第十話 システィナ先生の魔石講義①
昨日の魔導盤検証から一夜明け、ポーション工場の一角にある作業スペースにいつもの三人が集まっていた。
「それではこれより、魔導盤で使用される魔石について説明を始めます」
そう話すシスティナの前には、赤みを帯びたものや、水面のように波打っているもの、吸い込まれそうなほど黒く輝くものなど、色とりどりの魔石が机いっぱいに並べられていた。
「へぇ~、魔石って結構種類いっぱいあるんすね」
イズミが赤みを帯びた魔石を手に取り、光に透かすように片目でのぞき込む。
「はい、そうなんです。それでこの魔石には、入力用、出力用、そして魔力供給用の魔源石を含めた三種類があることはご理解いただけていますよね?」
「はい。そこは問題ありません」
「加えて、これら三種類の魔石の中にはランクがあり、低級、中級、上級といった等級の違いもあります」
「お~!ポーションと一緒っすね」
「そしてさらに入力用と出力用の魔石には、火、水、土、光、闇など、属性ごとの種類があり、それらを用途によって使い分けています」
「属性の違いと等級の違いですね」
「属性属性!」
アベは羊皮紙で自作したメモ帳にペンを走らせる。
イズミもペンを走らせるが、属性というザ・ファンタジー用語に内心ワクワクしっぱなしだった。
「属性は先ほど例にあげたもの以外にもありますので、それらを含めるとかなり種類は多いです。そのため申し訳ありませんが、本日すべての種類の魔石をご用意することはできておりません」
「あ、いやいや!さすがに昨日の今日で全部準備するのは難しいと思いますし、そこは説明だけでも問題ないっすよ。ね!先輩?!」
「そうだな、こうして魔石の種類をまとめた一覧資料も準備してもらったわけだし。ですので、現物がなくても全然問題ありませんよ」
講義前に手渡された魔石の一覧資料に目を通しながら、アベもイズミの意見に同意する。
「お気遣いありがとうございます。では早速ですが、魔力供給用の魔石、通称魔源石からお話しさせていただきますね」
「了解っす!」
◇◇
「では、まず魔源石からですね。すでにご存じかとは思いますが、魔源石は魔導盤に魔力を供給するための魔石です。この魔石がなければ魔導盤を動かすことはできません。出力用魔石を多く使用する大型の魔導盤には、それに比例して等級の高い魔源石を使用する必要があります」
「あ~やっぱり魔源石は電源って感じっすね」
「そうだな。大型の設備になればそれだけ消費電力が大きくなるのと同じだろうな」
「ショウヒデンリョク……?」
「すみません、こちらにはない言葉でしたね。私たちの世界の設備は、電気というものをエネルギー源として動いています」
「デンキ……ですか?」
「そうっすね~こっちの世界で言うところの雷魔法みたいなもんっす。こんな感じでビリビリくるやつ」
イズミはガイコツと、そのまわりにトゲトゲといういかにもな感電イラストを羊皮紙に描き、システィナに見せる。
「ん?雷魔法って、なんでお前がこっちの世界側の立場で話をすんだよ」
「いや、でもビリビリくるというお話なら、そのデンキというものも雷魔法と同じかもしれませんね」
「ほら~」
得意げな顔をするイズミに、コイツ殴られたいのか?と思うアベだった。
「でしたら魔源石の魔力も雷魔法で充填して使用しますので、エネルギー源という意味でも似ているかもしれませんね」
「え、魔力の充填っすか?もはやバッテリーに充電する感じっすね」
再び聞き慣れない言葉が出てきたためか、システィナはまたも首をかしげた。
「私たちの世界のエネルギーを蓄えておく入れ物のようなものです。実際は持ち運び用の小型機械……こちらでいう魔導具のようなものに使われることがほとんどで、据え置きの大型設備ではあまり使われてはいません」
「あぁ、そういうことですね。魔源石は魔導盤で一定期間使用されると魔力が枯渇するので、魔力を充填する必要があります。先ほども言いましたが、魔力の充填には雷魔法を使いますので、その場合は雷魔法が使える魔術師に依頼します」
「ほ~、そうなるともはや雷魔術師ってインフラ職っすね」
「インフラ職って言い方が合ってるかはわからんけど、魔導盤の普及状況から考えても雷魔術師の重要性は高そうだな」
アベとイズミの中では魔術師は戦闘職のイメージが強い。しかし、魔導盤が産業に大きく関わっているこの世界では、魔術師の立ち位置も扱われ方も違うんだなと二人は考えた。
「そうなんです。魔法属性は生まれつきなので、現状雷魔法の適性がある方はどこの国でも重宝されていると思いますよ。一応、雷魔法が使えなくても魔源石に魔力を充填することは可能ですが、属性変換の魔導具を使用した場合、充填できる魔力量は元の六割くらいに減ってしまうので、効率があまりいいとは言えません」
システィナの話では、魔源石の充填報酬はフル充填した魔石の等級とその数で決まるため、属性変換を使用した充填方法では魔術師にとって割に合わないらしい。
「ちょっと思ったんすけど、雷属性に変換しなきゃダメなんすか?そのまま火魔法で充電するとか。そしたら属性変換での魔力ロスなしっすよね?」
「ジュウデン……充填ですね。おっしゃる通り、雷魔法以外でも充填自体は可能ですし、その場合は魔力量の減少もありません。ですが、雷魔法以外で充填した場合は魔導盤内での魔力循環速度が遅いため、生産ラインで使えないんです」
「どういうことっすか?」
「ええと、薬草粉末工程の粉末機は起動用魔石に触れたら石臼が回りますよね?雷魔法で充填した魔源石を使用した場合、起動用魔石に触れた瞬間に石臼が回ります。ですが、それ以外の属性で充填した場合は、魔石に触れてから石臼が回りだすまで十秒近くかかるんです。魔石から手を離して止めるときも同じです」
「動かすときも止めるときもでっかいタイムラグがある感じっすね」
「属性によって魔導盤全体の処理速度が変わるとなると、元の世界でいうスキャンタイムに近い概念かもしれないな。であればシスティナさんの言う通り、生産設備としては致命的な問題ですね」
アベは小さくうなずきながら、メモ帳に書き加える。
「あれ?じゃあ魔導具に使う魔源石も雷魔法なんすか?」
「いえ、魔導具のほとんどは常時発動型ですので、遅延しても問題ありません。だから属性はあまり関係ないんです」
いわゆる冷蔵庫や照明みたいな魔導具であれば、電源が入るまでに少し時間がかかると感じる程度なので問題はないらしい。
「なるほど、魔導盤の用途だから問題になるわけですね」
「はい。それと一応、光属性の魔力でしたら魔力循環速度は問題ありません。ですが、雷魔法以上に扱える方が希少なため、一般的には雷魔法が使われています」
「へぇ~、なら光魔術師や雷魔術師に生まれてたら勝ち組ってことっすね!」
「……この流れで言いにくいのですが、一応私も雷魔法なら使えます」
自分で重宝されてると言ってしまった手前、雷魔法を使えることを言うのをためらったが、これ以上ハードルが上がった状態でバレるほうが恥ずかしいと思い、システィナは申告することにした。
「マジっすか?!刻印魔法だけでなく、雷魔法まで使えるなんてどんだけ優秀なんすか!」
「そっ、そんなことはありません!」
「でも、それだけ優秀なシスティナさんが魔導技師を選ぶってことは、よっぽどこの仕事のことが好きなんですね!」
「ええ、まぁ……そうですね」
イズミの屈託のない笑顔を前に、システィナはどこか寂しげだった。
「……システィナさん?」
「いえ、なんでもありません。ここまでで何か質問はありますか?」
「では、一ついいですか?」
アベがメモを見直しながら手を上げる。
「出力用魔石を多く使用する魔導盤で、等級の低い魔源石を使用するとどうなりますか?」
「出力用魔石が一部しか動かないなど、設備の動作が不安定になります。等級差がありすぎる場合は最悪動かないですね。低級では一度に流せる魔力量が少ないですからね」
「あ~、電源の出力不足ってやつっすね。やっぱり全部等級の高い魔源石を使うっていうのは難しいんすか?」
「そうですね。まず、等級の高い魔源石自体が希少なので導入コストが高いです。また、魔源石は蓄えられる魔力量に比例して、放出する魔力量も増えます。しかし、設備が必要とする量に合わせて放出量を調整することができません。そのため大型設備を動かすには欠かせませんが、小型設備に使用しても稼働時間は延びないんです。ですので、等級を上げた分だけ魔力充填にかかるコストが増えてしまいます」
「放出する魔力量が調整できないって言いましたけど、刻印魔法で出力調整できるんじゃないんすか?そしたら稼働時間伸びますよね?」
「……」
システィナは口元に手を当てて考える。
「え?俺なにか変なこと言いました?」
「いえ、そうではありません。魔導盤だからできないと思い込んでいましたが、今思えば定義の条件が足りていなかっただけなんじゃないかと思ったんです」
「あぁ、そういうことっすか」
「これまではそれが当たり前だと思っていましたが……お二人といると常識が常識ではなくなってしまいますね」
「まぁそのあたりも後々試してみましょうか」
「……でも、もし魔源石の充填頻度が減ることになったら、雷魔術師の方たちの仕事を奪ってしまうことになるかもしれませんね」
システィナが複雑な表情でつぶやいた。
「それは確かにそうっすね。でも技術の発展に合わせて人の働き方も変えていく方が健全だと思うっすよ」
「どういう意味でしょうか?」
「雷魔法が使えるからって、みんなが魔源石の充電……じゃなくて、充填作業をしたいわけじゃないと思うんすよ。やれることと、やりたいことって案外違うじゃないっすか。できれば自分で選んだ仕事で生きていきたいっすよね」
「やりたい仕事……ですか。そうかもしれませんね」
「だとしても、この世界の人たちの生活を変える可能性がある以上、慎重になる必要はあるな」
「っすね」
「魔源石の件に限らず、魔導盤の検証結果については王国側でしっかり検討しますので、お二人だけで抱え込む必要はありませんよ」
システィナはそう言いながら一瞬魔導盤を見つめた。
「では魔源石の話はこれくらいにして、入力用魔石の説明に移りましょうか」
「問題ないっす」
「はい、私も大丈夫です」
◇◇
「入力用の魔石ですが、属性によって使用用途が異なります。火属性なら温度検知、水属性なら流量や液面の検知、土属性なら重量や接触検知などです」
「まぁ予想はしていたが、やはり入力用魔石はセンサー関係って認識で良さそうだな」
「きたきた!きましたね!これは機械設計である俺の出番じゃないっすか?」
「お二人の元の世界にも同じようなものが?」
「そうっすね!今の説明と同じような役割の、センサーっていう機器が元の世界にもあるんすよ。んで、俺はそのセンサーをどこにつけて、何を検知させるかを考えながら、設備の構造を設計してたんすよ」
「そして制御設計である私が、そのセンサーの信号を使って、実際に設備を動かすためのプログラムを考えていましたね」
「イズミさんが設備の動きを想像しながら形をつくり、アベさんが動かす仕組みをつくる。そういう役割分担をされていたのですね」
「はい。私とイズミ、その他にも多くの仲間たちと協力して設備を作ってきました」
アベは少し視線を落とし、中指で眼鏡の真ん中を押し上げた。
「まぁまぁ先輩!今はシスティナ先生の講義中なんで、センサー説明の続きを聞きましょ?ね?」
「イズミさん、先生呼びはやめてくださいと言いましたよね」
システィナは笑みを浮かべていたが、その瞳はナイフのような鋭さがあった。
「ひっ……す、すいません」
「冗談です。そんなに怒ってないですから。でも、次はないですよ」
「はい……」
試作ポーション事件を思い出し、人知れず冷や汗をかくイズミであった。
「システィナさん、質問いいですか?先ほどの属性以外には、どんなものがありますか?」
「そうですね、あとは風属性なら風量や空気圧の検知、光属性なら物体や距離の検知、闇属性なら照度検知や透過率検知です」
「なるほどなるほど。ちなみに、等級が上がると何が変わるんすか?」
さっきまでしゅんとしていたイズミが、何事もなかったかのように会話に入ってきた。
「属性によって多少の違いはありますが、大まかには等級が上がるほど検知精度が高くなり、検知距離も伸びる傾向にあります」
「先輩!」
「ん?どうした?」
「俺、まぜまぜ工程の自動化案、閃いちゃったかもしれません」
「……それはいいんだけど、まだ出力用魔石の説明終わってないからな」
アベの言葉に、システィナも静かにうなずく。
「まずは、最後まで説明を聞いてくださいね」
「……はい」




