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婚約?

来ていただいてありがとうございます!



「目、覚めた?」

「あれ?フィル?……ここって……」

薄暗い部屋にやわらかな明かりが灯ってる。高い天井にカーテンがかかってる。天蓋付きのベッドだ。ふかふかお布団が気持ちいい。私いつの間に……確かフィルと一緒に馬車に乗ってたんじゃなかった?あの後、結局馬車の中でフィルと一緒に寝ちゃったんだ。ってあれ?どうやってここに?運んでもらったの?!今、本当に目が覚めた!!


天蓋付きのベッドに豪華な装飾の部屋。ここはオルブライト家のお屋敷?

「やっぱり疲労がたまってたんだね。良かったよ。ここならゆっくり休めるよ」

「ご、ごめんね、私……」

「いいから!まだ寝てて」

いやいやいや、寝室に男の人と二人きりはいくならんでもまずいよね?しかもベッドの端に肘をついて覗き込んでるフィルの心配そうな顔が馬車の中の時より近いから困る。なんとかフィルから距離を取って起き上がった。


「も、もうだいじょ……ぶ…………ごほっ、ごほっ……」

すごく喉が渇いてたみたいで咳込んじゃった。そういえばこっちに帰って来てから事情を説明しなきゃって話してばかりで、お水もあんまり飲んでなかった。

「セシリー大丈夫?!水を」

フィルが水差しから水を注いでグラスを渡してくれた。せき込みながら高そうなグラスを落とさないように気を付けて飲み干した。

「今、お茶を準備させるから。レンレンのジュースも持ってくるよ」

「あ、あの!お構いなく!お水で十分だからっ……」

フィル、走って行っちゃった。

「はあ……本当に豪華なお部屋。寮の部屋が四つは入りそう」

窓の外はまだ明るいから、そんなに長いこと眠ってはなかったみたい。たぶん帰って来たのがお昼ごろだったから、まだ夕方にはなってないくらいの時間かな。






「こんやく?」

「そう。僕と婚約してくれないか?」

「婚約?!うえぇぇ?!」

私の素っ頓狂な叫び声が静かなお屋敷の居間に響き渡った。飲んでたお茶を噴き出しそうになっちゃったよ。あれからオルブライト家のお屋敷の居間に移動してお茶とお菓子をいただいていたら、フィルが突然とんでもないことを言い出したのだ。


「なにその声……そんなに嫌?」

私の隣にはフィルが不機嫌そうに腕を組んで座ってる。

「婚約って結婚の約束?だよね??突然どうしたの?」

「……今まで何も伝わってなかったっていうのはよくわかったよ……」

「何のこと?」

「うん、いいよ、もう」

フィルは諦めたようにため息をついた。


「私は……結婚はできれば好きな人としたいなって思ってて……」

「僕が嫌い?」

「そんなことは全然!」

「じゃあ、デリクの事が好き?」

「へ?デリク?」

何で今頃そんな名前が?

「ロージーだっけ。あの子が僕に言ってきたんだ。セシリーが以前デリクと婚約状態だったって」

「あの子、いつの間にそんな話を……」

そういえば星まつりの時にデリクとフィルを交換しろとか訳わかんないこと言ってたっけ。


「うーん、デリクの事、気にしてないと言えば嘘になるかな……」

「……」

フィルは眉をひそめた。

「正直に言えば、今でも」

「っ……」

「すごーく」

「……」

「恨んでる」

「うん?」

「だって、デリクとロージーがもっと早く打ち明けてくれれば、私一人でもお祭りで演奏できたのに!せめてあと一時間早く言ってくれれば受付に間に合ったのに!!」

「えっと……?」

「確かに村のお祭りで未婚の男女が一緒に演奏すると、ゆくゆくは結婚するってみなされる慣習があるんだけどね」

「やっぱり……」

「でも絶対じゃない。そうじゃないペアもいたらしいし」


「……私達の村では女の子には将来の選択肢があまり無いの」

「…………」

「村で相手を見つけて結婚するか、どこかの大きな街へ働きに出て相手を見つけて結婚するか。かなり年上の奥さんに先立たれた男の人の後妻に入るか……。まだそれはいい方でお金持ちのお妾さんになるとか……」

「そんなことが……まあ、貴族の間でもままあることか……」


「リオ村の中でも年が近くて、まあまあ顔も良くて、お金持ちで。デリクはとても条件の良い相手だった。みんなに自慢もできるし。でもデリクを好きだったかって聞かれるとそれは違ってた」

「……でも悲しくて村を出て来たのでは?」

「私が悲しかったのはデリクとロージーと、特にお父さんに裏切られたこと。私は山の精霊の泉で演奏するのが小さい頃からの夢だった。どうしてかわからないけれどお父さんにはお祭りの舞台に立つことを禁止されていて、あの時にやっと許可してもらえたの」

「未成年は保護者の許可が要るんだね……。でも裏切られた」

「一人でも出ようと思ってたけど間に合わなかった。自棄になって夜の山に入ろうと思ったんだけど怖くなっちゃって……」

「やめてくれて良かったよ」

「山の麓でリュラ―を弾いて、その時にゲイルやエクランド様と出会って、それでここへ来ることができた。でもどのみち村を出る気だったよ。あのまま村にいても、妹に婚約者を取られた姉として憐れまれたり、馬鹿にされたりするだけだったから」


「セシリーのお父さんはどうしてそんなにセシリーが祭りで演奏するのを嫌がったんだろう」

「わからないの。ただ、昔から私がリュラ―を弾くのにいい顔をしなかったし、ヴィオラを弾いてたロージのことはとても可愛がってた。だからそういうものだって思ってた」


「私は運良くポロス学園に入れて、星の音楽団に入ることもできた。自分で自分の未来を決められるの。だからもしこの先結婚することがあったとしても、それまでは私は自立して生きていきたいの。だからまだ結婚とかは考えられなくて……」

「わかった」

「ごめんなさい」

「じゃあ、やっぱり婚約しておこう」

「はへ?」

わあ、またなんか変な声出ちゃった……。あれ?今私断ったよね?

「どうして、『やっぱり婚約しておこう』ってなるの?」

「これからセシリーも僕も結構大変だから。山ほど縁談が来ると思うよ」

「え、えんだん?」

縁談か!でもどうして?

「僕らは、特にセシリーは精霊王に気に入られた奏者で、時の聖地からの帰還者だ。これがどのくらい凄い事かはわかるよね?」

「…………?」

「自覚無しか……。困ったお嬢さんだな。ただでさえ、星の音楽団は縁談相手として引く手あまたなのに、時の聖地から帰って来たとなれば、拍が付くし放っておく貴族はいないよ」

「ええ?そうなの?でも私はただの平民なのに?」

「身分なんてどうとでもなる。現にクララ・ハミルトン嬢の家は元々は商家だったけど、功績が評価されて男爵の位を得た。しかも今も婚約者がいないせいで、毎日、何十もの縁談が舞い込んできていると聞いてる。中には王家の血筋の者もいるらしい」

「す、すごい……」

貴族になっちゃったんだ。コリンナ様のお姉様で、当代一の星の歌姫のクララ様のお家。


「僕と婚約しておけば、見栄っぱりなだけのうるさい貴族達は無視できる」

「でも、フィルが迷惑なんじゃ……」

「平気だよ。僕も助かるし僕は僕で好きにやるから。セシリーも思うように生きればいい」

少し突き放したような言い方に胸が痛くなった。フィルも私も自分の好きな人と結婚するために偽装婚薬をしようって提案されてるんだよね。つまりはお互いを風除けにするってことか。

「そういうことなら……」

いいのかな?

「いいんだね?」

「う、うん」

「よし!決まりだね。この書類に名前を書いてもらえる?」

「もうそんな書類があるの?」

「急がないと大変だからね」

そういうものなのかな?貴族の世界ってせわしないんだね。ペンを渡されたから急いで指定された欄に名前を書いた。


「うん、これでいい。すぐに提出してくるから」

「今すぐに?」

フィルが控えていた執事さんらしき人に書類を渡すと、すぐに部屋を出て行った。

「じゃあ、これからよろしくね。セシリー」

フィルが手を差し出した。同盟相手としての握手かな?私はその手を握り返して、ってえ?

「な、な、なにっ?!」

何で私の指先に、キ、キスなんてするのっ?!急いで手を引っ込めようとしたけど、握られたままで全然離してもらえない。

「婚約者なんだからこんなの当たり前でしょ?これからは舞踏会なんかにも一緒に参加してもらうからね。他の奴から申し込まれても受けないでね」

笑ってるのにフィルの圧が強い。

「え?あれ?うん?そうなの?わ、わかった」

あれ?何でこうなるの?でも貴族の婚約ってこういうものなの?なんかおかしくない???









ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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