第十一話 システィナ先生の魔石講義②
「イズミさん、説明を続けますがよろしいですね?」
「ぐ……よ、よろしくお願いします」
まぜまぜ工程の自動化案を閃いたイズミだったが、アベとシスティナに早く言いたい気持ちをなんとか我慢し、説明の続きを聞くことにした。
「では次に出力用の魔石ですが、こちらも入力用の魔石と同じように属性ごとに用途が異なり、等級が上がるほど性能も向上します」
「なるほど。もしかして属性の種類も同じなんですか?」
「そうですね、入力用魔石と同じです。それで用途としては、火属性なら加熱や乾燥、水属性なら冷却や洗浄、土属性なら固定や成形、あるいは物体を動かしたりですね。粉末工程の石臼も、土属性の出力用魔石で回転させています」
「土属性の固定や成形ってちょっとイメージつかないんすけど、具体的にはどんな感じなんすか?」
「物が動かないように押さえたり、型に入れた鉄板を挟み込んで形を作ったりします。例えば、一般的な家庭で使われている鍋などはこのような感じで成形していますね」
システィナは型に挟まれた鉄板とその型を押し込む土の絵を羊皮紙に描きながら説明する。
「あ~、プレス機みたいなことができるってことっすね」
「すみません、一つ確認させてください。出力用魔石はどうして物を押さえたり加熱したりできるんですか?」
土が型を押さえたり、火が出れば加熱することは理解できる。
しかし、なぜ魔石を使うと型を押すような土や火が出るのだろうかとアベは不思議に思っていた。
「確かに!どういう原理なんすか?」
「出力用魔石には魔術師の魔法が記憶されているんですよ。そのため、魔源石から魔力が供給されれば、その魔石に記憶されている魔法が発動します。土属性の出力用魔石であれば、その魔法によって生み出された土で、物を押さえることができます」
「おぉ、魔法!」
「すみません、私たちの世界には魔法という概念がなかったので、もう少し具体的に説明していただけるとありがたいのですが……」
「あっ、そうですね。こちらこそすみません。魔法というのは、魔力を特定の物質や現象へ変換する技術です。土魔法では、魔力を土へ変換し、その土を自由な形に操ることができます」
システィナの話によると、体内にある魔力を魔法陣を通して物質や現象に変換することを魔法と呼び、このスキルがなければ魔術師にはなれないようだ。
実際のところ、魔力自体は誰もが持っているらしいが、魔法として扱えるかは別の話で、魔力操作と属性の適性がないと魔法は使えない。
そして記録によると、これまでの異世界人はもれなく適性がないとのことだった。
「そんな気はしてたんすけど、やっぱり異世界人の俺には魔法は使えないんすね……」
いわゆる才能がない人にはどう頑張っても魔法は使えないという、ありがちな世界設定に嘆くイズミ。
「あれ?でも魔導盤が動いてるときって、魔石から魔法陣は出てなかったような気がするんですけど?」
「そうですね。そのことについて詳しい原理はわかっていませんが、魔石が魔法陣の代わりになっているからではないか、と言われています」
「あ~、理由はわかんないけど魔石自体が魔法陣と同じ役目を果たしてるってことっすね!なるほど……魔法陣エフェクトが出ないのはそのせいか」
ふむふむと一人納得するイズミ。
「えふぇくと……が何かわかりませんが、魔術師が魔法陣を出した状態で魔石に触れると魔法が記憶されるので、一般的にはそのように考えられています」
魔導盤についてもそうだが、魔石についてもまだまだわからないことが多いとシスティナは語っていた。
「ええと話を戻しますが、例えば物を押さえる用途の土魔法を記憶しておくことで、魔力が供給されたら同じ場所に同じ形の土が出てくるということでしょうか?」
「はい、基本的にはその通りです。細かく言うと、土の形状や出現する位置だけでなく、型を押し込む長さや力加減なども一緒に記録されます。ですので、魔術師の魔法がそのまま記録されると思ってください。あ、当然、魔力供給がなくなればその土は消えますので」
「一度魔力を物質に変化させても、永久に残るわけではないのですね」
「はぇ~、それじゃあ鍋とかの型も出力用魔石で毎回作ってるんすか?」
「それもできなくはないですが、土魔法で型を作る技術って結構大変なんですよ。よほど腕のいい魔術師ではない限り最初から完璧な型は作れません。そのため、何度か形状の調整が必要となりますが、魔力を供給し続けながら形状調整するとなると、かなりの集中力が必要になるそうです」
「あ~確かにそれは大変そうっすね。それに製品成形だったら何種類か型を作ることもあるでしょうし、型込みの土魔法の記憶代って、そう考えると値段も高くつきそうっすね」
「そうなんです。だから型そのものは専用の素材で作り、押し込む力を土属性の出力用魔石で生み出すほうが、型の形状で土魔法を記憶させるよりもコストメリットがあるんですよ」
「魔法ってなんでもありの便利能力ってイメージでしたけど、適材適所なんすね」
イズミが知っている異世界物語は魔法が使えればだいたいなんとかなるパターンが多かったが、この世界はそうではないらしい。
「魔術師がいるのに魔導盤が普及しているのも、やっぱりそのあたりが理由なんすか?」
「はい。もちろんコストも理由の一つです。魔法は一見万能に見えますが、すべてにおいて優れているわけではありません。量産品を作る場合であれば、何千何万回と同じ精度で魔法を扱える魔導盤の方が、人が作業するより再現性は高いですから」
応用性が必要な現場は魔術師、再現性が必要な現場は魔導盤。
どちらもこの世界の産業には欠かせない存在だという。
「システィナさん、出力用魔石は記憶された魔法を発動させるって言っていましたが、もしかして入力用魔石もですか?」
「そうです。出力用魔石には魔力を現象や物質に変換する放出系の魔法が記憶されますが、入力用の魔石には物体や温度を検知する感知系の魔法が記憶されます」
「感知系の魔法っていうと、森とかで索敵するときに使うあれっすか?」
「あれ?どうして魔法のない世界のイズミさんが、索敵魔法を知っているんですか?魔法の概念がないと先ほど……」
「いやいや、概念はありますよ。だからさっき先輩は嘘をつきました」
システィナはアベを見るが、アベは首を横にブンブンと振っている。
「魔法もドラゴンも元の世界にはいました!漫画やゲーム、映画といったエンターテイメントの中にね」
決まった、と言いたげなイズミに困惑するシスティナ。
「ええと、空想の物語などのことですね。現実の世界にはありません……」
アベはすかさず補足する。
「はぁ、そういうことですか」
ジト目でイズミを見つめるシスティナ。
「まぁでもそうですね。索敵魔法はいくつかありますが、属性によって索敵の方法は変わります。火魔法だと、魔術師を中心とした検知エリア内にいる魔物の体温を感知する方法ですね」
「おぉ、まさに異世界版サーモグラフィ!」
システィナが翻訳を求めるように再びアベを見る。
「私たちの世界にある温度を可視化する装置のことです……すみません、続けてください」
「ええと、あとは風と光と闇属性の出力用魔石の用途ですね。風属性は送風や吸引、光属性は発光や浄化、闇属性は遮断や減衰などです」
「ん~その中だと、浄化、遮断、減衰の説明希望っす」
「わかりました。それではまず、浄化効果のある出力用魔石ですが、これは食品工場なんかでよく使用されていますね。これがあるとないとでは日持ちする日数にかなり差が出ます」
「これは殺菌とか滅菌のたぐいですね」
「そうです。この工場でもポーションの品質劣化を防ぐために導入したいのですが、光属性持ちで、なおかつ浄化魔法を得意とする魔術師となるとなかなか見つからないんですよ」
「あ~、だから瓶詰め工程では風魔法で減圧させてたんすね。って、あれ?除菌とか滅菌は知ってるんすか?」
「衛生管理は専門ではありませんが、それくらいなら私でも知っていますよ。目に見えないサイキンって魔物がいろいろなところにいて、それが原因で食べ物が腐ったりするんですよね?お二人とは別の異世界人の方が、昔にこちらの世界に来たときにそうお伝えになったとか」
「魔物……?」
アベが首をかしげた。
以前から、元の世界の単語がすんなり通じるときがあったので、過去の転移者からなんらかのかたちで伝わっている可能性があるとは思っていたが、細菌が魔物と認識されていることは予想外だった。
「これあれじゃないっすか?過去の転移者が雑に教えたとか」
「雑というより、この世界の人にも伝わるように言い換えたんじゃないか? 元の世界とは前提になる技術が違う。同じ問題でも、解決方法が違えば説明の仕方も変わるだろうしな」
「あ~、確かに。元の世界に魔法があったら、医療とか科学も今とは全然違う方向に発展してたかもしれないっすもんね」
「なるほど、これまでの異世界人の方たちの知識が、お二人の世界とは異なる伝わり方をしているということですね」
「うわっ、これ俺たちの知識も変な風に伝わる可能性があるってことっすよね」
「……あまり変なことは言わないようにしないとな。特にイズミ、お前な」
なんで俺なんすかと言いたげなイズミを見て、システィナが少しだけ笑った。
「あとは遮断と減衰でしたよね?遮断や減衰は、光や音、振動などを弱めたり完全に遮ったりする魔法です。例えば、音を漏らしたくない部屋や、振動を周囲へ伝えたくない設備などで使われています。完全に遮るのが遮断で、弱めるのは減衰です」
「なるほど、そういう使い方もできるんですね」
「いや~、思ってた以上にいろいろできそうっすね先輩!」
「そうだな」
「あ、でもいろいろできるのはいいんすけど、入力用の魔石も出力用の魔石も魔法を記録するってことは、魔術師の人の力量がかなり重要ってことっすよね?」
「そうですね、用途に合った属性の魔法が使えることが前提で、なおかつその設備の要求能力や精度の魔法を扱える技術を持った魔術師でないといけません」
「そうなると、新しい設備を作るときはそのあたりも加味する必要がありそうですね」
魔導盤のことだけでなく、魔術師の使う魔法についても理解を深める必要があると、アベはメモをとりながら考えていた。
「長くなってしまいましたが、魔石の説明は以上です。実際にはほかにも魔法属性はありますが、大まかなところはこのような感じです。あとは都度、必要なときに説明します」
「ありがとうございました。今回の説明で、魔石と魔導盤の関係がかなり理解できました」
アベの言葉に続き、イズミもシスティナに頭を下げる。
「ではでは、ようやくまぜまぜ工程の自動化案の説明に移ってもいい感じっすよね?」
「はい、お願いします……と言いたいところですが、一回休憩はさみましょうか」
「休憩……しょうがないっすね!了解っす」
と言いつつ、実際は魔石講義で頭を酷使したため、休憩の申し出はかなりありがたいと密かに思うイズミであった。
◇◇
そして待ちに待ったイズミの自動化案のプレゼンが始まった。
「まぜまぜ工程って、撹拌ムラによる品質問題ってのもありますが、そもそも、きつい・汚い・危険の三重苦じゃないっすか」
「まぁ、言い方はあれだが、ポーション原液を焦げつかせないよう混ぜ続ける身体的負担や、薬草粉末が飛散する作業環境、それに釜の火によるやけどの危険は確かにあるな」
「そこをどうにかしたいんすよね」
「あ?なにが三重苦だって?」
「工場長!」
毎度のことながら、またもちょうどいいタイミングで工場長が検証場所に顔を出した。イズミは先ほど挙げた三つの問題を、勢いそのままに工場長へ説明した。
「……なるほど、お前の考えはわかった。で、どうするんだ?」
「まず、作業者が釜につきっきりで、かき混ぜ続けるのをやめたいと思います!」
「かき混ぜる作業自体を魔導盤で行うということでしょうか?」
「そうっす!でも単純に今のかき混ぜ棒の形状のままだとムラが残りそうなんで、自動まぜまぜに合った形にします」
「はぁ?自動まぜま……じゃねぇ、自動撹拌に合った形ってどういうことだ?」
「そうっすね、人が手で混ぜる前提の形じゃなくて、自動で回し続けるなら、液体の流れを作る形に変えた方がいいと思うんす。例えば、こんな感じの……」
そう言いながら、イズミは羊皮紙にかき混ぜ棒のイメージを書き始めた。そこにはハンドミキサーのように二つの回転羽がそれぞれ逆回転してポーションの原液をかき混ぜる絵が描かれていた。
「え?イズミお前、なんでハンドミキサーとか知ってるんだよ」
「あれ?俺、一時期お菓子作りにはまってたの、言ってませんでしたっけ?」
「え!イズミさん、お菓子作れるんですか?!」
「そうっすけど、システィナさんお菓子好きなんすか?」
「わ、私じゃなくて弟が好きなんです!」
「ほんとっすか~?まぁいいですけど。今度機会があれば作ってあげますよ」
「本当ですか?!言質取りましたからね」
「お前らなぁ、まじめにやれよ……」
工場長がため息をつく。
「す、すいません」
「私も申し訳ありません……」
イズミとシスティナがしゅんとした。
「……まぁ、作るんなら俺んとこの息子の分も頼むわ」
「工場長も乗っからないでくださいよ……」
今度はアベがため息をつく。
「でも、そもそも先輩がハンドミキサーとか言い始めるからっすよ!……じゃなくて、まぜまぜ工程の話続けますね!」
「お、おう」
「えっとですね、かき混ぜ自体はこのダブルかき混ぜ棒で行います。材料を釜に入れたら起動ボタンを押して、かき混ぜ開始。あとはタイマーで停止させます」
イズミが先ほど羊皮紙に書いたかき混ぜ棒の絵を指しながら言った。
「それから、ダブルかき混ぜ棒が動いてるときは巻き込まれの危険があるんで、作業者が近づいたら止まるようにセンサーを配置したいっす。光属性の入力用魔石で侵入を検知するのがよさそうっすけど、適性のある魔術師が見つからなければ、土属性の重量検知でも代用できるかもしれません」
ダブルかき混ぜ棒という命名に引っかかったものの、工場長は今は突っ込むなと言いたげに、アベとシスティナへ視線を向けた。
「えっと、ダブルかき混ぜ棒?は回転軸が二軸なので、土属性の出力用魔石が二つ必要ですね。回転速度はどのくらいの速さが必要でしょうか?あと二軸の回転速度は同じにする必要がありますか?」
「そこは正直、やってみないとわかんないっすね。それぞれの回転速度を調整できれば、いろいろ試せるんすけど」
「まぁ、そこはトライアンドエラーだな。それと作業者が近づいて停止した後は、自動再起動じゃなくてもう一度起動ボタンを押させた方がいいな」
「ん?作業者が離れたらまた動き出してもいいんじゃないのか?」
「作業者自身が周囲の安全を確かめ、設備を動かしても問題ないと判断したうえで、意思を持って再起動させることが大切なんです。現場では何がけがの原因になるかわかりませんからね」
「そういうことか。まぁ、作業者の安全を考えてるならそれに越したことはねぇな」
「じゃあ今の案をベースに、まぜまぜ君改の仕様をもう少し詰めるっすよ!」
そんな張り切るイズミをよそに、新たな名称が出てきてもう何でもいいやと思う三人であった。




