束の間
来ていただいてありがとうございます!
「やっとお昼ご飯だ―」
朝も午前中も午後も放課後も寮に帰ってからも練習練習練習。そして夜寝る前には筆記試験の勉強。
「休む暇が無い―……」
目の前のテーブルにはトレーにのった熱々のお昼ご飯達。これを食べたらまた練習だ。うー、食べたいけど食べ終わりたくない……。
今日のお昼ご飯は南方の貝と野菜がたっぷり入ったクリームスープにチーズ入りのハンバーグ。なんて贅沢なお昼ご飯!しかもポロス学園の食堂やカフェテリアは生徒と教職員なら無料で食べ放題。
「ああ、ご飯だけが楽しみだぁ……」
スプーンを握ったまま遠くの空を見た。(見えないけど)
「セシリーったら」
「お疲れだね」
事情を知ってるマーシーやノーラはちょっと呆れつつも労わってくれる。
「どうせ受かりっこないのに、何でこんな目に……」
「大変ね」
マーシーはサンドイッチを一口。
「王様の命令じゃ仕方ないよね」
ノーラはお肉のソテーを切り分けてる。あ、そっちも美味しそうだったなぁ。スープをかき混ぜながら明日はそれにしようかなって食いしん坊を発動してた。もたもたしてたら、マーシーとノーラは用事があるからって先に食事を済ませて食堂を出て行ってしまった。うう、自業自得だけど一人でご飯はちょっと寂しい。
「わたくしもご一緒してよろしいかしら?」
眩しい銀の豊かな縦ロールが現れた!手に持ってるトレーには私と同じメニュー。ちょっと親近感。
「コリンナ様!珍しいですね」
いつもは仲のいいご学友と食事をとるのに、どうした風の吹き回しだろう?
「セシリーさんも突然のことでご苦労されてるようですわね。心中お察しいたしますわ。わたくしも同じですわ。急に受験を早めることになってしまって」
「え?コリンナ様も今度受験なさるんですか?」
「ええ。わたくしも受験を勧められてしまいましたの。星まつりで一緒に演奏した皆さんも一緒ですわ。でもわたくし、最初はお断りしましたのよ?」
そんなにいっぱい二年生が受験するんだ。知らなかった。そんなに星の音楽団は人手不足になっちゃうの?
「私もです。全然自信が無いのでお断りしたんです。それなのに……。もう腹をくくって恥をかきに行くつもりです」
「まあ、セシリーさんたら大袈裟ですわ。それにセシリーさんなら大丈夫ですわよ」
「……そんなことありません」
憂鬱になりつつもあったかい料理をゆっくり食べて少しだけ気分が回復した。情緒が乱高下してるよね。
ポロス学園では星の音楽団で演奏される曲、つまり精霊様を讃える曲を学ぶ。そのための学園だから当然だよね。でもよく演奏される曲でも何十曲もあるし、あまり知られていない曲を含めたら百曲以上ある。この前の大風の時みたいな不定期の定期演奏会もあるから、すぐに対応できるようにそのほとんどを三年間で習得しなくちゃならない。二年生の私達はまだその途中なのだ。ただ、本気で音楽団を目指す生徒の中には入学前に教師をつけて、ある程度の曲をマスターしてくる人達もいる。
「二年生が受験なんて無理すぎます」
「そうでもありませんわよ?」」
「え?」
コリンナ様と一緒にとろけるチーズのハンバーグを食べながら、普段はあまり耳に入ってこない他の聖地の事を聞いた。この世界には星の聖地の他にも聖地と呼ばれる場所がある。それが花の聖地と闇の聖地だ。そしてもう一つ、存在が不確かな時の聖地。それぞれに精霊様達がたくさん集まって来る場所だ。
「花の聖地で選ばれた花の歌姫様は学生の時に試験に受かり、花の歌姫様に抜擢されたそうですわ」
「え?!学生の時に花の歌姫様に?!」
花の歌姫様っていうのは、花の聖地で特に精霊様達に愛され認められた歌い手の事だ。星の聖地では星の歌姫様って呼ばれる。コリンナ様のお姉様のクララ様がその筆頭歌姫様だ。
「たしか星まつりの演奏会にもいらしてましたよね?私達とそんなに年が変わらないんですね……」
「そうですわ!ですからわたくし達も堂々と入団試験を受ければいいのです!」
「そうですね。とにかく練習あるのみですね」
「ええ!その意気ですわ。…………セシリーさんは気持ちの良い方ですわね……ふう……」
「どうかなさいましたか?コリンナ様」
「実はわたくしのチームメイトだった方の一部が、皆さんに自慢して回ってるそうですの」
「自慢ですか?」
「ええ。ろくに練習もせずに試験を受けるつもりのようなんです」
「練習をしない???」
不思議すぎて理解できない。三年生の先輩方と違って圧倒的に色々な準備が足りない私達二年生は、今必死で練習しなくちゃいけないのに。
「たとえ星の音楽団に入れなくても、受験できただけでステータスになりますから」
つまり、受かっても受からなくてもどっちでもいいってこと?
「王都で暮らすのなら、それで十分だと考えているのでしょうね」
「そんな……」
それって遊び半分ってこと?私だって受かるとは思えないけど、それでも必死に練習はしてるのに。だって試験官さんにも、星の音楽団にも、そして精霊様達にも失礼だと思うから。少しでも良い演奏をしたいと思ってる。それなのに……。
「それだけではありませんわ。彼らが騒いだおかげでわたくし達の事が知れ渡ってしまって、受験のための推薦状を求めて教職員棟には生徒達が集まっているようですわ。皆さんご自分にとても自信がおありなんですね」
「そんなことになってたんですね……」
練習に夢中で知らなかった……。
コリンナ様とお昼ご飯を食べ終えて練習室に戻ると、窓の外は雪が降り始めていた。
「どおりで寒いと思った……初雪だ……綺麗……」
ということは今日これから星の音楽団が初雪の演奏会を開くんだろうな。
「練習があるから聞きに行けないけど」
雪の精霊様を讃える曲ならもう教わってる。私は窓辺に座ってリュラ―を弾き始めた。受験のための曲じゃないけどたまにはいいよね。
窓から白い丸い雪が入って来る。ううん、これは精霊様達の光だ。リュラ―を弾く私の周りを踊りながら飛び回ってる。喜んでもらえたみたいだし、私も楽しい。リュラ―を弾くのは楽しい。精霊様が楽しいと私も楽しい気分になる。そうだね。私達の演奏は精霊様に喜んでもらうためだった。試験でも同じだ。下手でも心を込めて演奏しよう。改めてそう思い直した。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




