襲撃
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※ロージーとデリクのお話になります。
「いくらお姉様が素晴らしい方だからって、ちょっとマナーがなっていらっしゃらないのではなくて?」
「そうですわね。セシリー様は精霊界に招かれるほどのリュラ―の奏者でいらっしゃいますわ。あのフィル・フィランダー・オルブライト様に選ばれるのも納得できます。でも貴女は……」
「婚約者のいる殿方と不必要に接触してはいけません。オルブライト様以外の方にもですわ。オルコット様はあまり貴族社会のマナーやルールをご存知ないようですし、わたくし達がお教えしますわ」
クラスの女子生徒達に囲まれたロージーは不満げに顔を歪めた。
「結構ですわ!」
「まあっ!なんて失礼な!」
「せっかくわたくし達が忠告して差し上げてるのに」
「お待ちになってオルコット様!これからまだ授業が」
ロージーは大きな音を立ててドアを開け、朝の教室から大股で出て行った。その後をロージーのカバンを持ったデリクが慌てたようについていく。
「何よあれ?!」
「ロージー落ち着いてよ。いくら腹が立ったからって授業をサボるのは良くないよ」
「うるさいわね!お姉ちゃんが簡単に入団できたんだもの!私だったら学園に通わなくても星の音楽団なんて楽勝よ!」
「でも、試験を受けるには学園で実績を積んで、推薦状を三通集めないといけないんだよ?ちゃんと授業に出た方がいいんじゃないかな」
「そんなの!エクランド様に頼めばきっと何とかしてくれるわよ。問題ないない!」
「ロージー」
「うるさいわね!だったらデリクだけでも学校に戻れば?私は街に遊びに行くから!」
「仕方ないなぁ……」
デリクはため息をつき、ロージーの隣を歩き始めた。
入学当初からポロス学園の一年生の間ではロゼット・オルコットは目立つ少女だった。
最初はあのセシリー・オルコットの妹ということで、その音楽の才能がどんなものかとかなり期待されていた。しかし授業も回数を重ねてくるとその実力は周囲の生徒達とさほど変わらないことが知られ、次第に注目されなくなっていった。入れ替わるように今度は彼女の悪評が立つようになる。ロージーがクラスメイトの男子達に節度を超えたふれあいをするようになったからだ。たちの悪い事に可愛らしい顔立ちのロージーが笑いかけると、男子生徒達も悪い気はしないらしく、喜んで相手をするようになってしまった。女子生徒達の間での評判は最悪になった。「婚約者がいながら男漁りをする少女だ」と。
「はあ、私も王都へ行きたかったわ」
「王都なら入学試験の時に行ったじゃないか」
星の聖地の街を歩き回ったロージーとデリクは、街で一番大きなカフェに入ってお茶とケーキを楽しんでいた。ロージーの前にはデリクが注文した色とりどりのケーキがいくつも並んでいる。
「あの時は試験を受けただけじゃない!私は遊びに行きたいの!この街も悪くないけど、王都の方がずっと華やかじゃない!」
「まあ、街の規模が全然違うよね。でかい屋敷も多いし」
「私もあんなお城みたいなお屋敷に住みたいわぁ。フィル様のお屋敷に行くのが今から楽しみ!」
「……本当にセシリーからオルブライト様を取る気?」
「別にフィル様じゃなくてももっと高位の貴族でもいいのよ?でもお姉ちゃんを選ぶくらいだからフィル様なら簡単だと思うんだ」
「…………そう」
「ちょっと!約束したよね?デリクだってお姉ちゃんとよりを戻せばお金持ちになれるわよ?なんたって、お姉ちゃんは星の奏者なんだから!お姉ちゃんじゃなくても、他の貴族令嬢と仲良くなれれば、貴族にだってなれるかもしれないわ!私もね!ああ!夢が広がるー!」
「そんなに簡単じゃないと思うけど」
デリクは呟いてカップに口を付けた。ロージーには聞こえなかったようで、ケーキの一つを一口食べて顔をしかめ、すぐ別のケーキにフォークを突き立てた。注文したものを完食する気はないようだ。
(勿体ないな。前は小さなケーキでも喜んでくれてたけど、今はご馳走しても感謝もされない……。それにしてもセシリーはどんどん綺麗になってるなぁ。オルブライト様の影響なのかな。あんな風になるなら僕だって……)
「ちょっと!デリクったらしっかりしてよね。デリクがお姉ちゃんを何とかしてくれないと、私が困るんだからね!」
「……善処するよ」
(できるものならそうしたいよ。でもあの二人の間には入れないだろうな。特にオルブライト様はセシリーにベタ惚れみたいだったからなぁ)
デリクは深いため息をついて明るい窓の外を眺めた。
薄暗い路地裏をロージーとデリクは連れ立って歩いていた。デリクはロージーにせがまれて街外れまで歩き、疲れ果てたロージーの手を引いてやっと下宿先の家のある下町まで帰って来たところだった。
「もうすぐだ。ほら、ちゃんと歩いて、ロージー!もう少しだから」
「デリクのせいでくたびれたー!馬車に乗りたーい!」
「君が行きたがったんだろう?ほら、じきに暗くなる。夕食に間に合わないと下宿の叔母さんに怒られるよ」
観光客の多いこの星の聖地の街も裏道に入れば人通りはかなり少ない。ロージーとデリクが仮住まいしている辺りも比較的静かな場所だった。
「何だ?」
「何……?」
二人は同時に気配を感じて立ち止まった。背後に誰かが、いや、何かがいる。
それは壁にもたれるように座り込む黒い影だった。
「獣……犬?」
「え、人じゃないの?」
デリクはロージーを庇うように背に隠した。しかし次の瞬間、高く跳躍した黒い影はロージーに襲い掛かる。
「きゃあぁぁぁっ!」
「ロージーっ!!」
薄暗闇の中を悲鳴が響き渡った。
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