姉さま
わたしのかあさまは、二人いる。
産みの母の一人目のかあさまと、今のかあさまだ。
一人目のかあさまは、姉さまにとても大きな期待をかけていた。
当時のわたしはそれがとても怖くて、いつもかあさまには近づかないようにしていた。
かあさまは姉さまにしか興味がなかったから、それでよかった。
姉さまのことは大好きだった。
いつも優しくて、いろいろお世話をしてくれた。
家族の中で姉さましかわたしを家族として扱ってくれる人がいなかったから、わたしは姉さまのことが大好きになった。
いつもいつも後ろをついて歩いて、姉さま姉さまと追いかけた。
わたしは姉さまに育てられた。
それが、姉さまにとってどういうことなのかを一切理解することなく。
姉さまはわたしよりずっと年上で、いつも勉強をしていた。
かあさまにそうしろと怒られていて、でも何も文句を言っていなくて、むしろ余裕があるように見えていた。
「ねえ玉兎、お父さんとお母さんのことは好き?」
そう、よく聞いてきた。
姉さまはわたしよりずっと賢かったから、そのころからいろいろ考えていたのかもしれない。
「父さまとかあさま?わかんない」
父さまとかあさまは、ほとんどわたしに興味がなかったから。
姉さまはしばらく考え込んでわたしの頭をなでてくれた。
「姉さま?」
「いいのよ。姉さまのこと、嫌いになってもいいからね」
そう言って抱きしめてくれた。
それから数か月したころから、両親の仲がとても悪くなった。
どうやら姉さまの扱いに関してのことのようだったが、そのころの家の記憶はほとんどない。
いつも家から逃げて、外にいたから。
朝姉さまと学校に行って、姉さまの学校が終わるまで待って、姉さまが塾に行くときに一緒に外に出ていた。
たまたまであったひろこちゃんは優しくて、ずっと一緒に遊んでいた。
ひろこちゃんは父さまとかあさまがいなくなったと言っていた。
夜になると塾から帰る途中の姉さまと一緒に帰った。
姉さまはいつも黙っていて、でもわたしには普通に接しようとしてくれていた。
そしてあの雨の日。
家に連れ帰られた途端、姉さまとかあさまがいなくなることを告げられた。
「なんで?なんで姉さまがいなくなっちゃうの?」
「玉兎……」
姉さまはだめだよと首を振った。
「玉兎のためなの。わかって。ね?」
「なんで?!」
姉さまは返事をせずに、そのまま外に出ようとした。
「姉さま!行かないで!」
必死でしがみついたけれど、姉さまは戻る気が内容だった。
「玉兎。姉さまは玉兎のことが大好きだよ。
いつか、玉兎が本当につらくて耐えられなくなったら、その時は助けに行くわ」
その言葉に驚いて、少し手を緩めた。
そのすきに、姉さまは私と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「本当?ほんとに来てくれる?」
わたしの涙をすっとぬぐって、姉さまはほほ笑んだ。
「ええ。元気でね、玉兎」
それ以来、姉さまには会えていない。




