28話
第28話 甘すぎる新婚旅行の延長戦
海辺の別荘での滞在も数日が過ぎていた。時間がゆっくり流れているはずなのに、アルヴィン様の想いだけは日に日に強くなっているように感じられ、胸の奥が落ち着かないままだった。
昨日の出来事を経て、彼の中で何かが決定的に変わったのだと、はっきりと分かったのです。
結果として、今日の私たちは別荘のテラスで過ごしていた。広い海を一望できる場所なのに、不思議と外の世界から切り離されたような感覚があった。
「リリアーナ、口を開けて。この果実は君にいいらしい」
差し出されたフォークを見て、わずかに戸惑いが生まれる。けれど視線の強さに逆らえず、静かに口を開いたのです。
「自分で食べられます」
「ダメだ。今はやってあげる」
その言葉に、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。過剰だと思いながらも、行為に込められた気持ちは伝わっていた。
口に入った果実の甘さと同時に、視線を強く感じる。食べている姿を見られていることに、落ち着かないような、でもどこか満たされるような、不思議な感覚だった。
「美味しいです」
「そうか」
短い返事だったが、声には満足がにじんでいた。指先で触れられたことに、思わず息が止まる。
自分の中にある意識が、一気に彼へと引き寄せられていくのを感じていた。視線をそらしたくても、うまくできなかったのです。
空気を壊すように、聞き慣れた声が割り込んできた。
振り向けば、そこにいるのはやはりシルヴァンだった。
彼の存在は騒がしいはずなのに、完全に二人きりになるよりも、少しだけ気持ちが楽になるのを感じていた。
「シルヴァン、見ていたのですか」
軽く注意しながらも、声に強さはなかった。
アルヴィン様の空気が変わるのを感じて、内心で小さく息をつく。
シルヴァンの言葉は軽やかだったが、内容には一理あると感じていた。
このまま閉じ込められることに、わずかな不安もあったから。
しかしアルヴィン様の返答は変わらなかった。
揺るがなさに、守られている安心と同時に、逃げ場のなさも感じていた。
シルヴァンの花が咲いた瞬間、美しさに思わず目を奪われた。
同時に、隣の空気が一気に重くなる。
その変化に、自然と体が強張る。二人の間に立つ自分の存在を、強く意識していた。
昼下がり、アルヴィン様に連れられて訪れた場所は、外界から切り離されたような静かな入り江だった。
波の音だけが響くその空間に、心が少しずつほどけていくのを感じた。
「ここは静かですね」
その言葉には、安心と同時に少しの寂しさも混ざっていた。
手を引かれながら歩く中で、その温もりがはっきりと伝わってくる。
この距離が当たり前になっていることに、改めて気づいたのです。
彼の言葉を聞いたとき、胸の奥が静かに揺れた。
自分がどれだけ多くのものを背負っていたのか、改めて思い知らされたから。
見つめられる視線から逃げることができなかった。
その中にある強い感情を、正面から受け止めてしまったのです。
「アルヴィン様」
自然と体が動いていた。
彼に寄りかかった瞬間、ようやく力が抜ける感覚があった。
安心している自分に気づき、胸の奥が温かくなる。
言葉を交わすたびに、この場所が特別なものになっていくのを感じていた。
抱きしめられたとき、力の強さに驚きながらも、拒む気持ちはなかった。
むしろ、その中にいたいと思っている自分がいたのです。
彼の誓いを聞きながら重さを恐れる気持ちはなかった。
それ以上に、想いを受け取りたいと思っていた。
波の音に溶けていく言葉が、心の奥に残っていった。
夜になり、テラスには柔らかな光が灯っていた。
夜の景色の中で、少しだけ現実に戻ったような気がした。
けれど、完全に二人きりにはならないことを、どこかで予想していた。
案の定、聞こえてくる声に、思わず小さく笑いそうになる。
このやり取りが続いている。
アルヴィン様の怒りを感じながらも、それを止めようとする自分の行動は自然だった。
「大丈夫です」
そう言ったとき、二人の間をつなぎたいという気持ちがあった。
アルヴィン様の言葉を聞いて、胸が少しだけ締めつけられる。
強さに戸惑いながらも、拒むことはできなかった。
「望むところです」
そう答えたのは、怖さよりも嬉しさの方が勝っていたからだった。
夜が更け、月が海を照らしていた。
その光景を見ながら、静かな時間が続いてほしいと願っていた。
隣にいる温もりが、何よりも確かなものに感じられる。
これから先の忙しさを思い浮かべながらも、その中でこの時間を大切にしたいと思ったのです。
肩を抱かれたとき、その距離が当たり前になっていることに気づく。
潮騒の音と、かすかに感じる精霊の気配。
すべてが、この時間を形作っていた。
満たされているという感覚が、胸の奥に広がっていく。
この先も続いていくのだと、自然に思えた。
「愛しています」
「ああ」
言葉は短くても意味は十分に伝わっていた。
唇が重なった瞬間、思考が静かに途切れた。時間だけが確かなものとして残っていた。




