秋の宴
来ていただいてありがとうございます!
「お前達、今度の冬の入団試験を受けてみないか?」
ある秋の日、エルベ先生が教室に入って来るなりフィル様と私に向かって言った。
「え?」
入団試験?入団試験って星の音楽団の入団試験のことだよね?
「…………………………いきなりですね、エルベ先生」
フィル様も驚いていて、とっさに反応できなかったみたい。
「お前達なら他の先生方も推薦状を書いてくれるそうだ。もちろん俺も書くぞ」
私とフィル様は顔を見合わせた。
星の音楽団の入団試験は毎年、年が明けてすぐの頃に行われる。ポロス学園では卒業前、つまり三年生になってから一年間しっかり準備をして、先生方から推薦状を貰って試験に臨む。二年生の私達が今から受験するとなったら、あと三か月程しか準備期間が無いということになってしまう。
「僕達を評価してくださるのはありがたいですが、さすがに時間が足りないですよ」
私もフィル様の言葉にうんうん頷いた。っていうか頷くことしかできない。星の音楽団には入りたいと思っているけど、さすがに二年生で試験を受けるなんて考えてもみなかった。
「問題ないだろ?筆記試験なんて大した問題は出ないから特に勉強の必要はないし、実技は自分の好きな曲を三曲選んで弾くだけだ」
「筆記試験もあるんだ……」
エルベ先生はこともなげ言うけどそんなの絶対無理だよね。特に筆記試験なんて私の天敵だわ。
「ただし、受かったら学園と音楽団と二足の草鞋になるからなぁ。忙しくて卒業できなかったらかなり恥ずかしいけどな。あっはっはっ!」
それは笑い事じゃないと思う……。すっかりフィル様と私が試験に受かる想定で話をしてるのは何故なの?
「とにかく、光栄なお話ですが無理があるので今回は見送らせていただきます」
「あ、私も無理です!」
フィル様に乗っかる形で私も断った。
「そうか……うーん。まあもう少し考えてみてくれよ」
エルベ先生はそれ以上強く言ってくることはなく、その日はそのまま授業が行われた。
秋は実りの季節。リオ村では豊かな実りをくださる精霊様に感謝しつつ、各家庭でちょっとしたご馳走をつくって食べて、飲んで歌って楽器を演奏したりする習慣がある。それはここ星の聖地の街でも同じみたい。食べ物屋さんには今年採れた作物を使った料理やお菓子がずらりと並んでる。リオ村では手作りするけど、この街ではご馳走を買う人の方が多いんだね。
「お、美味しそうなものがいっぱい……」
食べ物屋さんでよく目につくのは、鮮やかなオレンジ色のプキプキという野菜や皮をむくと金色の蜜が入ってるパタパタっていうお芋を使ったサラダやケーキやお菓子。果物とはちょっと違うけど、プキプキはほくほく、パタパタはねっとりした触感が美味しい食べ物だ。甘味があるからお菓子になることの方が多いのかもしれない。リオ村では蒸してバターをつけて食べたり、スープの具にするのが定番で、こんなにたくさんの料理法があるなんて驚きだった。
「そんなに珍しい?」
フィル様は色々なものを食べ慣れてるんだろうな。はっ!こんなに食べ物のお店を覗き込んでたらばっかりいたら、意地汚いって思われちゃうかも……って、もう遅いかな。
「去年は勉強で忙しかったので、ほとんど街の様子を見てなくて」
なんて言い訳にもならない言い訳をしてみる。
「そうか。セシリーは中途入学だったね。秋からみんなに追いついたのか。頑張ったね」
「ありがとうございます」
そう。結構頑張ったんだ。去年は本当に必死だった。リオ村とこの街では学校の勉強の内容が全然違ってたから。
「今年は秋の定期演奏会に行けて良かったです」
星の音楽団の秋の定期演奏会は、その年の実りや収穫への感謝を込めて行われるもので、主に大地の精霊様を讃える曲が演奏される。去年も聞きに行きたかったけど、勉強が忙しくてそれどころじゃなかった。
「あのオズホーンさん達がメインの曲は中々いい曲だったね。今度エルベ先生に言って、僕達も練習させてもらおうか」
「あ、それいいですね!やってみたいです!」
新しい曲を練習するのはいつもワクワクする。どんどん練習して得意曲を増やして再来年の試験に備えたいんだ。
今日は秋の定期演奏会を終えたジョディ―さん達に誘われて、今年の収穫を一緒にお祝いすることになったから、今回は星降り亭じゃないお店にフィル様と一緒に向かってる。村でも家にお客様をお招きして一緒に食卓を囲むことがあるけど、ここではみんなで集まってパーティーをすることも多いんだって。
「やっほー!セシリー!オルブライト君!こっちこっち!!」
ジョディ―さんはもう顔がほんのり赤い。クラークさんは空のお皿をたくさんテーブルに積んでる。ブラッドさんはそんな二人をちょっと呆れたように見ながら、強めのお酒をちびちびと飲んでる。
「皆さん相変わらずですね。お招きありがとうございます」
フィル様は苦笑しながら席に着いた。
「お招きありがとうございます」
今夜は寒いから私もフィル様と同じ温かいお茶を注文した。あとは楽しみにしてたプキプキのパイ!この『ひだまり屋』さんという食堂はパイ料理が美味しいってエイミーに教えてもらってたんだ。精霊様達と農家の方々、それに料理人さん達にも感謝だわ!ありがとうございます!
「セシリー、このパタパタのプティングも美味しいよ」
クラークさんがボウルにたっぷり入ったプティングを取り分けてくれた。
「え?プティングなんてあるんですか?あ、本当!あったかくて美味しいですね」
「セシリー、こっちのレザンのゼリーも美味しいよ」
「わあ、レザンってお酒になる果物ですよね。お菓子もあるんですね。美味しい……!」
フィル様に勧められて食べたゼリーは深い赤い色。お店の中があったかいからひんやりしたものも美味しい。
「ふふふ、あなた達も相変わらずみたいねぇ」
「はい!頑張って練習してます、ジョディ―さん」
「そのようだね。噂は聞いてるよ」
ブラッドさんが燻製のお肉を食べながら琥珀色のお酒を一口。ブラッドさんもジョディ―さんも美味しそうに飲んでるけど、お酒ってそんなに美味しいのかな?
「そうよそうよ!聞いたわよー!星まつりの時と秋の選抜の時、大精霊様が来てくれたんだって?凄いじゃない!二人とも!」
「今年のポロス学園は豊作みたいだね。セシリーとフィルはもう入団試験を受けられるんじゃない?」
クラークさんがエルベ先生みたいなことを言う。
「エルベ先生にも受験を勧められましたけど、どう考えても私達には時間が足りないんです」
「あ、あいつちゃんと受験を勧めてくれたんだ」
「クラークさんはエルベ先生とお友達なんですか?」
「え?うーん、友達っていうとちょっと違うかな。仲間って感じ?」
エルベ先生はクラークさん達と同じ星の音楽団の一員で、ポロス学園で教師もしてる凄い人。エルベ先生こそ二足の草鞋を履いてる。
「実はねぇ、来年は引退する人が多いのよ。年齢とか体調があまり良くないからって人が続出しててね」
「そうなんだよ。だから学園の有望な人材を早めに確保しておきたいねって話になってるんだよ」
ジョディ―さんとクラークさんの期待の眼差しがフィル様と私に注がれた。
「そういう事でしたか……」
フィル様がお茶を飲みながら、ため息をついた。
「でもだからと言って僕達が試験に合格するかどうかは分かりませんよ。きちんと準備してきた先輩方の方が可能性が高いでしょう」
「そうかしら?セシリーとオルブライト君なら一発合格できると思うけど?」
「買いかぶりすぎです、オズホーンさん」
「俺も二人なら楽勝だと思うよ」
「クラークさんまで……」
「それに意外と切実なんだよね。最近ちょっとピリピリしてるからさ」
「クラーク」
ジョディ―さんが珍しくクラークさんを止めた。
「音楽団の中で諍いですか?」
フィル様が眉をひそめてる。
「ああ、いや、うーん、まあそんなとこかな」
「よくあるのよ。よりよい演奏のために言い合いになったりするから。もうそんなつまらない話はやめて今日は大いに盛り上がりましょう!」
少しだけ空気が張り詰めた気がしたけど、その後は和やかに賑やかに宴は続いた。なんだか星の音楽団の中でも色々あるんだなぁ。人の集まりだから仕方ない部分もあるのかな。お父さんも怖いこと言ってたし。音楽だけを一心にやっていたいのに。
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