やっぱり
来ていただいてありがとうございます!
「コリンナ様、大丈夫かな」
「怪我はないらしいから、たぶん」
一体この街で何が起こってるの?
ロージーとデリクのお見舞いを終えたフィルと私は馬車で星音の宮へ急いだ。ちなみにロージーのケーキはフィルが手配しておいてくれたそうだ。
「なんかごめんね。うちの妹がわがままで」
「もうじき僕の本当の妹になるんだから、構わないよ」
フィルは笑いかけてくれるけど、すぐ目を逸らしてしまう。いつもなら隣に座るのに今日は向かい合わせで窓の外を見てばかり。やっぱり、本当に結婚ってなると嫌だったんじゃないかな……。何だか泣きたくなってきちゃった。
ほどなくして星音の宮に着いたフィルと私はしばし絶句した。
「………………………………えっと、何これ……」
「………………………………うん、何だろうねこれは……」
星音の宮ではまた宴会が開かれていた。食堂の壁には『おめでとう!新たな星の奏者誕生!!』って書いてある、使い古したような大きな看板が掛けてある。
「あら、セシリー!フィル君!おかえり!!演奏と任命式ご苦労様!」
お酒の入ったグラスを片手にジョディ―さんがこちらへやって来た。
「何の騒ぎなんですか?これは」
フィルが眉をひそめてジョディ―さんに尋ねた。
「お祝いだよ、お祝い!」
近くのテーブルではクラークさんが肉料理のお皿を抱えてる。
「王家が認めた星の奏者や歌姫、歌い手が増えると王国からの助成金が増えるんだよ!」
「本当!助かるわー!」
ジョディ―さんはグラスの中身を一気に飲み干した。
「ああ!そんなに一気に飲んじゃダメですよー!」
そう言って止めたミルンさんも手に持ったグラスの中身を一気にあおった。うん。もうみんな出来上がってるみたい……。
「とりあえず、ハミルトン嬢の所へ行こうか……」
「うん、そうだね」
フィルと私は騒がしい食堂を後にして、コリンナ様がいるという練習室へ向かった。
「まだまだですわ!!エルベ先生!アスール様!アーデル様!もう一度合わせますわよー!!」
練習室の扉は閉まっているのに、コリンナ様の声が聞こえる。
「どうやら、本当に心配は要らなかったみたいだね」
「うん。お元気そうで良かった」
ロージーやデリクの様子を見てかなり不安になってたけど、大丈夫だったみたい。
「それって……」
「ええ。あの時の黒い獣に似てましたのよ?でもちょっと違ってたと言いましょうか……」
「全く同じものとは言えないような気がしたよ」
練習の手を止めて休憩室に行き、みんなでお茶を飲みながらコリンナ様達に起こったことを教えてもらった。アスール様とコリンナ様はお城の舞踏会に出席した後、一緒に帰って来た所で黒い獣(?)に襲われたのだそうだ。そこを助けたのがエルベ先生だった。
「あれはたぶん黒い精霊だよ。この守り石が効いたからな」
「エルベ先生?」
どうしてエルベ先生がそれを知ってるの?
「エルベ先生は黒い精霊についてご存知なんですか?」
「お?オルブライトも知ってるのか?」
エルベ先生は心底意外そうな顔でフィルを見た。
「実は王都でセレーネ家の人間と会いまして……」
「セレーネ家!」
ディオン君もお茶のカップを両手で持ったまま呟いた。
フィルの説明を聞いたエルベ先生とディオン君は顔を見合わせてた。二人ともヴァシスベリル王国の出身で、セレーネ家のことを知っているらしかった。コリンナ様とアスール様を助けた白い守り石もヴァシスベリル王国ではよく知られたものだそうだ。
「お前達もこれを持っておけ。黒い精霊はどうやら星の聖地に関係ある奴らを襲ってるようだからな」
エルベ先生はそう言って半透明な白い石を二つテーブルに置いた。
「え?他にも誰かが襲われたんですか?!」
「ああ、オルコットやヘイズの他にも確かどこかの料理人が襲われたと聞いたな」
「料理人?」
料理人って、どこかのお屋敷の?それともどこかのお店の?まさか星降り亭じゃないよね?後で確かめに行きたい。
「それにしても……、前にセシリーやアデール君を襲った黒い精霊の他にもまだいたのか」
「前のヤツは封印されたと聞いてるが、それは本当なのか?」
「詳しい事はわかりませんが、そう聞いています。アクロアイト王国にも封印できる人間がいると」
「うーん……」
フィルの言葉を聞いてエルベ先生は難しい顔をした。
「どうかなさいましたの?エルベ先生」
「精霊を封じるのには強い力が必要なんです。ましてや呪法で強化育成された黒い精霊ならばそれはとても難しいと思われます」
コリンナ様の問いかけにディオン君が答えた。ディオン君も結構詳しいみたい。闇の聖地のあるヴァシスベリル王国ではみんながそういうのを教わるのかな。
「……では、以前の黒い精霊の封印に失敗してる可能性があると?」
「何とも言えんが……とにかく、くれぐれも単独行動は避けろよ」
コリンナ様達やロージー達を襲ったのは黒い精霊の可能性が高くなった。でもどうして?そして誰がこの呪法を始めたんだろう。
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「何ですか?!これは!!」
ルネ・セレーネは普段に似合わない大声を上げた。その表情には焦りが浮かぶ。彼の手には呪具であるという金属のプレートがのっていた。封印されたと言われていたそれは簡易な魔方陣が描かれただけの薄布でくるまれ、布袋の中にしまわれていただけだった。それはとても封印とは呼べない状態で。もっと力の弱い小石のような呪具であるならば、かろうじて留めておけるというような封印だった。
「最悪だ……いつだ……?いつから?もし長い間潜伏していたとしたら……」
恐ろしい考えがルネ・セレーネの頭に浮かぶ。
「どうかなさいましたか?随分大きな声が聞こえていましたが」
心配顔で城の地下倉庫の一室へ入ってきた巡警吏のリーダー。マーク・ケイジが眉をひそめた。
「おっ!それを出して大丈夫なのですか?ん?あの犬の絵が消えていますね」
「っ!」
「犬の絵?!消えているとはどういうことですか?!」
穏やかそうな青年が、ケイジの胸倉をつかまんばかりに迫って来る。
「お、落ち着いてください!セレーネ殿。この金属板には黒い犬みたいな絵が描かれていたんですが、今はないのです。呪法の効果が消えたのでしょうかね?」
「何を呑気なことをっ!この国で何か異変が起きているということはないですか?!」
「そういえば最近になって星の聖地の街で……」
ケイジの言葉が終わる前にルネ・セレーネは地下倉庫を飛び出していた。
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