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春の雨と虹と夜

来ていただいてありがとうございます!




「意外と忙しいんだね、音楽団の活動って」

「そうですわね。定期演奏会の他にこんなに演奏会を開いていたなんて」

「今は少し数が増えてるらしいよ」

星音の宮の食堂でフィルとコリンナ様と一緒にお昼ご飯を食べていた。今日のお昼ご飯は海のお魚のソテー。ここは海から遠いから、魚を食べられるのはとても贅沢だなって思う。コリンナ様も同じもの、フィルはお肉のステーキ。何故かフィルはいつも私と違うものを頼んで一口食べさせたがるんだよね。私のこと小さい子か、かなりの食いしん坊だとか思ってそう。食いしん坊の方はあながち間違いじゃないかもしれないけど……。


外は糸みたいな雨がしとしとと降ってる。この雨が農作物の豊かな恵みをもたらしてくれるので、精霊様に感謝の音楽を捧げる演奏会を開く準備でとても大変なんだ。全員での演奏に加えて、有志グループの演奏会もあるから、いくつもの曲を練習する必要があってますます学園に登校できなくなってる。時間を見つけて教科書を読んだりもしてるけど、うう、無事に卒業できるかな……。





温かい雨の中岩のステージには大きな天幕がは張られ、楽器がセッティングされた。星の歌姫様達は天幕の外に進み出て、アカペラで歌い出す。雨の精霊様を讃える曲を。雨粒がキラキラと輝き始めて精霊様達が喜んでるのを感じた。クララ様の独唱、かっこいい!私も頑張らなくちゃ。歌に合わせて楽器の演奏が始まった。


無数の雨粒が草原の草の葉一つ一つに、花びら一つ一つに宝石のように光ってる。ああ、なんて綺麗なんだろう。雨の中の方が植物や花が色鮮やかに見えるような気がする。花びらや葉を伝って滴り落ちた雫達は土を潤して、深く深く沈み、やがて澄んだ水になって川や湖や海へ。


ふいに意識が戻ってきた。いけない……。演奏中にぼーっとしちゃってた!大丈夫!テンポがずれちゃったりはしてない。むしろ、自分でも不思議なくらいすごくいい調子で、気が付けば雨の精霊様達が周りにたくさん集まって来てくれてた。私達の演奏を喜んでくれてるのがわかって私も嬉しい。


今回の演奏曲は全部で六曲が演奏される。雨の精霊様、花と草の精霊様、水の精霊様、土の精霊様、光の精霊様、そしてもう一度雨の精霊様を讃える曲。私の出番はこの後もう二曲。春の光を讃える合奏曲と最後の雨の精霊様の曲。春の光の曲は珍しくフィルがクラヴィーアを演奏するんだ。フィルはハープも上手だけど、クラヴィーアもかなり上手なんだ。星の音楽団では二つの楽器を弾きこなせる人が割といるらしい。すごいなぁ。私なんてリュラ―だけなのに。ハープももちろん練習してるけど、任されることはない。つまりはそういう事だよね。……せめてリュラーはもっと頑張ろう。


最後の曲の演奏の後、ふいに雲が晴れて光がさしてきた。空に七色のアーチがかかって歓声が起きた。

「虹……!」

こんなに大きな虹を見るのは初めてかもしれない。しかも二重の虹。

「セシリー、大精霊様だ」

いつの間にか隣に来てたフィルが指をさした。

「あ、本当だ」

たぶん雨の大精霊様と光の大精霊様だと思う。二人は手を繋いで虹のアーチの頂上に仲良く座ってる。二人はしばらくの間にこにこと草原や岩のステージの上の私達を見回した後、虹と一緒に消えて行った。

「満足してもらえたみたいだね」

「うん。みんなすごかったもんね」

「……そうだね」

こうして春雨の演奏会は無事に終わって、その後のジョディ―さんやクラークさん、フィルやコリンナ様、新入団組とのグループでの演奏会もきちんとこなして、春の雨の季節は終わりを告げた。少数のグループ演奏の時にも雨の大精霊様や水の大精霊様が聞きに来てくれたんだ。楽しんでもらえて良かった。





「今日は月が綺麗」

最近の私は夜にちょっとだけ草原に下りて散歩するのが習慣になってるんだ。春の雨の季節が終わって穏やかに晴れる夜が多くて気持ちがいいんだよね。

「そうだね」

「へ?あれ?フィル?どうして?」

「セシリーが外へ行くのが見えたから」

そういえば今日からフィルも私と同じように星音の宮に住むことになったんだった。星の聖地の街にもあんな立派なお屋敷があるのに。

「ダメだよ。いくら近くても夜遅くにこんな所に来ては」

「……ごめん。夜の聖地って静かだし、気持ちが良くて」

「人がいないからね」

そうなんだ。音楽団は二百人位の人がいて、全員がここに星音の宮に住んでるわけじゃないんだけど、いつもどこかで楽器の音が聞こえてくる。賑やかなのは好きなんだけど、少しだけ一人になりたい時もあるんだ。

「フィルにはお見通しなんだね」

「他でもないセシリーの事だからね。僕も邪魔かな……」

「ううん。そんなことない。……でもやっぱりやめた方が良いのかな」

「これからは僕も一緒に散歩するよ」


「ねえ、やっぱりオルブライト家の屋敷へ来ることを考えてくれない」

実はフィルからはもう何度もそのことを提案されていた。フィルの屋敷だったら、他に人もいなくて安全面も万全だからって。

「やっぱりフィルは私を心配してここへ移って来てくれたんだね」

フィルは私が前に黒い獣に襲われたのを心配してくれてるんだと思う。エクランド様から、あの黒い獣は闇の聖地から持ち出された呪術あるいは呪法が不完全に行使された結果だろうって教えてもらった。今はその呪術の道具なんかは回収されて封印されたって聞いてるから、もうそんなに心配しなくても大丈夫なのに。

「まあそれもあるけど、一番は僕がセシリーとずっと一緒にいたいからだよ。ずっと見てないと誰かにとられてしまうかもって不安になる」

「うーん、そんな心配はいらないと思うよ?」

「はぁ……」

フィルが呆れたようにため息をついた。


カサリッ……


その時、風も無いのに少し離れた場所の草が不自然に音を立てた。私にはそう感じられた。もしかしてゲイルかなって思ったから、音の方を見たけど、特に誰の姿も見えなかった。


一瞬周囲が暗くなる。


「セシリー、そろそろ戻ろう」

私の肩を抱くフィルの表情と声に緊張が走った。

「なんだ……月が雲の影に入っただけ、か……」

「ちょっとびっくりしちゃったね」

あれ?いつもよりフィルの顔が近い??ああ!私がフィルの胸にしがみついちゃってたんだ!

「ご、ごめんねっ」

急いで離れようとしたんだけど、抱きしめられてて動けない。

「フィル……?」

「うん。わかってる。けどもう少しだけ」

フィルに抱きしめられるのは嫌じゃない。これはそういうことなのかな。自分の気持ちがわからないまま、フィルの胸にそっと頭を預け続けた。

 





✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩✩




セシリーが帰ってくる少し前の話


「ん?今何か音がしなかったか?」

「そうか?気のせいじゃないのか?」

「そうだよな。この部屋は無人だからな」

「それよりも調査がやっと一段落したんだから飲みに行こう」

「そうだな。呪法とか呪術はしばらくお腹いっぱいだな」

「にしても、時の聖地に行った子って帰って来られるのかね」

「さあなぁ。呪いに襲われて、助かったと思ったら今度は帰って来られるかもわからないとか、災難だよなぁ。俺にも娘がいるから他人事じゃないよ」

「何とかなるといいけどなぁ」


城の離れの巡警吏詰所。その冷たく暗い廊下を仕事終わりの巡警吏達が歩き去って行く。その後ろでは黒い影が重い鉄の扉をすり抜けていった。






ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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