変貌
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ルネ・セレーネは城の外に飛び出して空を見上げ、目を閉じた。
「どこだ……?星の聖地の街で事件が起こっていると言っていたが、黒い精霊ならばどこに潜んでいてもおかしくは無い」
必死に黒い精霊の気配を探るが、今いる辺りでは何も感じられなかった。
「アクロアイト王国の王都にはいない……。どっちだ?やはり星の聖地の街なのか?」
焦るルネ・セレーネの背後に巡警吏のリーダー、マーク・ケイジが追い付いてきた。
「ここはヴァシスベリル王国では無いのだ!勝手な行動をされては困る!大体、今回はあの呪具を……」
「少し静かにしててください!あの封印はとっくに破られているっ!!封印の力が弱かったのか、黒い精霊の力が予想より大きかったのか、あるいはその両方か……」
「は?封印が?では呪法は、あの黒い獣は野放しということか?」
「黒い精霊、です。呪法と人間の欲で黒く染められた精霊です。恐らくどこかに潜んで力を取り戻しているのでしょう」
「何だって?!あの黒い獣は人を襲うんだ。危険じゃないか!今はどこにいるんだ?!」
「だから今はその気配を探しているのです……っ?!!」
事態を把握したマーク・ケイジはルネ・セレーネを怒鳴りつけ、イライラしながらルネもそれに言い返す。
その時、爆発的に黒い気配が放出されるのをルネ・セレーネは感じ取った。
「……あちらの方角には何が?!」
震える指が空を差す。ルネ・セレーネの顔色は真っ青だ。明らかに今までと様子の変わったルネ・セレーネに戸惑いながら、マーク・ケイジは答えた。
「あっちには……星の聖地がある」
「やはりか!私をそこへ連れて行ってください!急いで!」
「わ、わかった」
ルネ・セレーネのただならぬ剣幕に押されて、マーク・ケイジはただ頷くことしかできなかった。
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「マーシーから黒い煙?ううん、炎が出てる?」
「セシリー、下がって。危険だ」
黒い炎のようなものは、あっという間にもっと濃く大きくなってマーシーの背丈を超えるほどになった。そして完全にマーシーを包み込んでしまい、次第に何かの形を取り始めた。あれ?これってもしかして私とディオン君を襲った黒い精霊と同じ顔?でもあれって確か封印されたんじゃなかったっけ?どうしてマーシーにくっついているの?それとも全然別の黒い精霊がまだいたの?
「これは……あの時と同じ獣?獣の頭をした人間か?」
「やっぱり、フィルもそう思う?同じ顔をしてるよね?あ!ロージーとデリクを襲った黒い人って、もしかして……!」
「ああ、今僕も同じことを考えたよ。それにしてもおぞましい姿だな」
フィルが眉を顰める。黒くて大きな耳、大きく裂けた口の中は血の様に赤く、こちらを見つめる目は光が無い深い闇色。でも体は人間みたい。
「これが本当に精霊なの?」
「とてもそうは見えないね」
いつも演奏を聞いてくれる精霊様達と全然違う。これが呪法で変えられてしまった黒い精霊……。それに。
「マーシーはどうなっちゃったの?」
「わからないけど、彼女も呪法や呪術を行っていたようだね。それを制御できなくなったのかもしれない……」
「そんな……!」
あのお呪い石を手放してなかったってこと?どうしよう。もっとちゃんとマーシーと話をしておけばよかった。
「フィル様?なんでそんな顔で私を見るの?」
黒い精霊からマーシーの声が聞こえる。
フィルが私の手を引き寄せて背中に庇いながら、少しずつ後ろに下がりマーシーから距離を取った。カフェテリアの中はこちらに気が付いて騒いだり逃げ出す人達もいてパニック状態だった。あっという間に私達以外の人がいなくなる。ロージーやデリクみたいに襲われたら大変だから、人の少ない時間でまだ良かったのかもしれない。
「酷いわ……まるで汚い虫を見るみたいに……そんなにセシリーがいいの?」
黒い精霊が私を睨んだように見えた。その瞬間黒い何かが飛んできて私を貫こうとした。
「セシリー!!」
「フィルっ!?」
私を庇ったフィルに当たった黒い何かは、澄んだ音を立てて消滅した。
「フィルっ!大丈夫?!」
「ああ、何ともない。これのおかげかな」
そう言ってフィルがポケットから取り出したのはエルベ先生からもらった白いお守り石だった。
「割れちゃってる……」
「どうやら効果は一回だけみたいだね」
フィルは苦笑いした。石は真っ二つに割れていて、心なしか白濁しているように見えた。それを見た瞬間、心底ゾッとした。
「フィル!無茶しないで!」
「それは無理かな。セシリーを危険な目にあわせるわけにはいかない。もう二度とあんなのは御免だ。……ああ、泣かないで」
フィルは私を抱き寄せて一度だけ私を見ると、また黒い精霊に視線を戻した。
「今のうちに逃げるよ、セシリー」
「あ……」
黒い精霊が胸を押さえて苦しそうにしてる。もしかしたら精霊もマーシーも苦しいのかもしれない。何とか助けてあげられないの?。私はテーブルの下に置きっぱなしのリュラ―のケースを見た。
「なんで庇うの?!こんなのイヤッ!わたしをミないでっ!」
叫んだマーシーが黒い精霊の姿のまま、カフェテリアの窓ガラスを突き破って走り去っていった。
「駄目!マーシー!!待って!」
「セシリーっ!駄目だ!!」
フィルが止めるのも聞かずに、リュラ―のケースを掴んだ私はマーシーを追いかけて走り出した。
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