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婚約破棄の慰謝料として呪われた公爵領を貰ったら、公爵様が超絶美形な上に私の魔力で呪いも解けて、幸せすぎて死にそうです  作者: おーちゃん


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27話

第27話 潮騒のハネムーン


 ラザフォード公爵領がようやく安寧を取り戻し、ステラやエリオットの気配がひととき遠ざかったある日のことだった。穏やかな空気が戻ってきたはずなのに、どこか現実味がなく、心の奥ではまだ緊張が解けきっていない感覚が残っていた。そんな中、アルヴィン様は執務机を力強く叩き、迷いのない声で言い放ったのです。


「リリアーナ、旅に出る。新婚旅行ハネムーンだ」


「えっ、ハネムーンですか。ですが、領地の復興はまだ道半ばで」


 反射的に出た言葉は、公爵夫人としての責任からだった。けれど同時に、彼と二人きりになれる時間への期待が、胸の奥で静かに揺れていたのも事実だった。


「セシルには一ヶ月分の魔導薬を渡してある。不眠不休で働ける代物だ。森の管理はあの精霊に任せればいい。君を独占したい。他人の視線も、精霊の気配も届かない場所で、ただ二人きりで」


 その言葉に込められた強い想いに、胸がわずかに熱くなった。断れないと分かってしまうほどの真剣さだった。彼が選んだのは、領地最南端にある公爵家所有のプライベートビーチを臨む別荘だった。


 そこは塩の魔力に満ち、大地の精霊シルヴァンの力が届きにくい場所であり、アルヴィン様にとっては完全に安心できる領域だったのです。


 数日間の馬車の旅の末に見えた海は、想像以上に美しく、思わず息をのんだ。胸の奥が開けるような感覚に、自然と足が前に出たのです。


「わあ綺麗海なんて、王都にいた頃も見たことがありませんわ」


 その瞬間、体が後ろへ引き寄せられた。


「待て、リリアーナ。日差しが強すぎる。君の肌が焼けたらどうする。それに、この風には魔力の乱れがある」


 過剰とも思える言葉に戸惑いながらも、奥にある不安や執着が伝わってきて、強く否定することはできなかった。


「アルヴィン様、それでは歩きにくいです」


 結局、体を寄せ合ったまま波打ち際へ進むことになった。広い海を前にしているのに、不思議と視界は狭く、彼の存在ばかりを強く感じていた。

 森の気配がないこの場所に、彼は安堵しているはずなのに、同時に何かを警戒しているようにも見えた。


「これであの気配もない。旅の間、君の視界に映るのは邪魔はいない」


 その言葉に、胸が小さく揺れた。嬉しさと同時に、重さを受け止めきれるかという不安もあったのです。

 そのとき、不意に場違いな声が響いた。


「ぷはっしょっぱい」


 現実に引き戻される感覚に、思考が一瞬止まった。海藻が人の姿に変わる光景に、驚きよりも先に納得がきてしまった自分がいた。


「シルヴァン」


 安心と呆れが混ざった気持ちが胸に広がる。隣では、アルヴィン様の怒りがはっきりと感じられた。


「なぜここにいる」


 シルヴァンの必死な言葉を聞きながら、心のどこかで、騒がしさに少しだけ救われている自分もいた。完全な二人きりよりも、この関係の方が自然だと感じてしまっていたからだった。

 蹴り飛ばされるシルヴァンを見ても、止めきれない自分に苦笑する。これがいつもの形なのだと、改めて思い知らされたのです。

 こうして、静かなはずのハネムーンは、結局いつも通りの始まり方をしたのです。

 翌日だった。穏やかな時間を過ごしているはずなのに、どこか落ち着かないのは、アルヴィン様の視線が常に自分に向けられているからだと気づいていた。守られている安心と同時に、逃げ場のない距離の近さに、わずかな緊張も感じていたのです。


「リリアーナ。水着を用意した。私の前でだけでいい、着てみてくれ」


 差し出された衣装を見た瞬間、胸が小さく揺れた。可憐ではあるものの、普段よりも肌が露出するその形に、どうしても視線を意識してしまう自分がいた。


「少し、恥ずかしいです」


 正直な気持ちを口にすると、アルヴィン様の表情がわずかに揺らいだ。見たいという欲と、見せたくないという独占欲がせめぎ合っているのが伝わってきた。


「ならば視線遮断の魔法を。いや、やはり駄目だ。露出が多すぎる」


 低く呟く声には、迷いと苛立ちが混ざっていた。


「今すぐ燃やして、別のものを用意させる」


 極端な言葉に、思わず苦笑がこぼれた。自分のためだと分かっていても、不器用さに少しだけ可笑しさを感じてしまったのです。


「それでは意味がありません」


 結局、ワンピース型の水着に加え、アルヴィン様のシャツを羽織ることになった。肌はほとんど隠れているのに、それでも彼の視線は外れない。そのことに、少しだけ落ち着かない気持ちになっていた。

 海辺に出ると、潮風が頬をなでた。心地よさに、ようやく肩の力が抜けかけたときだった。


「似合ってるよ、主。でも、そのシャツは少し邪魔だね」


 聞き慣れた声に、思わずため息がこぼれそうになった。振り向かなくてもわかった。

 同時に、隣の空気が一気に冷えたのを感じた。


「精霊、まだいたのか」


 アルヴィン様の声には、明確な敵意が込められていた。その変化に、胸の奥が少しだけざわつく。二人の間に流れる緊張は、いつも以上に鋭く感じられたから。

 シルヴァンの軽い調子とは裏腹に、空気は張りつめていく。

 その中で、自分がどう振る舞うべきか、一瞬だけ迷いが生まれた。

 しかし、アルヴィン様は私の前に立った。


「海を見るのは構わない。それ以外のものが君に触れることは許さない」


 そう言って広げられた魔力は、まるで壁のように周囲を覆った。景色は変わらないはずなのに、世界が切り離されたような感覚に包まれる。

 その中に閉じ込められているのは、自分なのだと気づいたとき、胸の奥がわずかに震えた。

 けれど同時に、中心に自分がいることに、言葉にできない安堵も感じていたのです。

 守られているのか、囲われているのか。

 その境界は曖昧だった。

 ただ一つ確かなのは、この距離の中にいる限り、自分は決して一人ではないということだった。

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