第23話 王都からの招待状
第23話 王都からの招待状
ラザフォード公爵領に、一通の封書が届いたのは、よく晴れた午後のことでした。金の縁取りがなされた手紙は、私を無能と呼び、泥を投げるようにして追い出した王都からの建国記念祭への招待状。記念祭に私を。
「ふむ。リリアーナ、これを見なさい。素晴らしい燃料だ。今夜の暖炉はよく燃えるぞ」
リビングのソファで私を膝に乗せていたアルヴィン様が、招待状を一読するなり、指先から漆黒の魔火を出して燃やそうとしました。
「待ってください、アルヴィン様。燃やさないで差出人は国王陛下ですよ」
「関係ない。国王だろうが神だろうが、君を再び汚らわしい場所に呼び出そうとする者は敵だ。大体、エリオットが死んだふりをして北に生存しているのに、のこのこと王都へ行くなど、罠に飛び込むようなものだ」
アルヴィン様は、私の腰をぎゅーっと締め上げ、首筋に深く顔を埋めました。もはや言葉というより、威嚇に近い吐息が漏れています。
「でも、エリオット様が生きているのなら、王都の警備状況も確認しておきたいですし、何より今の陛下がどうお考えなのか知っておく必要がありますわ。私、逃げたままでいたくありません」
私が決意を込めて見上げると、アルヴィン様は、
「ぐぬぬ」
という、公爵らしからぬ声を漏らしました。私の安全を思って言っているのはわかる。余計に王都に行くことも大事になる。エリオットを追放して元王子にした王都の考えを知りたい。
「分かった。リリアーナ、君がどうしても行くと言うなら同行する。行くには条件がある」
アルヴィン様が、真面目な顔、ただし瞳の奥には狂気的な独占欲が宿っていて、指を立てました。
「まず、王都に滞在している間、君は私から一メートル以上離れることを禁ずる。夜、寝る時はもちろん、食事の際も、なんなら舞踏会の最中もだ」
「一メートルって。それ、ずっとくっついているのと変わりませんわ」
「変わらないのではない。くっついているんだ。君の腰に手を回したまま離さない。それと、君を色目で見つめる男がいたら、その場でそいつの視神経を魔力で焼くが、それは許可してくれるね」
「許可しません陛下に怒られますわ!」
アルヴィン様の独占義務法が次々と提案される中、窓の外からひょっこりと銀髪の美男子が顔を出した。
「おやおや、公爵の愛は相変わらず重たすぎて地面にめり込みそうだね。主、王都へ行くなら僕に任せてよ」
シルヴァンが、窓枠に座ってクスクスと笑いました。
「僕が馬車に擬態して君を運んであげるよ。僕の一部である、つるを座席に這わせて、君を優しく誰の目にも触れないように包み込んで運ぶ。どうだい、窓のない密室の移動式植物園だよ」
「シルヴァン、それはただの動く檻ですわ」
私が呆れると、アルヴィン様が窓を開けてシルヴァンを突き飛ばそうとしました。
「馬車があるのに、わざわざ得体の知れない植物の塊に乗せるわけがないだろう。それに密室など認めない。リリアーナと二人きりの空間に、精霊を挟ませることはない」
「公爵こそ、君の馬車じゃ目立ちすぎて、主がまた変な連中に囲まれるよ。僕の力なら、王都のど真ん中でもただの森が移動しているだけだと思わせる隠蔽魔法が使えるんだ」
「移動する森の方がよっぽど目立つだろうが!」
一人は重すぎる夫と一人は過保護すぎる精霊の二人の美形が、窓際で火花を散らす光景は、もはや公爵邸の名物となっている。執事セシルさんは、
「もう勝手にしてください」
と言い、おかわりの紅茶を置いて去っていきました。私も同じ意見です。
色々としあって結局、数日後。私たちは王都へ向かうことになりました。その光景は、視察ではなく出兵でした。
中心には、アルヴィン様が魔力を込めた鉄壁の防御を誇る豪華な馬車。周囲を、全員殺気立っているラザフォード公爵家の精鋭騎士団が取り囲みます。
さらに、馬車の屋根には、小さな苗木に擬態したシルヴァンがちゃっかりと根を張っていました。屋根にいるのはアルヴィンも認めると思う。私を見ていないのだし。
「主、安心して。君の馬車の周りの空気は、僕が常に浄化してあげているからね。王都の不浄な匂いなんて、一嗅ぎもさせないよ」
「おい精霊、屋根から降りろ。重いんだよ、馬が可哀想だろう」
「公爵こそ、馬車の中で主の隣にぴったりくっつきすぎて、主の体温を上げすぎじゃないかな。君の方がよっぽど暑苦しいよ」
馬車の中では、アルヴィン様が私の腰を抱き寄せ、私の膝の上に頭を乗せるという、徹底的なマーキングを行っていました。
「あ、アルヴィン様。王都の門が見えてきました。そろそろ姿勢を正して」
「嫌だ。王都に入る瞬間から、不機嫌な死神として振る舞うことに決めた。そうすれば、不届きな貴族たちも君に近寄るまい」
「お願いですから、普通にしてください」
こうなるといくら言っても無駄になる。
王都の正門を潜ると、私を見下し笑った貴族たちが、馬車を見てざわめき出しました。なんて言うかな。
「おい、あれが追放されたリリアーナ様か?」
「隣にいるのはラザフォード公爵。噂以上の美貌と、恐ろしい魔圧だ」
馬車から降りる際、アルヴィン様は私の手を引くどころか、もはやお姫様抱っこで地面に降ろそうとしました。
「アルヴィン様、自分で歩けます!」
「ダメだ。王都の石畳は、君の清らかな靴の裏を汚す」
「公爵、流石にそれはやりすぎだよ。主、僕が花の絨毯を君の歩く先に敷いてあげるから、公爵の腕から降りなよ」
足元から芽吹こうとするシルヴァンの花々と、私を離そうとしないアルヴィン様のやり取り。無能と呼ばれた令嬢は、今や世界で最も重い愛を持つ二人に守られ、王都のど真ん中で最大の注目を浴びている。恥ずかしいです。
そして視線の中には、どこか北の冷たい風をはらんだ、歪んだ眼差しが混じっているのを感じる。アルヴィン様とシルヴァンは同時に察知しましたようです。
「リリアーナ。離れるなよ。君を狙う鼠は、一匹残らず踏みつぶす」
「主、僕もいるからね。さあ、王都の連中に、真の聖女の眩しさを見せつけてやろう」
コメディのような騒がしさの裏側で、三人の絆はさらに強固なものになっていた。エリオットの陰謀など過保護すぎる包囲網を突破することなど、到底不可能であることを思い知らせるために、私たちは王宮の階段を一歩ずつ、堂々と登っていきました。
賑やかな守護者たちがいる限り、私は一歩だって後ろには退きません。
「さあ、行きましょう。アルヴィン様、シルヴァン!」




