時の聖地で
来ていただいてありがとうございます!
見渡す限りの花、花、花…………
いつの間にかゲイルと一緒に広い花畑にいた。広すぎてその先には何も見えないくらい。ゲイルがいなかったらきっと心細くなってたと思う。
「ここって星の聖地?違うよね。空がピンク色……綺麗だけど……」
確かコリンナ様がこんなドレスを着てたっけ。
「んーちょっと違う―。そこに近いけどそこじゃない」
「え?じゃあ、まだ行ったこと無いけど花の聖地とか?」
「違うー。ここは僕達の世界」
「え?精霊様の世界なの?じゃあここが時の聖地……?」
ざぁっと風が吹いて無数の光の球体が浮かび上がり空へ舞い上がっていく。
「すごい……花の精霊様がたくさん……!綺麗……!」
「…………あれ?そう言えば私って確か岩のステージから落ちたんだよね?」
ディオン君との演奏が終わって、大精霊様に会って、それからあの黒い獣に襲い掛かられて……。そこまで思い出して体がふるえた。
「あれって何だったの?!もしかして精霊様?!私何か怒らせるようなことしちゃった??」
考えてもわからない。
「違う!!あんなの僕達の仲間じゃない!」
「ゲイル」
珍しくゲイルが強い口調になったのにすごく驚いた。
「あれは人間の生み出したものだ」
急に辺りが暗くなって、世界が夜空になった。どこからか響いてくる声にゲイルも驚いてるみたい。
「精霊王様ー!?」
「え?」
この声が精霊王様の声?周りを見回すけどどこにもそれらしき人影は見えない。
「そうか。姿が見えないと、不安なのだな。わかった……」
星空の中にひときわ輝く男の人が顕れた。長い長い髪、青白い光を放つその人はどこかお父さんに似てるような気がする。フィルともエクランド様とも。外見の年齢はエクランド様と同じくらいかな。この方が精霊王様なの?精霊様達の中で一番偉い人?
「少し違う。私は数多いる精霊達の中で比較的永く生きているだけの存在だ。精霊王と呼ばれる存在は他にもいる。だから私は特に偉くはないのだよ、セシリー」
「あ、私の名前……」
それに私、声に出して喋ってないのに伝わってる?
「セシリーのことは良く知っているよ。名前もそのリュラ―を一生懸命に練習していることも」
「リュラ―?」
あ、リュラ―を持ったままこの世界に来たんだ。
「ねえねえ、セシリー!何か弾いてよー!」
「えっ?ここで?!」
こんな上も下も無いようなふわふわした場所で演奏なんてできるかな?
「私も聞きたいな。ではここではどうだ?」
精霊王様の言葉が終わらないうちに世界が変わった。それは花が咲き乱れる庭園の中の東屋だった。
「お城の中の庭みたい」
さっきの花畑も星空の世界も綺麗だったけど、ここも綺麗。でもよく見ると色々な季節の花が一斉に咲いてて不思議な場所……。
「じゃあ、いきます!」
精霊王様と向かい合わせで座ってリュラ―を構えた。庭園の中の東屋なのにとてもふかふかな柔らかいソファが置いてあって、とても座り心地がいい。私は何となく頭に浮かんできたサフィーリアっていう、空で一番明るい「導き星」のことをイメージしてつくられた曲を演奏した。ひじ掛けに頬杖をついて目を閉じた精霊王様は柔らかい微笑を浮かべながら、リュラ―の音を聞いていた。今日のゲイルは東屋の中で器用に座りこんで、珍しく大人しくしてる。
「素晴らしい演奏だった。セシリーはいつも上手だね」
演奏が終わると精霊王様は身を起して拍手をしてくれた。
「いつも聞いていてくださってたんですか?」
「ああ。みんなの音を聞いているよ。でもセシリーの音はいつも気持ちが良い音だ」
うんうんってゲイルが頷いてる。
「良かった。精霊様達に喜んでもらえると、私も嬉しいです」
「だが今はあまり良い音が聞こえないことが多い……。悲しいことだ」
「そうなんですか?でも星の音楽団の演奏会では大精霊様がよくいらっしゃってますよ?」
「ああ、星の音楽団の音楽もいつも素晴らしいよ。だからセシリーも入るといいと思ってたんだ」
またにっこりと微笑む精霊王様。今度はうっすらと覚えてるお母さんやマーガレットさんの笑顔に似てるような気がした。それで精霊王様は私に入団試験を受けさせるように言ったんだ。
「?いいや。私はそんなことを言ってないよ?人の王に良い音がする子達がいるようだねと伝えただけだ」
「ええっ?」
今日は驚くことばかりだ。つまり私達の受験が早まったのって王様が勝手に気を回しただけってこと?だったらあんなに大騒ぎする必要なんてなかったのに。
不思議そうに首を傾げる精霊王様はディオン君にも似てる。精霊王様って不思議な方だなぁ。さっきから私が考えてることにも答えてくれるし。私の知ってる人達に少しずつ似てるし。なんだかとっても懐かしい気持ちになる……。ちょっと待って!懐かしいって何?私が小さい頃に亡くなったお母さんはともかくとして、お父さんやフィル、エクランド様、マーガレットさん、ディオン君まで懐かしいって思うのはおかしいでしょ!そうだよ。きっとみんな心配してるはずなんだから、すぐに帰らなくちゃ!
「あのっ!精霊王様、私帰らないといけないんです!みんな心配してると思うので!」
エイミー、コリンナ様、エルベ先生、マーシーとノーラ、ジョディ―さん達や星降り亭のオーナー……。みんなの顔が頭に浮かんでくる。
「それは駄目だ。それはできない」
精霊王様はとても悲しそうな顔をした。前にフィルがこんな顔をしてたような気がする。ううん、してなかったかも……。なんだかよく思い出せない。めまいみたいな感覚がして頭を押さえた。
「セシリーっ!!頭痛いの?大丈夫?精霊王様、セシリーに痛いことしちゃダメだよ!」
ゲイルが立ち上がって私に寄り添った。
「精霊王様でもセシリーに酷いことするのは許さないっ!」
ゲイルってば精霊王様を睨んでるの?そんなことして大丈夫なの?怒られちゃうよ?
「雪山のゲイル、私はそんなことをしないよ」
「でもっ!セシリーは苦しいみたいだ!それにセシリーは帰りたがってるっ!帰してあげてよ!」
「やれやれ、やんちゃな子だ」
呆れたようにため息をついた精霊王様が人差し指をゲイルの鼻先に軽く当てると、ゲイルは白い光の球体になって空の彼方に飛ばされてしまった。
「ゲイルっ?!」
ゲイルが消えちゃった……まさか……。
「大丈夫。落ち着かせるために少し遠くへ離しただけだ。じきに帰って来るよ。それまではセシリーもここでゆっくり休むと良い…………」
え……ウソ……精霊王様の姿が薄らいでいく?
「精霊王様!まだ消えないで!教えてください!どうやったら人間の世界に帰れますか?」
「……………………その時がくれば帰してあげられる。それまではここで……」
「待って!待ってください!その時っていつなんですか?わっ!」
くらくらする頭で精霊王様を追いかけようとして転んでしまった。
「ここどこ?」
起き上がって周囲を見ると、もうさっきの庭園はどこにもなかった。また夜空だけの空間に無数の星が瞬いてる。でもさっきとは違って、遠くの方に不思議な形のお城のような建物が見える。
「雲の上に建つお城……?あそこに行けば精霊王様に会えるの?」
たった一人取り残された不安の中、他に行く当てのない私はトボトボと満天の星空の中を歩き始めた。
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