ひきよせあうアイオルニア
来ていただいてありがとうございます!
✧フィル視点→精霊王視点→セシリー視点です
なんて不思議な場所だろうか。前も後ろも左も右も上も下も見渡す限り全てが星空の世界だ。
「ここが精霊の世界、時の聖地なのか」
ゲイルの背に乗ってその世界を疾走する。
「ここだけじゃないよー。ここもそうなだけー」
「広い世界の一部ということか」
「ここにセシリーがいるんだー!良かったー!ウィリディスに教えてもらえて良かったねー、フィル」
僕はゲイルに連れられて王都の森へ行き、そこで以前出会ったウィリディスという大精霊と話をすることができた。精霊の世界にも色々なしきたりや作法のようなものがあるらしく、最初は突然訪ねてきたゲイルに怒っていた。でも彼は僕の事を覚えていてくれて、何とか話を聞いてもらえた。セシリーが時の聖地で行方不明になっていることを知ると、ウィリディスは苦い顔をした。
『恐らくセシリーを隠しているのは星の精霊王だろう。奴め独り占めなどと、許せん』
まがりなりにも精霊の『王』に対しての言葉遣いじゃないように思えたけれど、外見だけ見れば年齢を重ねたとても老齢の精霊だ。星の精霊王とも面識があるのだろう。
『セシリーの居場所は見当がつく。我らの世界のほぼ中心、雲上の城』
精霊王はこちらの世界へはあまり姿を顕さなくなり、ここ最近はそこに籠りきりなのだそうだ。
『雲上の城……』
「雲上の城……これが」
今、僕達の目の前にあるのは雲の上にそびえ立つ城。僕にはまるで要塞のように思えた。
「セシリー!!いるー?出てきてー!」
「待て、ゲイル!扉を蹴っちゃ駄目だ!」
堅牢な石の塀、重たそうな木の扉。いきなり扉を蹴り始めたゲイルを慌てて止めた。何をしてくれてるんだこの馬は!ここには精霊王がいるはずだ。怒らせるのはまずい。さっきも礼儀知らずだとウィリディスに怒られたのをもう忘れているらしい。
「まったく。仕方ないな」
「だってー」
不満顔で僕を見てるゲイルを横目に扉を調べる。内側から閉じられているようで押しても引いてもびくともしなかった。通用口のようなものも見当たらない。
「これは困ったな」
「やっぱり、蹴破っちゃおうー!」
「やめろ!二度とセシリーに会えなくなるぞ!」
「それはやだ。じゃあ、どうするのー?」
短絡的な馬だ。でも中に入れなければセシリーや精霊王に会う事もできない。僕達は城を一周ぐるりと見て回ったがやはり他に入口のようなものは無かった。
「空から入れないか?」
ゲイルに尋ねたが、どうやら見えない壁のようなものに阻まれておりそれも無理だった。
それは突然だった。
扉の前でゲイルと二人途方に暮れていると、目の前にハープが現れた。
「なんだ?どうしてこんな所に?今まで無かったのに……」
戸惑いながら近づくとそれはとても懐かしい楽器だということに気が付いた。
「おばあ様の……?」
今ここに何故これがあるのかはわからない。けれどそれならば、僕のやるべきことは一つだ。
「フィル、これ弾いて」
「ああ、わかってる」
僕はポケットの中のアイオルニアのタイピンを握り締めてから、ハープに指を添わせた。
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「あらあら……素敵な演奏会が始まりましたね」
エミリアはお茶を飲みながら楽しそうに微笑んだ。今日はたまたま花の精霊王のお気に入りであるエミリアがこちらへ遊びに来てくれていた。フェリシアもエミリアと話すのを楽しみにしている。星の精霊王はフェリシアが笑うと自分も楽しいことに随分前から気が付いていた。
二人は人間でありながら、こちら側へ来ることを選んだ者達だった。エミリアは花の精霊王と愛し合っており、フェリシアは元々こちらの世界にとても興味を持っていた。
「本当ですわね!しかも同じ曲を演奏していますわ。なんて奇跡でしょう!」
ちらりとフェリシアが傍らの壮年の男性を見た。
「フェリシア、セシリーをあの世界へ帰すことはできない。あのような禍々しいものが存在する世界に私の奏者を帰し、取り返しのつかないことになっては堪らない。あの世界には醜いものが多すぎる」
「でも、星の精霊王様?それと同じ位に美しいものがたくさんありますよ?」
「それはフェリシアに言われずともわかっている。しかし……」
「あんなに想われてるのにセシリーさんを帰してあげないとかわいそうですよ?星の精霊王様」
どうやらエミリアもあちらの味方のようだった。
「私は愛する人のいる方の味方なんです。愛する人を追ってこんな場所まで来てしまった人間ですもの。……セシリーさんの方はまだそれほどって感じなのが残念ですけれどねぇ……」
「ああ、それ以上言わないであげて!あの子が不憫だわ。あんなに想いをこめて演奏してるのに!大丈夫!これから!これからまだ時間はたくさんありますから!!」
星の精霊王には二人の言っていることが完全には理解できなかったが、どうやらこのままでは自分ひとりが想い合う者達を引き裂く悪者になってしまいそうだと感じていた。
「ああ、星の聖地でもあんなにたくさんの人達がセシリーさんの帰りを待っていますわ。あんなにたくさんの仲間がいるのなら、セシリーさんはきっと大丈夫ですわ。かつての私の仲間達をどうぞ信じてあげてくださいませ」
星の精霊王にもすべて聞こえていた。セシリーのリュラ―の音色が、城の外で奏でられるハープが、そして美しく好ましい音楽を聞かせてくれる、愛すべき音楽団の演奏が。そして時々調子を合わせるように響く澄んだいななき……。
「ああ、ああ!わかった、わかったよ!セシリーをあちらへ帰そう。ただし一度きりだ。またこのようなことがあれば、私の歌姫達も奏者達も全てこちらに来てもらうからな!」
「まあ!星の精霊王様ったら過保護でいらっしゃいますこと!…………良かったわね、フィル」
不貞腐れたような表情の星の精霊王の足は演奏に合わせて拍子をとっている。それに気付いてエミリアとフェリシアは顔を見合わせて微笑み合うのだった。
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音がたくさん聞こえてくる……。
ハープの音……これはフィルの音
ヴィオラの音……たぶんコリンナ様の音
ジョディ―さんもクラークさんも、あ!クララ・ハミルトン様の歌声も!
今私が演奏してるのは精霊様達全てを讃える曲。私はあちらの世界で精霊様達やみんなと楽しく演奏していきたい。たぶんこちらの世界に居続けたらそれは出来なくなってしまうと思うから。だから帰りたい。そんな思いを込めて演奏をしていたら、それに重なるように音楽が聞こえてきたんだ。
演奏を終えて顔を上げると、精霊様達が周りを飛び交っていた。ああ、ここでも喜んでもらえたみたい。
「セシリーさん。星の精霊王様が許してくださいましたよ」
「フェリシアさん!あ、扉が開いてる!」
「さあ、お帰りなさい。皆さん待っていますわ」
「ありがとうございます!……精霊王様!守ってくださってありがとうございました!私、これからももっともっと演奏、頑張ります!」
私は空に向かってお礼を言った。
「ふふ、きっと伝わっていますわ。今はちょっと不機嫌なだけ」
不機嫌……帰っても本当に大丈夫かな?天変地異とか起きたりしない?
「あら?それはもしかしてアイオルニア?」
フェリシアさんが私のペンダントを見つめてる。そういえば服の上に出しっぱなしだった。いつもは制服の下に付けてるんだよね。大事な鍵もついてるし。
「はい!星まつりの時に買ったんです。……なんでこれあんなに熱くなったんだろう?」
今はもう熱の冷めた手のひらの上のアイオルニアを見つめてるとフェリシアさんが教えてくれた。
「この貝は二枚貝なのよ。だから元々は二つセットで売られているの」
「え?そうなんですか?知らなかった。行商の人はそんなこと言わなかったのに。一つでもいいって」
「商売ですものね。一つでも多く売りたいでしょうね。実はね……」
アイオルニアは恋人同士が片方づつ持つと引き合う、つまり別れない、一生仲良くいられるお守りになるんだって。知らなかった。だって私は山奥の田舎育ちだもん。
「うふふ。今ね、そのかたわれのアイオルニアを持ってる子が城の外に来てるわよ」
フェリシアさんが可愛らしく片目を瞑って微笑んだ。
「え?そうなんですか?偶然ですね!誰だろう?」
ゲイル……はお守りを買ったりはしないよね?
「…………ああ、そうなのね。あの子ったらもっと頑張らないと駄目ねぇ」
一転して悲しそうな顔で額を押さえるフェリシアさん。一体何のこと?
もっとお話ししていたいけど、星の精霊王様の気が変わるといけないからって言われて私はお城から出ることにした。またいつかフェリシアさんやエミリアさんに会えるといいな。
お城を出ると相変わらずの星空の世界だった。真っ先に白い一角の馬が駆け寄ってきた。涙をポロポロ流しながら。うーん、馬が泣いてるのって初めて見た。あ、精霊だったね……。
「セーシーリーー!!」
「ゲイルったら、どこに行ってたの……え?フィル?」
ゲイルの後ろから走って来るのはフィルだった。
「どうしてフィルまでここに……ふっ?!」
「あー!フィルズルーイ!セシリーにくっつきすぎー!!」
苦しいっ!でも、状況を把握すると苦しいより恥ずかしいっ!なんと私、フィルに抱き締められてるっ?!
「良かった……セシリー……」
絞り出すような声にハッとなった。心配してくれてたんだ。
「心配かけてごめんなさい。来てくれてありがとう」
そっと抱きしめ返すと、今度はフィルがハッとなって少し離れた。何だかおかしくなって笑ってるとフィルも安心したみたいに笑ってる。
「もー!!早く行こうよー!おいてっちゃうよー!」
「ごめんごめん」
「ゲイルも迎えに来てくれてありがとうね」
「いいよー!また僕のためだけに演奏してくれれば!」
「しょうがないなぁ」
「まあ、いいんじゃない?」
フィルと私はゲイルの背にのって精霊の世界、時の聖地から、私達の世界へ戻った。
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