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眩緑の日

来ていただいてありがとうございます!






「あー!お姉ちゃん!やっと登校してきたんだ!」

「やあ、セシリー……また一段と綺麗になったね」


何日かぶりに学園へ登校して、授業の後カフェテリアでお茶を飲んでいたら、ロージーとデリクが声を掛けてきた。ここの所演奏会続きで忙しくて授業にも出られてない。しかもこれから王都へ行かなくちゃならないから、またしばらく学園に来られそうにない。ああ、私本当に卒業できるかな?


ロージーとデリクは私の両隣に座った。ちょっと、なんでこの座り方なの?問いただす前にロージーが喋り出す。

「もう!入学式の後すぐ帰っちゃうし、歓迎のダンスパーティーにはいないし。せっかくフィル様と踊れると思ってたのに!しかも全然登校してこないじゃない!今日は?フィル様はどうしたの?!一緒に来てるんでしょ?どこ?どこなの?」

「僕もセシリーのドレス姿近くで見たかったな……」

「ロージー!ちゃんとオルブライト様とお呼びしなさい!」

失礼ってこともあるけど、周りの生徒達はそのほとんどが貴族の子女だから要らない反感を買ってしまうかもしれないのに。

「まさかクラス内でもそんな風じゃないでしょうね?」

「えー!なんでぇ?お姉ちゃんなんて呼び捨てじゃない!ずるいわよ!!」

しかもこの子って昔から声が大きい!!そうやって大きくて良く通る声で主張するからみんなロージーの言う事ばっかり聞いちゃうんだよね。

「まあ、セシリーも僕のことはずっと呼び捨てだよね……」

デリクは何を言ってるの?村ではみんながそうだったでしょ?


「私は、その、一応婚約者だから……」

その言葉を言うのはちょっと恥ずかしい……。

「一応じゃなくて、正式な婚約者だよ。僕のセシリー」

「ぼ……っ?!えっと、フィル、先生とのお話終わったの?」

いつの間にか私の後ろまで来ていたフィルが、私の手を取って立たせてくれた。があがあ、うるさいロージーとぼそぼそ呟くデリクに挟まれて困ってたから助かった。それにしても、「僕のセシリー」って破壊力ある言葉だよね……。貴族の男の人ってみんなこういう呼び方するのかな?


「ああ。僕の方も担任と話をしてきた。この春の選抜の担当教師だったから、今年はハミルトン嬢や僕らは不参加になるとも言っておいたよ」

「ありがとう、フィル……」

音楽団の活動が忙しくて、とても学園の春の選抜の練習には出られそうもない。選出の手紙は来ていたけど、元々選抜は音楽団への登竜門的な意味合いもあるから、そもそも私達は出る資格が無いのかもしれない。


「きゃあっ!フィル様!やっとお会いできましたわ!私寂しかったですぅ!」

飛び上がるように立ち上がったロージーがフィルの腕に自分の腕を絡めた。

「ちょっと!何してるの?ロージーったら、離れなさい!フィル、ごめんね、うちの妹が……」

「構わないよ。もうじき僕の義妹(いもうと)になるんだから。でもどちらかといえば義兄(あに)と呼んでもらった方が嬉しいかな」

言いながらフィルはそっとロージーの手を外し、私の肩を抱き寄せた。

「むーっ」

「…………」

フィルの言葉にロージーとデリクが同時に不機嫌そうな顔になる。なんでデリクまで?そんなにロージーが好きなの?訳がわからないよ。


「さあ、行こうかセシリー。一度僕の屋敷へ寄ってもらえる?少し休んでから王都へ出発しよう」

「うん。わかった」

実はフィルと私は王様からお城に来るように言われてるんだよね。

「ええーっ!王都へ行くの?!私も行きたーい!連れてってよ!お姉ちゃん!」

「ロージーは学校があるでしょ?!それに遊びに行くんじゃないの。国王陛下からのご命令なの」

「えー、でも用事の後は遊んでくるんでしょ?だったら、一緒に馬車に乗せてくれるだけでいいから!私とデリクだけで遊んでくるから!」

「いい加減にして!ここへは学びに来てるんでしょ?星の音楽団に入るんでしょ?ちゃんと勉強とヴィオラを頑張りなさい!」

「……ちょっと先に合格したからって、偉そうに。私だってすぐに受かってやるんだからね!」

「ロージー!!」

ああ、周りの目が痛い……。ロージーってここまで酷い我儘を言う子だったっけ?小さい頃は思い通りにならないと癇癪を起したりすることもあったけど、最近は落ち着いてきてたのに。この子ここでちゃんとやっていけるのかな。


「それなら頑張ったご褒美に、夏休みに入ったらデリクと一緒に王都の屋敷へ来るといいよ」

「えっ!いいんですか?やったー!おにいさまありがとう!」

「フィル!そんなに甘やかさないでいいから」

「いいんだよ。未来の妹と弟だからね。じゃあ夏休みまで頑張ってね」

「はーい!!」

「…………」

フィルは私の飲み終わったお茶のカップの乗ったトレーを持ち上げると、私の手を引いてカフェテリアを出た。フィルがおさめてくれて助かっちゃった。はぁ……これでせめて夏休みまではちゃんと勉強や練習をしてくれるといいんだけど。


「フィル、ありがとう。妹達が迷惑かけちゃってごめんね」

「屋敷に招待するくらい構わないよ。セシリーには音楽に集中してもらいたいからね。にしても、あの子はセシリーと全然似てないんだね」

「ロージーは金髪のお父さん似で、私はお母さん似らしいの。ロージーは昔から可愛かったけど、私は全然で……。髪色もお母さんは星の色って言われてたけど、私は灰色だったし」

「セシリーはここへ来た当初から綺麗だなとは思ってたよ」

「へ?」

「僕は雪山を間近で見たことはないけど、セシリーの髪色は灰色っていうか雪山を思わせたから。何となくセシリーの故郷の山々はこんな感じなのかなって思った覚えがある」

「そうだったんだ……」

そういえば髪色が随分変わったって言われたっけ。ロージーにだったかな?確かに前と比べて明るい色になってきた自覚はある。もしかしてお母さんも子どもの頃と髪色が違ったりしたのかも。将来、お母さんみたいになれるかな、だったら嬉しいな。


「でも……」

フィルは私の髪を一房すくい上げた。

「フィル?」

「これ以上綺麗にならないで欲しいな。他の男の視線がうるさいから」

なんとフィルはそのまま私の髪に口付けた!

「なっ、なっ……!何を……」

ここまだ学園内!周りに人がいるっ!あ、でも誰もこっちを見てないみたい。助かった……。

「フィルっ!そういうのは人前ではやめてって言ったでしょ!」

「ごめんごめん。馬車に乗ってからだよね。じゃあさっさと行こうか」

「ちょっとフィル!」

そういうことじゃないと思うんだけど。


……あれ?でもそういうことなのかも?恥ずかしいだけで、嫌じゃない……?同じことをデリクにされたら?……気持ち悪いかもしれない。その部分切り落としたい。でもそれはデリクが嫌いなだけで、ゲイルだったら?気にしないかもしれない。でもゲイルは精霊様だから……。じゃあ、お父さんなら?お父さんはそもそも私の方をあまり見ない人で…………。私は馬車に揺られながらずっと果てしない思考の海を彷徨ってた。






✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧✧



「よお!ご同郷!!」

星音の宮の食堂で昼食をとっていたディオン・アーデルは親し気な声にまたかと、そっとため息をついた。


ディオンは今年の初めから星の音楽団に入団した。さほど社交的でもないので一人でいる事を好んでいたが、ここの団員達は仲間意識が強いのか、あまりディオンを放っておいてくれなかった。とにかくやたら声をかけられるのだ。


(あれ?でも今、ご同郷って言った?もしかして同じ国の人間か?ああ、やっぱり……)


「貴方は……アベル・エルベさんですね。たしかポロス学園の教師もなさってるとか。ヴァシスベリル王国から参りましたディオン・アーデルです。よろしくお願いします。先輩」

「そんなに畏まらなくていいよ。座れ座れ!若いのにしっかりしてるなぁ」

アベル・エルベは特に断りを入れるでもなく、当たり前のようにディオンの隣に座った。

「なんでまた闇の聖地じゃなくてこっちに来たんだ?」

「そういうエルベさんはどうなんです?」

「俺か?最初は闇の聖地の音楽部にいたんだけどな、世界のいろんな場所を見てみたいって思って思い切って出てきたんだよ!」

「ただの興味だけでこちらへいらしたんですか?」

「ああ、もうしばらくしたら今度は花の聖地のあるあの舌を噛みそうな名前の国へも行ってみようと思ってるよ」

「シュクシュケヴァット王国、ですね」

「ああ、それそれ!お前、よく言えるなぁ。でもその前にちょっと調べてることがあってな」

「それってセシリーさんと僕を襲った呪法のことですか?」

「……察しがいいな。まさか何か知ってるのか?」

「いいえ。詳しいことはわかりません。僕は『あの家』の出ではありませんからね。でもヴァシスベリルの国民ならば少なくとも聞き覚えはあるでしょう?」


ディオンは気が付いていた。自分達を襲ったのが祖国で管理されているはずの呪法であることに。エルベもまたあの時あの場所におり、遠くからではあったがあの黒い獣を見ていた。

「あれは……」

「ああ、恐らく……」


「「黒い精霊」」


「ですね」

「だな。呪法の原因は封印されたそうだが、正式な方法がなされた(ちゃんとやったのか)のかどうか気になっててな……」

「でもあれ以来、()()が出現したという話はありませんし、セシリーさんも僕も無事ですよ?」

「まあ、俺の気にしすぎかな。オルコットは将来有望な可愛い教え子なんでな」

「将来どころか、セシリーさんは今まさに王()から目を掛けられている人気者でしょう。できれば僕もまた一緒に歌いたいです」

「しばらくオルブライトとオルコットは無理だろうな」

「でしょうね」


エルベは立ち上がり食堂を出て行った。ディオンはその後一人で食事を続けようとしたが、あっという間に他の団員達がやってきて取り囲まれてしまった。最初の頃は一人で静かに食事ができないことに、多少苛ついていたディオンは、今では食事をしながら仲間との会話を楽しめるようになっていた。


(まあ、これはこれで悪くないかもね)


















ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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