てくてく
あんな騒動があった翌日に学校があるだなんて、という嘆きしかこの教室からは聞こえてこない。
教師陣も校長先生でさえ昨日の件について詳しい状況が把握できていないようだった。
「はあ、今日は学校休んでよかったかも」
「ん? 何か言った?」
「何もー」
とはいえ、ほとんどの人が疲労が溜まっているらしく、午前中はほとんど自習で午後からは休校となった。
「じゃあな、奏! 午後から休みなんて最高だけど、寄り道すんなよー!」
「それは君の方が気を付けるべきこと」
校門の前で柊斗と別れ、奏は一人、いつもの帰路を歩き始める。
周囲の生徒たちがカラオケや買い食いの計画で盛り上がる中、奏は喧騒から離れるようにして、人通りの少ない裏路地へと足を進めた。
「お疲れ、奏。昨日はちょっと大変だったみたいだね」
路地裏の奥にある、一見するとただの寂れたアンティークショップ。
その鍵のかかった奥の作業場で、温かいお茶の入ったマグカップを手に奏を迎え入れたのは、穏やかな物腰の青年、創也だった。
「ん」
「昨日の学校の件、ニュースでもかなり大きく取り上げられてるよ。怪我がなくて本当に良かった」
「あのなあ、こいつが怪我をすると思うか?」
ソファーに深く腰掛けた白石が、スマホから目を離さずにニヤリと笑う。
「わかってるよ。でもこういう言葉は必要じゃない?」
「これが創也の性分だし」
奏は手渡されたマグカップを受け取り、温かいお茶に口をつけた。
「ま、昨日は奏の大根役者っぷりを聞かされたし、奏にも苦手なことがあるんだって分かって安心したぞ」
「安曇先生には通用したよ」
「それはその先生がお人よしなだけだ。他の先生はびびって地下に閉じこもったのに一人だけ残された生徒はいないかと探し回る度胸はあったみたいだが」
二人のやり取りを、創也は優しく見守っている。
「……二人とも、雑談はそこまで。そろそろ本題に入っていい?」
部屋の奥、無数のモニターに囲まれたデスクから、千景が椅子の向きをクルリと変えてこちらを睨んだ。
「はいはい。千景様がお怒りだぞ、奏」
白石がわざとらしく肩をすくめ、ソファーに深く腰掛け直す。
その態度に、千景は小さくため息をついて呆れたような視線を向けた。
大学生の創也と歳が近い千景。
奏にとって二人とも仲間であり、千景に関しては優秀なハッカーで尊敬している。
「そういえば、僕がいない間何の話をしてたの?」




