星の海に浮かぶ雲の上のお城
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雲の上に浮かぶお城の中はがらんとしてて静まり返ってた。大きな扉は見た目ほど重くなくて簡単に開いたけど、私の後ろで自然にしまった音はとても重たい音だった。お城の中はそこここに命の気配があるような気がするのに誰の姿も見えない。
「アクロアイト王国のお城の広間と似てる」
エントランスの大広間は明るくて、でもしんと静まり返ってる。目の前には大きな階段と色ガラスの絵画。綺麗な色の光に誘われて静かに階段を上がった。
「ゲイルはどこに行っちゃったんだろ……。誰かいないのかなー?誰かいませんかー?」
小さな声で呼びかけるけど、声が反響するばかりで当り前のように返事が無い。階段の一番上、色ガラスで描かれた王様の絵。王様にはトンボのような透き通った翅が八枚描かれている。
「精霊王様かな?あ!ドアがある。右と左は廊下か……」
お城の中は薄暗い感じがしたから、また後で調べることにして、色ガラスの絵の脇にある小さな扉から外に出てみることにした。
「やっぱり外に出られるんだ……あれ?昼間になってる??」
おかしい。だってお城の外は地面もない星がいっぱいの夜の空だったのに、目の前に広がるのは気持ちのいい風が吹く明るい森。風が吹くたびに若々しい木々の葉が揺れていい香りがする。森の中をしばらく歩くと誰かの笑い声が聞こえてきた。ホッとすると同時に自然と走り出していた。
「あら?珍しいわね。お客様なの?」
少し開けた森の広場でテーブルを囲んでいたのは二人の女の人だった。二人ともとても綺麗な人達で、銀色の髪の女の人の傍らにはハープが置かれてる。
「まあ、本当!可愛らしいお嬢さんね!ようこそ。歓迎するわ」
銀の髪の女の人が私の手を引いて椅子に座らせてくれた。テーブルの上には真っ白な茶器。不思議な色のお茶が入ってる。お皿の上には花みたいなお菓子。不思議だわ。全然食べたいって思えない。喉も乾いてないしお腹も空いてないってこの時初めて気が付いた。
「私はエミリアよ。よろしくね」
「私はフェリシア。あらまあ、貴女はリュラ―を弾けるのですわね!私はハープよ!リュラ―もちょっとなら弾いたことがあるのですよ!」
「あ、あの私はセシリー・オルコットです」
「そう、セシリーさんというのですね。さあさあこちらへどうぞ!」
にこやかな金髪のエミリアさんに、どこかで見たことがある銀の髪のフェリシアさんは私を椅子に座らせてくれて話を聞いてくれた。
「まあ、そうなの。セシリーさんは星の聖地からいらっしゃったのね」
「あの、貴女方は大精霊様ですか?」
「まあ、違うわ!私はただの歌い手よ」
楽しそうに笑うエミリアさんは大輪の花のよう。
「私達は人間ですよ。ただし、人の世界ではなくこの精霊の世界にいることを選んだ人間なの」
じゃあ、この人たちは精霊の世界へ連れてこられた人達なんだ……。
「私、どうしたら元の世界へ帰れますか?ご存知なら教えてください」
私が尋ねると二人は顔を見合わせて困ったような表情をした。どうしよう、この二人も知らないのかな。
でも次に二人が放った言葉は意外なものだった。
「帰りたいの?」
「帰っても大丈夫?」
「か、帰りたいです!帰らなきゃ……」
あれ?私ってどうして帰りたいんだろう?
「せっかく星の音楽団に入れて、これからもっとたくさん精霊様のために演奏して……」
「それなら、この時の聖地でもできるわよね?むしろここの方がたくさんの精霊様達がいるわ」
金色の風が吹いて木々が揺れる。葉っぱの中から光が現れ、無数の光達が空へ飛び立った。
「精霊様がたくさん……」
ここは時の聖地。精霊様達の世界なんだ。ここにいる方がリュラ―を演奏する甲斐があるのかも。
「それに話を聞くとあちらはセシリーさんには危ない世界みたいだし。しばらくはここにいた方が安全ではないかしら」
あの黒い獣のことを思い出すとふるえがくる。あれは私を狙ってたんだろうか?あんな怖いものがいる世界に帰る必要なんてある?ずっと安全なこの場所で、精霊様達のために演奏していければ幸せなのかも?頭がぼんやりとしてくる。でも少しだけ胸が痛い……。
ふいにエミリアさんとフェリシアさんがそれぞれに遠くを見た。
「また誰かが来たみたいね」
「本当だわ。あらまあ、なんて懐かしい……。そう、この子はあの子の……そうなのね」
私の他にも誰か来たの?しかもフェリシアさんの知り合いなのかな。って胸が本格的に痛くなってきたような気がする!っていうか熱い?!
「何?何なのっ?!ペンダント?」
虹色のアイオルニアのペンダントが熱を持ってる!慌てて取り出すと、うっすらと光ってるように見える。なにこれ?熱いっ!でもおかげでなんか頭がすっきりしてきた。
さっきまではずっとここにいてもいいかな、なんて思っちゃってたけどやっぱり無し!絶対に無し!ポロス学園は中途で入ったけどちゃんと卒業はしたいし、奨学金も返さなきゃだし、何よりも星の音楽団でちゃんとした定期演奏会にまだ一度も参加できてないし、もっともっと弾いてみたい曲もあるし、できたらリュラ―専用の曲も作ってみたい。それにまだ星の音楽団に入れたご褒美を自分に買ってないし、食べてみたいお菓子もあるし、着たいと思ってた服もある!それに、なにより仲良くなった、もっと仲良くなれそうな人達ともまだお別れしたくない!
「というわけで、精霊王様!私、絶対に帰りますから!」
たぶんここにいるはずですよね?精霊王様。
「あらあら。ですって、星の精霊王様」
くすくすと笑うエミリア様。
「セシリーさんはまだあちらにいたいのですわね。まだお若いんですもの当然ですわよねぇ……あの子も不憫だし、わたしもセシリーさんのお味方になりますわ」
そういうフェリシアさんだってどう見ても二十代に見える。フェリシアさんが軽く手をはらうと傍に置いてあったハープが消えた。ええ?消えた?どこに行ったの?!
「フェリシア!このまま帰せばまた私の奏者がまた危険な目にあってしまうかもしれないのだぞ?」
精霊王様の声は明らかに不機嫌だった。精霊王様は私を心配してくれてるんだね。でも……。
「ですが、セシリーさんは帰りたいのですわ。まだお小さいのですから、お家に帰してあげてくださいな。城の外にセシリーさんを迎えに来た者達もいるようです。きっとその者達がセシリーさんを守りますわ。だってこんな所まで来てしまうんですもの!」
え?誰か待ってるの?もしかしてどっかに飛ばされちゃったゲイルが私を見つけてくれたの?
「ゲイル?ゲイルっ!!」
私はあのガラスの絵画の場所へ戻ろうとして走った。けどどういう訳か辿り着けない。
「おかしいわ。こんなに遠くなかったのに。それに木が邪魔をしてきて走りづらい。とおせんぼされてるみたい」
「扉を開きたければ思いを示せ」
やっとたどり着いた扉の前でまた声が聞こえた。さっきは簡単に開いた扉が全然開けられない。思いを示す?どうやって?ううん。わかる。私にできることは一つだけ。このリュラ―を弾くことだけだ。私はリュラ―を構えてそっと弦に触れた。
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