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王都で買い物

来ていただいてありがとうございます!



「それなら王都へ行こう」

「王都へ?」

フィルの提案で春休みも残りわずかになった頃、二人で王都へ行くことになった。




事の始まりは春の定期演奏会の後、寮で勉強をしていた時のことだった。なんだか階下が騒がしくて下りていくと、寮の玄関に人が集まっていた。三年生の先輩達は卒業して寮を引き払い、星音の宮に移ったりしていてもういないし、エイミーは春休みの間は家に帰っていて寮には私しかいない。寂しいことに一年生の入寮者はいなかったんだよね。


「星の奏者様にこれを渡してくれ!」

「ここにはいません。訪ねてこられても困りますっ!」

「なんだろ?」

マーガレットさんが対応してるけど、様子がおかしい。

「セシリーさん、出て行っちゃ駄目ですよ」

他の寮母さんに腕を引かれて物陰に隠れた。

「何かあったんですか?」

ひそひそと話し合う。どうやら、集まってる人達はお花や贈り物を持ってきたらしい。

「マーガレットさんに?」

「何を言ってるんですか!セシリーさんにですよ!!」

「ええ?私に?どうして?」

「自覚無しですか……」

そんな、深くふかーくため息をつかなくても……。


「セシリー!無事?!」

食堂にいるように言われて待っていると、フィルがやって来た。

「フィル?!どうして?どうやって入って来たの?」

「厨房にある出入口から入って来たんだ。油断してたよ。さあ、僕の屋敷へひとまず避難しよう」

「え?どうして?」

「その方がいいわ、セシリーさん。この街の人達は団員さんの家を訪ねたりはしないけど、観光客の人の中にはああやって会いに来る人もいるの。セシリーさんは若い娘さんだから、警戒しすぎるということはないわ」

つまり、私に会いに来てよからぬ事をしようとする人がいるかもってこと?

「私に……ですか?」

いまいちピンとこないなぁ。

「ああ、もう駄目だわ、この()……。オルブライト様、お願いしますね」

「はい」

マーガレットさんは疲れたように額に手を当てて、フィルは渋い顔で頷いてた。



そんなこんなで、フィルのお屋敷に避難させてもらって今に至ってる。今後は音楽団の拠点の星音の宮の中にある寮部屋に住ませてもらえるように申請することにした。できれば寮にいたかったけど、迷惑をかけるわけにはいかないよね。お金だってエクランド様に支援してもらってるんだから。

「ずっとここにいてくれてもいいのに」

フィルにはそう言われたけど、一応婚約者とはいえ結婚もしてないのに同じ家に住むのは良くないと思う。それにこの先結婚するかどうかもわからないし……。私達の婚約はそれぞれの自由を確保するためのものだから、フィルに恋人ができた時に誤解させて悲しい思いをさせちゃダメだよね。甘えすぎ、良くない。




「ますます買い物に行きづらくなっちゃった……」

「セシリーは買い物がしたいの?」

「うん。ちょっと欲しいものがあって」

こうなったら、変装でもしていこうかな。いっそ男装してもいいかもしれない。オルブライト家のお屋敷でそんなことを考えてたら、フィルに王都へ行こうって提案されたんだ。ちょうど演奏会が終わったばかりで、音楽団の活動も一息ついた所だったからちょうど良かった。やっと入団祝いのご褒美アクセサリーが買えるっ!王都なら私を知ってる人もほとんどいないだろうし、お店もたくさんあるし、ゆっくり買い物できそう。お給料は必要な分を除いて学費の返済に充てちゃったからあまり高いのは買えないけど、お店を見て回るのが楽しみ!



「セシリー、気に入ったのはあった?」

「うん。どれも素敵だと思う」

フィルが最初に連れて行ってくれたのはどう見ても私の予算では足りない品ばかりが飾ってある高級な宝飾店だった。見る分にはとても楽しいけど、実際に買おうって気持ちが起きるようなお店じゃない。本当に見てるだけ。


「気に入ったものがあったら教えて。僕に贈らせて欲しい。婚約者なんだからね」

フィルが深い青色の目をキラキラさせてる。星まつりの時の夜空みたい。ここのお店の宝石より眩しい!は言いすぎかな?

「ううん!いい!」

こんな高いアクセサリーなんて身につけてたら、落としたらって気が気じゃないと思う。無理。

「そうか。気に入ったの無かった?」

「みんな綺麗で素敵だと思う。でもそういうことじゃなくて」

私は少し声を落とした。

「私達の婚約は建前だけのものでしょ?こんな高価なものを貰う訳にはいかないわ」

「…………僕はそんなつもりないよ」

「え?」

「さあ、それじゃあ、そろそろ昼食にしよう。朝早くに出発だったから、お腹空いたよね」


フィルに手をひかれて王都の街を歩く。フィルは一体何を考えてるの?フィルが予約してくれたレストランで美味しいご飯を食べててもフィルのつぶやきが気になってしまってた。そういえばあのアイオルニアのこともフィルに聞いてみたいんだよね。あれからゲイルも姿を見せなくて二人に聞きそびれてる。

「あ、あの!フィル、私……」

「ここの料理美味しい?セシリー」

「え?うん!すごく美味しい!リオ村にいたら食べられないものばっかりで嬉しい」

「そう、良かった。お茶の時間には人気のカフェを予約してあるから楽しみにしてて」

「そうなの?」

「焼き立てのパイを出すので有名な店なんだ」

「焼き立て!」

それは楽しみかも!


…………ってそうじゃないでしょ?!なんか質問しようとしたらはぐらかされたような気がする。なんで?


その後もフィルと一緒に王都の街を歩きながら色々とお店を見て回るんだけど、さすが王都!色々高いけど色々なものがあって目が忙しい。どのお店でもフィルが何かをプレゼントしてくれようとするのにちょっと困ってた。お茶の時間に入ったカフェの焼き立てパイは、熱々で中のチョコクリームがトロトロでとっても美味しかった。夕方近くに行った王都の噴水広場では、まだ旅の行商人がお店を広げてる。フィルに頼んで寄ってもらうことにした。


「あ、これ綺麗……」

一番に目に入ったのは青い石の小さなブローチだった。透き通った深い青い石の中央に丸く濃い影が入ってて、その周りにキラキラと輝く金色の粒がたくさん散らばってる。

「星空みたい」

「お嬢さん、お目が高いね。その石は「星月夜」っていう名前の石なんだ。そこまで高価では取引されないけど、なかなか貴重な石なんだよ」

「星月夜……。確かに夜空みたいな石だね」

フィルも物珍しそうに私の手元を覗き込んでる。

「坊ちゃんの目の色にも似てるね」

「そう、ですね……」

フィルはなんか考え込んで黙っちゃった。


行商人のおじいさんの説明通りに値札に書かれた金額は私でも買える額だったから、即買うことにしちゃった。これを今回のご褒美アクセサリーにしよう!

「あの!これ、いただけますか?」

「買ってくれるのかい?貴族のお嬢さんには少し釣り合わないかもしれないけどね、ありがたいねぇ」

「あ、私は貴族じゃないんです。ただの平民なんですよ」

「そうなのかい?そうは見えないけどねぇ」

それは変装の意味もあって、今日はフィルが用意してくれたドレスを着てるからかもしれない。


お金を払おうとしたら、フィルが私を遮った。

「ここは僕が払うよ」

「大丈夫だよ、これだったら自分で買えるから」

「頼む。今日は何も選んでくれなかったじゃないか。これは僕に贈らせてほしい」

「でも食事代も出してもらっちゃってるし、悪いよ」

「お嬢さん、そこは男の顔を立ててあげなくちゃ」

笑顔のおじいさんの言葉といつになく真剣なフィルの瞳に見つめられてることで断ることもできずに、結局買ってもらうことになっちゃった。

「ありがとう、フィル!とっても綺麗……大切にするね」

「気に入ったものがあってよかった」

何でだか、私よりもフィルの方が嬉しそうに思えるのは気のせいかな?


「……この近くに花の綺麗な庭園があるんだ。行ってみない?」

「うん。行ってみたい!」

お店の後にフィルに案内されて着いた庭園は綺麗に整備されて、計算された花壇や樹木が植えられたとても美しい場所だった。

「うわぁ、綺麗!」

「星の聖地みたいな花畑も綺麗だけど、こういう所もいいね」

今みたいな春の時期はお花の種類も多くて、色鮮やかな大輪の花々がそこここに植えられてる。たくさんの花が咲いてる木も多くて、風が吹くと花吹雪が舞う。星の聖地とはまた別の幻想的な光景だった。


「このブローチね、じつは星の音楽団入団の自分へのご褒美のつもりだったんだ」

「そうなの?」

「うん。前に星まつりでアイオルニアを買った時と同じ」

「そうだったんだ……ごめん、勝手なことをして」

「ううん!嬉しかった。フィルにもお祝いしてもらえてる気がするから。本当にありがとう」


「僕も記念の贈り物をするつもりだったんだ」

「記念の?」

「婚約の記念」

「それは……、それはちゃんとした婚約の時に取っておいた方がいいよ、だって……」

「ちゃんとした、正式な婚約だ!」

「フィル?」

「僕はそのつもりだ」

「それ、さっきも言ってたけど……」

またフィルの目に真剣な光が宿る。近づいてくるその光から目が離せない。


「ア、アイオルニア!」

「?」

何か言わなくちゃって思って出た言葉がそれだった。

「アイオルニア、フィルは持ってる?」

「…………持ってるよ」

フィルは上着のポケットの中からタイピンを取り出した。

「フィルだったんだ、持ってたの」

私はフィルに時の聖地で起こった事を話した。アイオルニアが熱くなってぼんやりしていた頭を覚ましてくれたこと。二枚貝のアイオルニア同士が引き合ったこと。それをフェリシアさんに教わったこと。

「フェリシア?!」

「どうかしたの?」

「いや、僕の祖母と同じ名前だから」

「そういえばフィルに似てたかも……。でもおばあさんじゃなくて若い女の人だったよ?」

「そう、じゃあ、違うのかな」

フィルも私も困惑したけど、真相はわからないままだ。


「フィル、ありがとうね。ゲイルと一緒に迎えに来てくれて。私を探してくれて。フィルが偶然かたわれのアイオルニアを持っててくれたから、たぶん私、帰ってこれたんだと思う」

「偶然じゃない」

「え?」

「他の人間にこのアイオルニアを渡したくなかったから、あの時店主に頼んで僕が手に入れたんだ」

「そうだったの?」

あの時はお母さんへのお土産を買ったって言ってた気がするけど、違ったんだ。


「僕はセシリーを好きだから、他の誰かにこれを渡したくなかった」


…………え?


「僕がセシリーを好きだから、他の誰かをセシリーの婚約者にしたくなかったんだ」


強い風が吹いて花が一斉に舞い散った。













ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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