ちていた。

 一方で、バレンタイン伯爵領は深刻な不振に陥っていた。


「手紙が来ている」


 アルヴィン様が一通の書簡を差し出した。


「助けを求めているようだ」


 内容を見なくても、想像はついていた。


「情を求める資格はありません」


 静かにそう告げ、私は机に向かった。

 そして簡潔に返書を書いた。


『ラザフォード公爵領は、すでに依存しておりません。契約違反に対する違約金は請求いたします。支払いが困難な場合は、領地の一部を譲渡していただきます』


 書き終えた手紙を見つめながら、迷いはなかった。


「容赦がないな」


 背後からアルヴィン様の声がした。

 そのまま抱き寄せられ、首元に息がかかった。


「だが、それでいい」


 低い声には満足があった。


「これで、実家の問題は終わりです」


 そう告げると、アルヴィン様はゆっくりと頷いた。


「ああ。次は帝国だ」


 短い一言に、次の戦いへの意志が込められていた。

 窓の外では、シルヴァンが静かに風を揺らしていた。

 すべてが整いつつあると感じていた。

 何も持たなかった自分が、今では選び、守り、勝ち取る立場にいる。その事実が、確かな実感として胸にあった。

 満ち足りた感覚が静かに広がっていた。

 平和は与えられたものではなく、自分の手で掴んだものだった。

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