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初雪の日

来ていただいてありがとうございます!

※フィル視点です




「ああ、まただ…………」

僕は練習室の小窓からその光景を見ていた。窓辺に座った君は精霊達の光に囲まれてリュラ―を奏でている。あの春のダンスパーティーの夜と同じ。

「そんなに窓を全開にしていたら、また熱を出してしまうよ」

雪が舞い込んでくる練習室の中はすぐに冷え切ってしまうだろう。すぐに練習室に入って窓を閉めたいという思いと、このままここで見ていたいという思いがせめぎ合う。そんな風なやわらかな笑顔の君が僕を見たことはまだ一度もない。精霊達に囲まれる君はとても楽しそうだ。最近は僕にも笑顔で接してくれることも多くなったけど、物足りない気持ちがいつもある。


リュラ―やハープ専用の曲は少なくて、エルベ先生が手直ししてくれた楽譜。今日、休みを取っている先生の代わりに君の分を預かって来ていた。早く渡して練習をさせてあげなければ……。わかっていてもなかなかノックができない。


「なんだ?」

異変が起こる。一瞬光が溢れたような気がする。精霊達が集まって来ているのだからそれはおかしくない現象だ。でも何かが違う。そう感じたその瞬間、ノックも忘れドアを開いていた。


「セシリーっ!!」

光の中に消えていく?!理由も理屈も何もない。ただ君の姿が光の中に薄れていく。それが恐ろしかった。リュラ―を弾く手を強く引いた。


「ふぃ、ふぃるさま?」

気が付くと僕はセシリーをリュラ―ごと抱きしめていた。良かった。セシリーは消えてない。そのことに心から安堵して思わず腕に力がこもってしまった。

「あ、あ、あ、あのっ!!フィル様!ど、どどどうしましたか?……」

かなり動揺したような声に我に返った。かなり名残惜しかったけれどそっと腕をゆるめた。

「ごめん。セシリーが消えていくように見えて驚いたんだ」

「き、消えて?そんなことありえません。私はここにいますよ」

やっと普通に喋れるようになったセシリーの顔はまだ耳まで真っ赤だった。こういう事に慣れてないらしいことにまた安堵した。リュラ―を抱き締めたままの体が少しふるえてることに罪悪感を覚えて、セシリーから少し距離を取った。落としてしまった楽譜を拾いながら説明する。


「あり得るよ。精霊達が気に入った人間を精霊の世界へ連れて行くことは」

「え?それって物語の中の事なのでは?」

驚いた表情のセシリーを微笑ましく思うと同時に自分がやらかしたことに気が付いた。これはあまり一般には知られてないことだった。僕の祖母の母は王家の血を継いでいる。そして音楽の才能もあり星の音楽団にも所属していた。そのためか祖母は精霊について他の貴族でもあまり知らないことを色々知っていて僕にも教えてくれた。

「その、大昔の姫君が精霊の世界に連れて行かれたことがあるそうなんだ」

聞いた話を少しだけぼかして伝えた。


「そうなんですか……」

なにやら考え込んでいるセシリーの顔を覗き込んだ。どうしたんだろう?

「何か心配事?」

「あ、いえ、精霊の世界ってどういう所なんだろうって思って。時の聖地がそうなんでしょうか?」

「ああ、そういう人もいるね。何しろ行ったことがある人がいないから、よくわかってないんだろうね」

なにしろ「不可視の聖地」だ。連れ去られた姫君は帰ってくることはなく、病死扱いになっているという。帰って来た人間が何かを語ったという話は僕も聞いたことがない。

「不可視の聖地なのに、あるのはみんなが知ってるんですね……」

「……そうだね。不思議だね」


セシリーが少し遠くを見ているような気がして不安になった僕は、慌てて拾った楽譜を手渡そうとした。

「そうだ。これを私に来たんだった。エルベ先生が手直ししてくれた楽譜だよ」

「……ありがとうございます…………あの……」

どうしたんだろう?まだ少しセシリーの頬が赤い。

「手を」

「て?」

ああ、手か!セシリーの片手はリュラ―を持っていて、もう片方の手は……いつの間にか僕が繋いでいてそのままだった。

「ああっ!ごめん!」

慌てて手を離すとセシリーは楽譜を受け取った。


「ありがとうございます。練習、頑張らないとですね」

そういって楽譜を見つめるセシリーはどこか晴れ晴れとした顔をしていた。受験の命令が下りた時には困り切って不安そうにしていたのに、どこか吹っ切れたような表情をしてる。これならきっと大丈夫だ。恐らくセシリーは合格するだろう。本当に頑張らなくてはならないのは僕の方だ。絶対に一緒に星の音楽団に入らなくてはならない。今回僕が落ちたら一年間もセシリーと離れてしまう。学園だけならいざ知らず、星の音楽団は才能ある人間の宝庫だ。そんな中にセシリー一人を置いておいたらあっという間に誰かにとられてしまう。そんなことはとても許容できない。今の僕はまだ貴族という身分の軛から逃れられないけれど、僕の音が精霊に認めてもらえるなら僕は自由になれるかもしれない。


「じゃあ、僕も練習に戻るよ。お互い頑張ろう」

開いたままの窓をそっと閉めて消えていたストーブに火を入れてから、僕はセシリーの練習室を後にした。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!


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