大風の演奏会
来ていただいてありがとうございます!
「もう一年経ったんだなぁ」
「一年?」
寮の部屋でゲイルと並んで星空を眺めてた。窓は小さいのにゲイルが真似して座って来たからちょっと窮屈。夏の流星雨も綺麗だったけど、秋の夜空も綺麗。今夜は月が真ん丸で明るい夜だ。
授業の後、個人練習をしてから週の半分は夕方から夜まで星降り亭で仕事。帰って来てからお風呂を済ませてまた練習。仕事の無い日は夕食前まで練習をする。部屋に帰ってくると時々ゲイルがいたり、寮の練習室にゲイルが入って来ることもある。そんな時は夜遅くまでゲイルのために演奏会。秋の選抜チームの発表の後はこんな感じで毎日を過ごしてる。
「そう。一年。私が村を出てこの学園に来てから一年。そういえばゲイルと初めて会ってからも一年だね」
「一年かぁ。よくわからないや」
ゲイルはピンと来てない様子。
「精霊様と私達の時間の感覚って違うのかな」
「うーん、どうだろうね?」
さっきからゲイルの尻尾がパタパタ私の体を叩いててちょっと痛い。もう少し離れてくれてもいいのに。
「精霊様って私達よりずっと長生きなんでしょう?」
「そうみたいだね。人間はすぐにいなくなっちゃうからなぁ。セシリーもどうせすぐいなくなちゃうんでしょう?」
「……そうかもしれないね」
縁起でもないこと言うなぁ、この精霊様は。一応私は長生きするつもりでいる。でもゲイル達の感覚だとそうなんだろうね。
「あ!でもさ、セシリーも僕達の世界へ来ればずっと生きていられるよ!」
いいこと思い付いた!とばかりにゲイルは瞳を輝かせた。
「え?そうなの?」
「うん!あっちに行った人間は死なないし年をとらないって言ってたー!だからセシリーもこっちに来るといいよ!前に約束したし、僕が連れて行ってあげる!」
そういえばそんな約束したっけ。忘れてた。
「うーん。今はまだ行けないかな。また今度ね」
「えー?今がいいのにー!」
ゲイルは文句を言っていたけど、私にはまだ旅行に行くような時間は無い。星の音楽団に入るためにリュラ―の練習をもっとしたいし、第二楽器のハープ練習だって疎かにできない。第二楽器だってちゃんと試験があるし。去年よりも格段に少ないとはいえ音楽以外の授業だって試験だってある。
「さて!明日も早いし、私、もう寝るね」
「えー?もう?人間って不便だね。まあいいや。また来るねー。おやすみ、セシリー」
「うん。またね。おやすみなさい、ゲイル」
ゲイルは窓から外に出て行った後、風を纏いながら星空の中に消えて行った。
「精霊の世界かぁ。確か『時の聖地』って呼ばれてるんだっけ。教科書にも詳しい記述は無かった。ただ時々人間が迷い込んで帰って来たとか永遠に帰ってこなかったとか聞いたことがあるけど、どんな所なんだろう……。いつか本当に行くことがあるのかな……」
ベッドの中で色々想像していたらいつの間にか眠ってしまっていて、朝の光とカタカタと鳴る窓の音に起こされた。
「ん……風、強い。ゲイル……ご機嫌が悪いの?」
寝起きのぼんやりとした頭で考える。あれ?でも、やけに風が生暖かい。ゲイルの風はもっと冷たいからちょっと違うかも。
「どんどん風が強くなってくる」
いいお天気だけど風が強くて雲の流れが速い。制服に着替えて食堂に下りると、エイミーがもう食後のお茶を飲んでいた。
「エイミーおはよう。今日は早いのね」
「あらセシリー!おはよう!制服を着たの?今日は学園はお休みよ」
「え?!そうなの?どうして?!」
「これから嵐が来るからですよ」
寮母のマーガレットさんが朝食をのせたお盆を運んできてくれた。いつもなら自分で取りに行くんだけど、今日は特別みたい。今朝のメニューは野菜のポタージュスープと全粒粉の香ばしいパン、サラダとオムレツだ。
「ありがとうございます。いただきます。今日も美味しそう!それで、嵐って?」
スープをかき混ぜながら二人に尋ねた。
「この時期に大嵐が来ることがあるんです。今朝みたいな強い風はその前兆なんですよ」
「セシリーの村では無かったの?」
「うん。夏に雷と一緒に大雨が降ったりはあるけど、秋にこんなに強い風は経験がないかも」
「恐らく夕方くらいからは雨も激しくなってくるでしょうから、今日は夕方以降は出かけないようにしてくださいね」
「え?夕方以降?学園はお休みなのに、外出してもいいんですか?」
「何言ってるのセシリー!今日は星の音楽団の定期演奏会が開かれるのよ?!」
「え?今日?」
そんな話あったっけ?最近は一年生の時より余裕が出てきたから、星の音楽団の演奏会は公式の定期的なものも、団員の有志メンバーで行う非公式不定期なものもなるべく聞きに行くようにしてるし、情報も集めてる。
「今日の予定には入ってなかったような気がするんだけど……?」
「ええ!今日は不定期に行われる定期演奏会の日よ!!是非、聞きに行かなくちゃ」
不定期に行われる定期演奏会って何?
この時期にこの辺りでは海からやって来た嵐の精霊が暴れまわることがあるそうだ。その嵐を鎮めるために星の音楽団は定期演奏会をするんだって。予めやるって決まってる演奏会だけど、毎年じゃないから不定期に開催することになってしまう。だからそう呼ばれてるらしい。正式には大風の定期演奏会で、嵐が近づくこんな大風の日に演奏する曲があるんだって。これは絶対聞きに行きたい!私は急いで食事を終えてエイミーと一緒に岩のステージへ向かった。
歩くのも大変な風の中、星の聖地の岩のステージではローブを風にはためかせて、星の音楽団が風の精霊様を讃える曲を演奏してる。歌姫達や歌い手達の歌は風にも負けることなく聖地に響き渡り、歌や演奏が進むにつれてどんどん風が弱まっていく。そして今では少し生暖かい南風が時折強くふくだけになっていた。その後、雨の精霊様を讃える曲も演奏したけど、それでも夜にはまた強い風が吹き、物凄い大雨になった。
「もしも演奏会をやってなかったら、もっとすごい大嵐が来て、怪我人もたくさん出たかもしれない」
翌朝嵐の去った後の学園で、倒れた花を見ていたらいつの間にかフィル様が隣に立ってた。
「嵐を弱めることができるなんてやっぱり星の音楽団ってすごいんですね。ますます入りたくなっちゃいました!」
「うん。一緒に頑張ろう、セシリー」
「はい、フィル様」
嵐の後の青空は、嵐の前より澄んでいる気がする。季節はまた一歩歩みを進めて秋は深まっていった。
ここまでお読みいただいてありがとうございます!




