そんなの比べられないよ
来ていただいてありがとうございます!
「マーシ―は大丈夫かな」
「巡警吏達が調べて国内に流通してた呪具を全て回収したはずだから、大丈夫だと思うよ」
任命式を終えて、急いで星の聖地に帰ってきて、すぐにロージー達のお見舞いに行った。コリンナ様達の無事を確認したらマーシーに会うためにポロス学園へ急いだ。でも三年生の教室には誰もいなかった。
「そういえば三年生は個人レッスンが主になるから、今の時間はまだ練習室にいるんじゃないかな」
「そっか、そうだよね。まだ午後の授業中だよね」
慌ててたせいで、学園の時間割の事を考えてなかった。今はもうお茶の時間に近い時間だから、もうすぐ授業が終わるはず。
「大丈夫だよ。今の所学園の生徒で襲われたりしたのは、あの二人だけのはずだから。他に何かが起こっているという情報は入ってない」
「そうだね」
たぶんマーシーはあのおまじない石を手放してくれてると思う。きっと大丈夫だよね。
「じゃあ、カフェテリアでお茶でも飲もう。昨日は任命式、今日は朝から診療所や星音の宮へ行ったりと忙しかったから、少し休んだ方がいい」
「ごめんね、付き合わせて……。フィルも疲れてるよね」
「いや、みんなや街の様子は僕も気になってたから」
フィルは元気がないみたいに見える。星音の宮で昼食をとった時もあまり食が進んでなかったから心配だ。
カフェテリアは午後の授業中だということもあって、人影はまばらだった。それでも、お茶のトレーを持って歩いていたら、何人かの生徒達に「婚約おめでとうございます!」って祝福の言葉をかけられた。フィルは笑顔を浮かべていたけど、やっぱり少し顔がこわばっているように思える。やっぱりちゃんと話をしなくちゃ。私は覚悟を決めた。
私達は観葉植物が並べられたちょっと個室になっているような席に座った。
「フィル、あのね、その、婚約のことなんだけど……」
思い切って切り出してみた。怖いけど、フィルが困っているならその原因を取り除いてあげたかった。一応私達の婚約のスタートはお互いの男除け女除けの為だった。フィルは私をちゃんと婚約者として扱ってくれてたけど、もしかしたらそういう演技をしてたのかもしれない。ちょっと誤解しかかってたけど、ちゃんとそのつもりだから、悩まなくても大丈夫だよって。他に好きな人がいるなら気にしないでって、伝えるつもりだった。お茶のカップの取っ手をぎゅっと握りしめてはなし始めようとしたんだけど……。
「セシリーはヴァシスベリルへ行きたいの?」
「え?」
いきなりの問いかけについ言葉に詰まってしまった。ヴァシスベリルに行きたいか行きたくないかと言われたらそれはもちろん……
「行きたいとは思ってるけど、でもそれは今じゃなくて、それに今はその話じゃなくて……」
「行って精霊を助けたいんだね。でもそれはやめておいた方がいいよ」
私の言葉にかぶせる様なフィルの言葉はどこか冷たい。飲みかけのお茶のカップをソーサーに置く時に、少しだけ耳障りな音を立てた。イライラしてるのかな。フィルがそんな音を立てるのは珍しいから戸惑ってしまった。
「……えっ、と……どうして?」
閉じ込められた精霊様達を助けたいのはみんな同じだと思うんだけど、フィルは違うの?
「あの清めの演奏の後、意識を失うように眠ってしまったよね?恐らくあれを続けたら君の命が危険になってしまうと思う」
「それは、確かに物凄く疲れたけど、まさかそこまでは……。ちゃんと修行とかすれば大丈夫なんじゃないかなって思ってるんだけど」
フィルが言ったことは私もちょっと不安だったことなんだよね。でも無理しない程度に頑張ればよくないかな?それこそ、みんなで演奏会を開けばみんなの力で清めることができるかもしれないし。あ、それならセレーネ様に呪具にされてしまった精霊様を連れてきてもらえばよくないかな?そうだよね!闇の聖地にも音楽部があるし、花の聖地にも音楽隊があるんだから、みんなで協力すればいいんじゃないかな!
「じゃあ、こういうのはどうかな?闇の聖地から……」
「星の音楽団に所属してるのに、よその聖地に行きたいなんてずいぶん我儘なのね。しかも婚約者のオルブライト様を放り出していくつもりなの?酷い人ね、セシリーって」
また遮られた……。でもカフェテリアに現れたのは話をしたかったマーシーだった。
「マーシー!会えて良かった、私、聞きたいことがあって……」
「オルブライト様!こんな子やめておいた方がいいです!セシリーはオルブライト様を大切に想ってないんだわ!好きなら離れたくないはずですもの!」
マーシーは立ち上がって近づいた私を全く見ずに、フィルを見つめてる。でもちょっと待って!今の言葉は聞き捨てならない!
「そんなことないわ!」
「……セシリー?」
フィルも立ち上がって私の隣に立った。
「私はフィルのこと、大切に思ってる」
「へえ!精霊やリュラ―よりも?」
まるで煽るようなマーシーの表情は今までに見たことがないものだった。
「それは……」
「…………」
フィルは顔を背け、マーシーはふふんと勝ち誇ったような笑顔を浮かべてる。
「そんなの……比べられないよ。だってどっちも同じくらい大切で失いたくないから……」
そう。私は精霊様を助けたい。それに、フィルとも一緒にいたい。やっと自分の気持ちがわかった。私はフィルのことが……。
両方大事なんてきっとダメな答えなんだろうけど、今の私にはこう答えるしかできない。
「あはははははっ!ほらね!その二つを天秤にかけてる時点でもう駄目なのよ!フィル様!セシリーはこういう子なんです!やっぱりやめた方がいいです!私の方がずっと……」
「セシリー、今の本当?」
「え?」
何だかフィルの顔がぱっと明るくなった気がする。青い目がキラキラして、喜んでるみたい……?
「本当なのか?」
「えっと?」
「比べられないって言ったよね?」
打って変わって真剣な表情のフィル。戸惑う私。
「うん。ごめんね。どっちも大切だから。精霊様もフィルも」
「ありがとう!婚約は解消しない!そのまま続行だ!」
「へ?」
「はぁ?フィル様正気ですか?今この子はフィル様が最愛じゃないって言ったんですよ?!」
マーシーは信じられないという顔でフィルを見た。
「十分だ。セシリーの中で僕は精霊と並んだんだから」
「?」
「何をおっしゃっているんですか?!フィル様!」
「それ、やめてくれる?」
「え……?」
「僕はセシリー以外にそう呼ぶことを許可してない」
氷みたいに冷たい声と視線が怖い。
「そんな……フィ、オルブライト様……」
「勝手に婚約を正式発表したから怒ってるかと思ってたけど、このままでいいんだよね?セシリー?」
私の方を振り向いたフィルの顔は満面の笑みだった。
「え、うん。フィルがいいなら、私は……んっ?!」
「なっ!!」
…………って今、フィルなにしたの?なにしたの?なにしたのー???唇に温かい感触……キスされたんですけど???!!
「こ、こ、こんな、ひ、ひ、人前でっ!」
「ごめん。つい、嬉しくて!じゃあ、次はうちの屋敷でゆっくりね」
「そ、そういうことじゃなくて!」
「照れなくてもいいよ、セシリー」
「ふざけないでよ……なんで全部持ってくのよ……星の音楽団も星の奏者も…………フィル様まで!全部私のだったのに…………」
ブツブツと小声で呟くマーシーは俯いているせいで表情が見えない。
突然、黒い炎みたいな影がマーシーから噴き出した。
「マーシー?」
「まさかこれは……」
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