雨上がり(有栖)
それから何年もたった。
両親はあれから見つかることなく書類上死亡し、育ててくれた祖母も亡くなった。
祖母の希望で高校に入り、実業系の学科に所属した。
今思うと、あの後つきに会いに行こうと思えば会うことは簡単だったのだろう。
あんな小さな子供で、同じ公園にたまたまいることがあるのなら、家は相当近かったはずだ。
けれどその考えに至るまでに時間がかかりすぎてしまった。
会ったところでお互いがわからないかもしれないほどに、時間がたっていた。
だから探さないでおこうと、そうあきらめて過ごしていた。
私は失ったことにより自由を手に入れた。
誰にも干渉されることのない自由を。
けれど、つきは今でもああやって過ごしているのだろうかと、時々ふと思い返す。
両親が言うから離れて、両親に傷つけられて。
助けに行きたい。
けれどどこにいるのかはわかっていなかった。
その日は、学校から帰った直後に雨が降り始めた。
ゲリラ豪雨のようなもので、三十分ほどですぐにやんだ。
買い出しに行かなければならなかったので、すぐにスーパーに向かった。
帰りはちょうど夕日がさす時間で、せっかくだからと少し遠回りして帰ることにした。
坂に差し掛かった時、いい雰囲気の本屋を見つけた。
猫が窓際で寝ていて、雨上がりのあたたかな夕日が差し込んでいる。
店の中を覗いてみると、カウンターでは同世代ぐらいの女性が下を向いて作業をしている。
はっと、その女性が顔を上げた。
とてもきれいな、彼女の雰囲気は覚えのあるものだ。
「つ、き」
見間違うはずがなかった。
あれは、つきだ。
何を言おうかと考えながら、店に入る。
カランカランというドアにつるしたベルの音が思っていたよりも大きく店に響いた。
彼女の目がこちらを向く。
何を言おう。
今、泣きそうなほどにうれしい。
動けないでいると、彼女が口を開いた。
「いらっしゃいませ」
そこで、はっとした。
やはり、彼女は私のことを覚えていないのだ。今の私はただの客だと、そう突き付けられた。
それでも、彼女のそばにいたかった。
クラスが同じになったとき、本当に驚いた。
初めて彼女の名前を知ることができた。
『蒼井 玉兎』
もう、引き裂かれたくなかった。
この機会を逃すわけにはいかないと思った。
すぐに、彼女に声をかけた。
私の行動が間違っていたと思わない。
彼女を助けるためならなんだってやりたい。
また、引きはがされて、何もできないなんてことにはしたくない。
教室で一人でいる彼女を見ていたくなかった。
だから、私は彼女に差し出すことにした。
「少しいいか?」
「はい?」
持てる最大限の私のつながりを、すべて彼女のために使おう




