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精霊の奏者  作者: ゆきあさ


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時の大精霊

来ていただいてありがとうございます!




それは全て一瞬の出来事だった。


黒い礫が飛んでくる。


「セシリーっ!!」


ゲイルとウィリディス様が私を守るように立ちふさがり、フィルが覆いかぶさるように私を抱きしめた。

「待って!違うの!私じゃない!」

叫んで、もがいてフィルの腕を外そうとしたけど、体に力が入らない。マーシーから放たれた黒い礫はものすごい速さで弧を描いてフィルの背中に入っていってしまった。

「っ……」

「フィルっ!……フィル?!」

私を抱き締める腕が緩んで青い瞳が閉じられていく。草が擦れ合う音がしてフィルが倒れた。

「…………っいやぁぁぁっ!」

必死で体を起こしてフィルを揺さぶった。駄目!駄目!駄目!

「フィルっ!起きて!目を開けて!」

何度呼びかけてもフィルの目は開かない。


セレーネさんの声が聞こえたのと同時に聞こえたマーシーの声が脳裏に蘇る。


『フィル様は渡さない……あんたなんかには……私だけのものよ……』


マーシーの狙いは私じゃない。フィルだったの。涙が溢れて止まらない。





「恐らくこのブレスレットが呪具だったのでしょう」

ぐったりとしたマーシーの手首から外された石を連ねたブレスレット。その内の透明な四つの石がひび割れていて今にも零れ落ちそうになってた。ルネ・セレーネ様は黒い精霊の気配がわかるらしく、王都からそれを辿ってここまで来たんだそう。

「この少女に憑いていた黒い精霊はセシリーさんのリュラ―の演奏で清められましたが、この呪具は……」

マーシーはおまじないの石を手放してなかったんだ。

「どうしてオルコット嬢の清めはそいつに効かなかったんだ?」

マーシーの体を小脇に抱えたマーク・ケイジ様が眉を顰めた。

「恐らくは、オルコット嬢の意識と精霊の属性の問題かと思われますが、私にもはっきりとしたことは申し上げられません」


「そんなことより!フィルは?フィルはどうなってしまったんですか?!もう一度演奏すれば目を覚ましますよね?」

私はリュラ―を引き寄せて、支えにするように起き上がった。


「これは『呪い』です。術者が何を望んだのかはわかりませんが、もしもそれが彼の命を奪う事だとしたら、解呪は……難しいかもしれません……」

「えー?どうしてー?!時間はかかるかもしれないけど、セシリーならできるでしょー?」

「そうか、時間か……」

「ご明察です。緑の大精霊様」


「どういうことですか?」

声がふるえてるのが自分でもわかる。これから聞くのは今私の膝の上で眠っているフィルについての決定的なことだ。セレーネ様の暗い顔は私を絶望の淵へ追いやっていく。

「セシリーになら清められるだろう。だが、人の魂の奥底に入り込んだ精霊を清めるのは時間がかかりすぎる」

辛そうな表情のウィリディス様が眠っているようなフィルの顔を見つめた。

「この街で襲われた人達の中には昏睡に陥って目覚めるのに時間がかかった人もいたとか……。彼らは黒い精霊に外傷を負わされただけでしょう。ですが、オルブライト様の場合は完全に中に入り込まれてしまっています。しかも幼いとはいえ精霊四体分の呪いです。それを清めるとなると……恐らくそれまで彼の体がもたない」

セレーネ様の言葉の意味がゆっくりと頭に染み渡る。


「あ……」

黒い精霊に傷つけられたデリクは眠ったり起きたりを繰り返していた。フィルは体の中に黒い精霊が入ってしまったから、もっと酷い状態だってこと?眠り続けて起きなかったら水も食事もとれないから、いずれは……。

「そんな……そんなの嫌っ!フィルっ!起きて!目を開けてよ!」

私は私の声が草原に響くのをただ空しく聞いている事しかできなかった。泣いてすがってどれくらいの時が経っただろう。私はもう一度リュラ―を手に取った。


「セシリー、頑張るの?」

「うん、ゲイル。私にはこれしかできないから」

フィルをそっと草の上に寝かせて、まだ重い体、ふるえる指でリュラ―をつま弾いた。音に集中すると目の前に見えてきた光景がある。フィルの胸の辺りに黒いもや。その中に青銀色の小さな光がある。あれがフィルの心?魂?黒いもやはそれに近づかせないように私の白い音を弾き返してくる。少し力が弱まると別の黒いもやが出てきて邪魔をしてくる。これじゃあ、きりがないわ。こうしている間にもどんどんフィルが弱っていっちゃう。どうしよう、どうしよう……。


「セシリー、そんなに泣かないで。セシリーが悲しいと僕も悲しいよ……」

ゲイルが空に向かって嘶くと、いつの間に戻ってきたのか、それまで遠く離れていた精霊様達が呼応するように一斉に空へ向かって飛び立った。


星の聖地の草原に一筋の光がさしたかと思ったら、空が明るく虹色に輝き始めた。

「何だ?!何が起こってるんだ?!」

「なんて美しい空だ……!」

「何あれ?!精霊なの?」

演奏を終えて岩のステージから下りてきていた団員達が声を上げ始めた。


虹色の光の中から、白い鳥の翼の生えた人がゆっくりと舞い降りてくる。男性とも女性ともつかない全身真っ白な服装に虹色の光を映しててとても綺麗……。たぶん大精霊様だよね?手には不思議な形のロッドを持ってる。


「なんと稀なことよ……」

ウィリディス様が驚いて目を見開いてる。

「緑の大精霊殿、あの方は一体?」

セレーネ様がそっと尋ねると、ウィリディス様は翼のある虹色の大精霊様から目を離さないままで答えた。

「あの方は時の大精霊様じゃ。時の聖地を総べるお方。……かつて一度だけお姿をお見かけしたことがある。お出ましになられるとはなんと珍しい……しかも人の世界に……」

時の大精霊様……?そっか、時を司る精霊様もいらっしゃるんだ。時の聖地っていうくらいだものね。でも教科書には記述が無かったような気がするけど、私が見落としてただけ?

「ねえ、フィルは知ってた?」

目を閉じて微動だにしないフィルの姿にまた涙が込み上げてくる。


「時の大精霊様ー!助けてください!フィルが大変でセシリーが泣いてます!」

「こりゃ!ゲイル!お前には礼儀作法をあれほど教えたというのに!」

「だってー!セシリーが今泣いてるんだよ!」

「…………何なんだよこれ。俺は一体どうすりゃいいんだ」

マーク・ケイジ様はマーシーを抱えたまま途方に暮れているようだった。私もフィルを見つめたまま動けない。


時の大精霊様は私達の頭上へやってくると、優し気に微笑んだ。長い髪と服の裾がふわふわと風になびいてる……あれ?お顔も服の丈も髪の長さもさっきと違うような……?あ、また変わった?私の目がおかしいの?不思議な精霊様……。



『皆に呼ばれたの……あまりにも悲し気だから……一度だけ力を貸しましょう……だからもう泣かないで…………』


瞳を閉じた時の大精霊様がロッドを振るうと、虹色の光が私とフィルを包んで……そして何も見えなくなった。

















ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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