入学式の日と新学期
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「おねーちゃーん!受かったよー!」
「え?ロージー?デリク?どうしてここに?それにその制服……!」
ポロス学園の入学試験は年明けに王都で行われる。ちょうど星の音楽団の入団試験と同じ頃。そして今日は入学式。突然声をかけられた時は空耳かと思ったよ。
受験してたんだ……。そして受かってたんだ……。私何も聞いてないんだけど。お父さんもロージーも手紙くらいくれても良くない?本当に私って蚊帳の外なのね、もういいけど。……家族って何だろう?
「はぁ……」
新入生達が行き交う学園のエントランス広場、明るい春の日差しの中で私は小さくため息をついた。
ポロス学園は星の音楽団のために設立された王立の学園だ。基本は十六歳から十八歳までの三年間の学生生活になるけれど、音楽の素養がある人は試験に合格すれば誰でも何歳からでも入学できる。貴族の人達は家庭で楽器や歌などの教育を受けているので、望めば入学が許されらしいから年齢通りに入学することが多い。
逆に私達みたいな平民は年齢を問わず入学試験を受けることもある。エイミーみたいに経済的に余裕があるお家の子とかマーシーやノーラみたいに働きながら通うとか。もうちょっと大人になって学費を稼いでからとか。これは後から知ったことだけど、私みたいな中途入学はかなりの特例で、よっぽど才能を認められるか、エクランド様のような支援者の後押しが必要。私は幸運だったんだね。
「お姉ちゃん、オルブライト様と婚約したんだってね。お父さんから聞いたわ。ありがとうね。私の為にキープしておいてくれて。いつでもデリクと交換してあげるからね」
この子、まだこんなこと言ってるの?!
「いい加減にして!デリクはあなたを想ってついてきてくれたんでしょう?」
村では裕福な家の一人息子のデリクは家を継ぐことが決まってるから、本来ポロス学園に来る必要はないはずだ。ロージーを心配して一緒に来てくれたんだと思う。
「でもデリクもデリクだわ。何を言われっぱなしになってるのよ!」
「僕は気にしてないよ。ロージーの冗談はいつものことだしね」
「冗談って……」
デリクは元々大人しい性格ではあるけど、怒るときは怒った方がいいのに。やっぱり本当に好きだとはっきり文句も言えないのかな?私にはあんなにきっぱり断ってきたのに……。
「きっとお互いを信じあってるんだよ。僕達もそうだろう?」
「フィル……っ?!」
後ろから肩を抱かれて、頬に温かい感触がっ!!
「きゃっ!オルブライト様!……えっ?!」
「な……」
ロージーとデリクが同時に不快気な顔を見せた。今フィルが私のほっぺにキスしたの他の生徒は見てなかったよね?
「フィル……人前では……」
「ごめん、つい」
あれ以来、過度なスキンシップが増えてて困ってる。せめて人前ではやめて欲しいのに、肩を抱かれたり背中や腰に手を添えられたりは当たり前になってる。
「まだ慣れないの?真っ赤になって可愛いね」
な、慣れるとか無理でしょっ?!ああ、二人からの視線が痛い。
『返事は急がない。だけど僕は諦めるつもりは無いから。それは覚えておいてね』
あの時…………。突然の告白に頭が真っ白になった。あれ以来私は妙に意識しちゃってダメだ。だって、だって、告白なんてされたのは初めてなんだよー。大体村の男の子達の視線はロージーの方へ向いていたから。
驚きすぎて何も言えないでいる私にフィルは寂しそうに微笑んだ。何か、何か言わなくちゃ。でも何を?私はフィルのこと好きなの?嫌いじゃない。それは絶対断言できるけど、結婚するってそこまでなの?そういう気持ちなの?パニック状態になってる私の手をフィルの温かい手がそっとつかまえた。
「大丈夫。僕は焦ってないから。セシリーの気持ちを待ってるよ」
「フィル……でも……」
「待たせてよ。でも、ただ待ってるだけじゃいないから覚悟してね」
その時初めて抱き寄せられて、頬を摺り寄せられてそのまま頬にキスされた。
「フィ、フィル……っ!」
「逃がすつもりはないから」
「ひ、人前では……っ」
「誰もいないよ。それから人前じゃなければいいんだね?」
「そ、それは……」
「ああ、真っ赤だ。可愛いね」
それはフィルが頬を撫で続けてるからでしょ……。言いたいけど恥ずかしくてフィルの顔がまともに見れなかった。
フィルの攻撃(?)を受けたりかわしたりしながらの春休みは終わって、新学期が始まった。といっても星の音楽団の練習の方が忙しくて、学園の方には全然行けてない。今日は入学式。学園の方からフィルとコリンナ様と私に式には出席するように依頼がきていたので、久しぶりに登校した。そしたらロージーとデリクに遭遇してしまったという訳だ。
「さあ、僕達は演奏の準備がある。もう行かなくちゃね」
「うん。じゃあね、ロージー、デリク。学園生活、頑張ってね」
「ええーっ!もう行っちゃうの?」
ロージーの視線は私じゃなくてフィルを追ってる。
「私達は入学式で新入生歓迎の演奏の準備があるから」
「むーっっ!」
「もう行こうよ、ロージー。受付始まってるよ」
デリクがロージーを引っ張って行ってくれて助かった……。
ポロス学園の春の学期が始まって驚いたことがある。久しぶりに出席したらノーラがいなかった。クラスが別れた訳じゃなく、退学して故郷に帰ってしまったんだそうだ。色々あって星降り亭に顔を出せていない間に何があったんだろう……。マーシーに聞いてもお家の事情としかわからないらしい。
「元々ノーラは私の付き添いみたいな所があったから。学費も馬鹿にならないしね」
素っ気ないマーシーの言い方が気になったけど、ノーラのお家の事情じゃ仕方ないよね。根掘り葉掘り聞くのもおかしいし……。それにマーシーは私にも素っ気ない感じで、話しかけづらくなってしまってた。
授業の後、カフェテリアでエイミーと会って一緒にお茶を飲んだ。こういうのも久しぶりで楽しい。
「ノーラ、元気かな。一言くらいお別れを言いたかったな」
「仕方ないわよ。先行きが見えないと思ったら引き返すのも勇気だと思うわ」
「でも、ノーラはヴィオラの才能があったのに」
「うーん……。ここだけの話にしてね。ノーラは、あとマーシーもだけどこれから相当頑張らないと音楽で食べていけるようにもなれないと思うわ。たぶん私もね」
「そんなこと!エイミーは毎回選抜チームに選ばれて、今回は独唱もやるんでしょ?」
エイミーはこの春の選抜チームにも入ってて、これで三年連続。とうとう独唱までできるようになったんだ!それなのに……。
「私はたぶん来年の入団試験は受けないと思う」
エイミーの言葉にショックを受けた。
「そんな!もったいないよ!あんなに歌、上手なのに!」
「ああ、違うのよ。目標が変わっただけなの」
「目標が変わった?」
「そう!私は花嫁さんになりたいの!」
「え?!」
エイミーってこんなに大人っぽかったっけ?前よりずっと綺麗な笑顔に何だか私が照れちゃう。
「やだ、セシリーったらなに真っ赤になってるの?セシリーだって婚約したんでしょ?」
「え?!あ、うん。そうだけど……」
フィルのあれこれを思い出してもっと顔が熱くなった。
「やだ、もっと真っ赤になっちゃって!セシリーったら可愛いんだから!」
「でも、どうして知ってるの?フィルがお披露目はまだって言ってたのに」
「貴族の情報網を甘く見ちゃダメよ。そのことはあっという間に広まってるわ」
「そういうものなんだ……」
そういえばエイミーの婚約者のケイン様は男爵家のご子息だったっけ。……貴族っておっかないんだね。
「私はケインと結婚して家業の商店を大きくしたいの。セシリーは星の音楽団でオルブライト様と精霊様達に音楽を捧げる。私達はお互いそれぞれの道を進んで行くのよ」
「そう。エイミーは今幸せなんだね」
何かを諦めた訳じゃなくて、違う道に進むってことなんだ。きっとそれはノーラも同じなんだろうな。
「卒業後は一緒に音楽団で演奏できるって思ってたから……。寂しいし、エイミーの歌が好きだから、私はやっぱりちょっともったいないって思っちゃう」
「ありがとう。そんな風に言ってもらえるとポロス学園に来たかいがあったわ」
幸せそうな笑顔のエイミーをちょっとだけ羨ましく思った。私も誰かをこんなに想えるようになるのかな。
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「婚約?何それ……。全部取られた……。私の欲しかったもの全部、全部、全部!!」
憎しみの感情が抑えられない。黒くて大きな犬が私の目の前に現れた。花がいっぱい咲いてる明るい春の日なのに、私の目の前は真っ暗……。
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