演技
空中で反転しながら、ワイヤー付きのナイフを鋭く投擲する。
ナイフは2体目の大型侵蝕獣の『核』を正確に貫き、奏が手元でワイヤーを引くと、その鋭利な軌道は3体目の首をも容赦なく切断した。
目を閉じていても、問題なくその場を掌握できる。
侵食獣の筋肉の収縮、重心の移動がすべて線となって見えていた。
着地と同時に、奏は残りの侵蝕獣の群れへと自ら飛び込む。
「大きい獣は、ただの的」
相手の突進の力を利用して投げ飛ばし、懐に潜り込んでは『核』へ的確に打撃を叩き込んでいった。
「……12体、終わり」
『あっさり片付けやがって。公認の解決人がこの異変を察知してこっちに向かい始めたぞ。あと2分ってところだ』
「じゃあ、僕は校舎に戻る。まだ、やることがあるから」
奏はナイフをポケットに収めると、ブレザーの襟を軽く整えた。
上の階から必死に生徒を探すあの人の足音途切れ、視線がこちらに向いていることを感じていた。
――――――
一方、四階廊下。
安曇麗沙は、生徒が残っていないか必死に教室の扉を開けて回っていた。
その時、校庭の方から地響きのような激しい衝撃音が連続して響いてくる。
「うっ......」
地下に避難したとき、数人の生徒の安否が確認できなかった。
他の先生の制止を振り切り一番上の階へと戻ったのだ。
外からは侵食獣による騒音が鳴り響いていていたが、それも段々と音が小さくなっていく。
恐る恐る麗沙は窓から外を見た。
だが、目を凝らしても、そこにはただ侵蝕獣が消え去った後の静寂と破壊された校庭の無残な光景が広がっているだけ。
その代わり、侵食獣が倒された証拠 ―砕けた核が落ちていた。
「……誰かが倒したの?」
地下に戻ろうと麗沙が焦燥感に駆られながら廊下の奥へと再び走り出そうとしたその時だった。
四階の突き当たりにある美術準備室の扉が、わずかに開いているのが目に止まる。
普段しまっている扉が開いているのだ。
「誰かいるの……?」
麗沙が扉を押し開けると、遮光カーテンの下りた薄暗い室内、机の影に身を潜める人影があった。
「......あっ」
「奏くん?」
奏はブレザーを少し汚し、いかにも「見つからないように必死に隠れていた」という風を装って、わざとらしく肩をびくつかせてみせる。
侵食獣を初めて見た人なら、この反応が普通だろう、そう思って。
「安曇先生......?」
「良かった、見つかって。怪我はない?」
「はい。ただ、少し怖くて立ち上がれないくらいです」
「侵食獣は退治されたわ。安心して、一度避難しましょう」
麗沙が奏の肩に手を置き、安心させるように優しく微笑む。
その背後、窓の外からは、ようやく到着した解決人と警察たちの騒がしいサイレンの音が四階の美術準備室まで届き始めていた。




