またそばに
蒼井が彼女と別れて学校内を歩いていると、有栖に遭遇した。
有栖はすぐに目をそらしてどこかに行こうとしたので、蒼井はその袖をつかんだ。
「有栖、さん」
蒼井は久しぶりにその名を口にした。
振り返った有栖は、自然な動きで蒼井の手を外してしまった。
「どうかしたのか?あの子はどうした?」
蒼井を心配する有栖の瞳にはあの頃と同じぬくもりがあったが、有栖は元の友達のような距離では話していなかった。
当然のように蒼井が有栖のところに行かないと思っている口調に、蒼井は胸が締め付けられた。
二人で人気のないところに移動する。
「どうして、来なくなったの?」
蒼井は勇気を出して聞いてみた。
「私は迷惑なのだろう?よかったじゃないか、迷惑な客がいなくなって」
有栖そう言って笑った。
何もかもあきらめた笑いだ。
蒼井は、その笑いを見たことがあった。
蒼井は有栖の顔を見たくなくて下を向いた。
「迷惑じゃないよ」
「ん?」
有栖は逃げない。
たったそれだけのことが、蒼井にとっては何よりもうれしいことだった。
「どうして来てくれないの。
有栖さんと、せっかく友達になれたと思っていたのに」
蒼井はほんの少し顔を上げて、有栖の顎のあたりを視界に入れた。
「会いに来てよ」
だが、有栖はその言葉を真に受けることはなかった。
「月はやさしいな。でも、私に気を使わなくてもいいんだ。
ほら、あの子たちのところに戻ったらどうだ?」
蒼井はどうすれば有栖と元のように戻れるかを必死に考えた。
迷惑だと思ってないと言っても無駄だった。だったら……
「いやだ」
「え?」
蒼井はキッと有栖の顔をにらむ勢いで見つめた。
「有栖さんがいい。有栖さんがいれば、私はほかに誰もいらない。
だから、お願いだから、」
離れていかないで。
そう言おうとしたけれど、それは言葉にはしなかった。
その代わり、有栖の胸元に飛び込んだ。
「つき……?」
かすかにふるえた有栖の体を離すまいと、蒼井は制服をつかむ手に力を込めた。
「どうして離れて行っちゃったの。私が迷惑だって言った?」
「だって、あの時……それに私は……」
有栖は言いたいことのすべてがうまく言葉にならなかった。
蒼井がいま縋り付いてきているという状況に、頭が追い付いていなかった。
「有栖さん……うんん、ひろこちゃん。
戻ってきて。また、そばにいて」
有栖は、かたまってしまった。
その呼び方をかつてした人物は、たった一人。
「……どうして、その名前を。つきは、覚えて……?」
「覚えてる。私のたった一人の大切な友達だよ」
有栖は、視界がぼやけていくのを感じた。
蒼井のその背中に手を伸ばす。
蒼井がいたくないように細心の注意を払って、蒼井を抱きしめた。
「私は、迷惑ではなかったのか……?」
「うん。むしろ、いつも来てくれてうれしかった」
ひとつ、肯定されるたびに有栖は心がほぐれていくのを感じた。
「私は、つきのそばにいてもいいのか…?」
「うん。ずっと、いて」
蒼井は、両手を有栖の背中に回してしっかりと抱きしめた。
そのとき、大きな予鈴のチャイムの音が鳴り響いた。
するりとどちらからとなく手をほどく。
「休み時間終わるね。戻らないと」
「ああ。また、な」
教室に戻ると時間ぎりぎりだった。
先ほどの彼女が二人で戻ってきたのを見て、ニコリと笑ってぐっとマークを立ててきた。
ε-(´∀`*)ホッ
気が付いたら次まで書いてました。次も投稿しときます。




