お早めに
がらんとした教室を出て、奏はあえて生徒たちが向かった避難経路とは逆の方向へ歩き出した。
廊下の窓から見える景色は、先ほどまでの穏やかな日常は消えているようだった。
――ドォン!
激しい衝撃音と共に、校舎の一角から黒い煙が上がる。
奏は目を閉じたまま、ブレザーのポケットから一般の市場には出回っていない通信ができるピアスを取り出して耳につけた。
髪を少し弄ってそれを隠し、耳元を軽く触る。
『――よお、お寝坊さん。やっとお出ましの一報が入ったぞ』
耳の奥で響いたのは少し低く、それでいて緊張感のない男の声だった。
白石 大晟。
奏の活動を支える仲間。
「まだ学校にいるんだよ。白石」
奏は歩みを止め、廊下の窓枠に片足をかけた。
顔だけを外の校庭へと向ける。
『寝てただろ。それより、そっちの学校の防衛システム、完全にクラッキングされてる。さらに、公認の通信システムも見事に壊されてるな。公式の解決人が来るのはかなり時間がかかるだろう』
「やっぱり?」
ふっと小さく息を吐き、窓枠にかけていた足に力を込めて、そのままひらりと手すりの上へ飛び乗った。
常人なら足がすくむような高さ。
『ああ、っということでお前の出番だな』
「うん。だって僕も解決人だからね」
そう呟くと同時に、奏は手すりから迷いなく身体を投げ出した。
数階の高さからコンクリートの地面へと落下。
ただでは済まない行動だが、奏はひらりと重力を無視したかのように着地する。
そこはすでに、校舎の周囲をうろつく侵蝕獣たちの群れの中だった。
「……数は少ないけど、どれも大きい」
『ドローンから見てる。数は全部で12だな災害級には程遠いがこの学校にとっては十分災害みたいだな』
「なら、他の解決人が来る前に片付けるよ」
戦術、武器を問わない。
それが奏のスタイルだ。
ブレザーのポケットから一本のワイヤー付きの頑丈なタクティカルナイフを抜き放った。
武器へのこだわりはない。
ただ、そこにあるものを最適に使うだけ。
「……まずは、足場」
奏は跳躍した。
最初に肉薄した1体の脳天を、ナイフを持たない左の拳で鋭く殴りつける。
その一撃は侵食獣の巨体を地面へと叩きつけ、クレーターを作った。
その背中を足場に、さらに高く跳ぶ。
『おいおい、相変わらず無茶苦茶だな』
「静かにして、白石」




