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あおとあかのきせき 下書き  作者: 世渡 繋
第一章
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友達 四

「やったね、愛嘉理!きっとこれからもっと増えてくよ!」

吾生は元気良く尻尾を振りながら、自分のことのように喜んだ。

「そうだと良いな。」

「うん!愛嘉理なら、世界中の人とだって友達になれるよ!」

両手を一杯に広げて力強く言う吾生に、愛嘉理は自信なさげに笑った。

「そ、それはちょっとハードルが高い気が…。」

「高いも何も、はーどるなんかないよ。愛嘉理の思いは、きっとどんな存在にも届くはずさ。」

「わ、分かった。」

拳を握り締めて真剣な顔で熱弁を振るう吾生の前で、愛嘉理は堪えきれず笑みを漏らした。

「…。」

「ご、ごめん。吾生は、横文字が苦手なんだね。それが何だかおかしくて…。」

拳を開き困ったように愛嘉理を見詰める吾生に、愛嘉理は詫びた。

「…僕はこの村でしか過ごしたことがないから、最近使われるようになった他所の言葉は難しいんだ。」

口を尖らせる吾生に、愛嘉理は笑った。

「神様にも、苦手なものがあるんだね。何か意外だな。」

「僕にだって、それくらいあるよ。」

「そっか。」

完璧でどこか遠い存在に感じていた吾生に親近感を覚えて、愛嘉理は少し嬉しくなった。

「…酷いなぁ、喜ぶなんて。」

「ごめん。でも何か距離が縮まった気がしたら嬉しくて、つい…。」

困ったように笑う吾生に謝る一方、しかし愛嘉理は納得が行かないと言った様子で少し口を尖らせる。

「でも吾生こそ、そういうの全部分かってるくせにそんなこと言うなんて。」

「ふふ、ごめんね。でも、もうそろそろ分かったでしょ?」

「何が?」

悪戯な笑みを見せる吾生の問い掛けの意図が、愛嘉理には全く分からなかった。すると、吾生は一層その表情を深めた。

「僕は、愛嘉理が思うような完璧な神じゃないってこと。」

「…そうみたいだね。でも、私はその方が良いかも。」

「意地悪でも?」

「それはどうか程々でお願いします、神様…!」

「どうしようかな…?」

両手を合わせて願う愛嘉理に、吾生はわざとらしく考える素振りを見せる。

「もう、何で吾生と言い繋くんと言い私に意地悪するのかなぁ…。」

「ふふ、それは愛嘉理が可愛いからだよ。」

「…?」

「あの、もしかしてからかってる…?」

困惑する愛嘉理に、吾生はわざとらしく驚いて見せた。

「まさか、本当のことだよ。」

「…?」

「繋の気持ちが、僕にはよく分かるよ。愛嘉理は思ってることがすぐに顔に出るから、それがすごく可愛いし飽きないんだ。真面目で純粋な分、尚更ね。」

「何か複雑だなぁ…。」

愛嘉理は、素直な気持ちを述べた。

からかわれるのは、困る。嫌われて罵られることには慣れても、愛されてからかわれた経験はない。上手いやり方を自分は知らないのだ。

愛嘉理が頭を掻いていると、吾生は微笑んだ。

「ふふ、一緒にいると楽しいってことだよ。」

「物は言い様だね…。」

口ではそう言うものの、しかし考えてみれば自分の言葉が吾生の感情を動かした時、愛嘉理は少し擽ったい気持ちになる。そしてそれは、もっと色々な表情を拝みたいという背徳感を伴う衝動となる。それなら少しは分かる気がする、と愛嘉理は思った。

「でもそれで言ったら、吾生だって似たようなものだよ?」

「じゃあ僕や繋の気持ち、少しは分かるんじゃない?」

愛嘉理のささやかな反撃に、吾生は余裕のある表情で返した。

「まあ、全く分からないとは言わないけど…。」

敢えなく引き下がる愛嘉理に、吾生は堂々と言う。

「良いよ、僕は。愛嘉理になら、意地悪されても。」

「な、何言ってんの…!」

恥ずかしげもなく笑う吾生に、赤面する愛嘉理。

「ふふ、そういうところ。やっぱり可愛いなぁ、愛嘉理は。」

子供扱いをするように軽く頭をポンポンと叩く吾生に、愛嘉理は困窮の呟きを落とす。

「…神様らしくない方が良いなんて、言わなきゃ良かったかなぁ…。」

「本当に?」

吸い込まれそうな程透き通る深海の瞳に見詰められると、やはり愛嘉理は敵わない。敗北を認めるように俯く愛嘉理に、吾生は優しく微笑んだ。

「…そう言えば、もしかして澄風さんも横文字が苦手だったりするの?」

「ん、どうかな?」

暫くして復活した愛嘉理の問いに、吾生は顎に手を当てて考えた。

「ああ見えて好奇心旺盛だし、もしかしたら愛嘉理よりも堪能かもしれないよ?」

「それはそれで面白いね…!」

ニヤリと笑う愛嘉理に、吾生も同じ表情を浮かべる。

「僕も少し聴いてみたいかも。折角だし、澄風のところへ行ってみようか。」

二人は、澄風河へと向かった。


「横文字?まあ、人並みには知っていると思うが?」

土筆が顔を出す河辺に佇んでいた澄風は、二人の問いにそう答えた。するとそれを聞いた愛嘉理は、身を乗り出す。

「本当ですか?じゃあ、水を英語でお願いします!」

「確か、うぉーたーではなかったか?」

愛嘉理と吾生の二人はそれを聞いて顔を見合わせると、堪えきれないとばかりにクスクスと笑った。

「…む、何がそんなにおかしい?」

怪訝な顔で訊ねる澄風に、吾生は愉快そうに答える。

「やっぱり澄風も僕と一緒だね。」

「どういう意味だ?」

「他所の言葉の発音が苦手ってことさ。」

「そういうことか。まあ、無理もないだろう。」

ようやく得心行ったという様子で溜め息を吐く澄風に、吾生は頷いた。

「僕も愛嘉理にそう言ったよ。でも、どうにもそれがおかしくて仕方ないんだって。」

「失礼な奴だな。」

「ごめんなさい。でも親近感が湧いて何だか嬉しかったのもあって、つい。他意はなかったんですけど、澄風さん、怒ってます…?」

愛嘉理が頭を下げ恐る恐る訊ねると、澄風はふんっと鼻を鳴らした。

「そんなことで怒る程、私は小さくないぞ。寧ろ、そう思われることの方が心外だ。」

「あ、ありがとうございます。」

「僕からも謝るよ。ごめんね、澄風。」

「だから、もう良いと言っているであろう。」

澄風は、呆れた様子で言った。

「そう言えば、澄風さんに一つお訊きしたいことがあるんですけど…。」

「何だ?」

愛嘉理の突然の問いに、澄風は首を傾げた。

「自分のことを精霊って言うのは、何でですか?私から見たら、河の神様なのに…。」

「良い質問だな。」

澄風は、感心したとでも言いたげな顔をした。

「愛嘉理は、八百万の神は知っているか?」

「すべてのものに神様が宿るって概念ですよね。」

「うむ。それに基づくなら、私は神ということになる。しかし所詮、私はただの河だ。人間が想像するような大層な力など、持ってはおらぬ。だから人間が生み出した存在として精霊や化身、または河の主などと名乗っているのだ。」

澄風は、少し悲しげに溜め息を吐いた。

「でも吾生や繋くんから、澄風さんは虹の正体だと聞きました。虹を架けることができるなんて、すごいと思いますけど…。」

「虹は元々そういうものだ。河や海の化身が雨上がりの晴れた空を駆ければ、それが人間には虹に見える。ただそれだけのことさ。」

そんなことは取るに足らないとでも言うような様子で、澄風は答えた。

「ね?この前言った通り、澄風は意外と謙虚でしょ?」

二人のやり取りを見て困ったように笑う吾生に、愛嘉理は頷いた。

「そうだね、確かに意外だったな。」

「ふん、意外で悪かったな。それに私は謙遜しているつもりはない。すべて本当のことさ。…少なくとも私にとってはな。」

澄風は、少し悔しそうな顔をした。

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