雨の日の邂逅(有栖視点)
彼女は傘を閉じて隣に座った。
「なに?」
「帰りたくないの。だからここにいてもいい?」
彼女は淡々としていて、前だけを見つめていた。
「いいよ」
さあさあと降る雨はまだやまない。
ただ隣で座って、何も話をしなかった。
そうしてしばらくたって、曇っていても日が落ちたのがわかるぐらいになった。
「……わたしのかあさまね、いなくなっちゃったの」
彼女が口を開いた。
「かあさま、もうげんかいって言って、出て行っちゃったの。
わたしがしっかりしないから、悪いんだってとうさまが言ったの」
彼女はゆらりと倒れ掛かってきた。もしかしたら、倒れていることに気が付いていないのかもしれない。
それほど、危うい雰囲気だった。
「わたしのとうさんとかあさん、いなくなっちゃったの。何も言わずに、いなくなっちゃったの」
触れた肩はやけに冷たくて、ぎゅっと抱きしめた。
「お揃いだね」
彼女はふっと笑ってこちらを向いた。
すこし濡れた顔が、とってもきれいだった。
「いっしょにいてくれる?」
「うん」
にこにこ笑って彼女は手を差し出してきた。
「なまえは?」
彼女はちょっと迷ってから耳に顔を近づけてきた。
「たまき」
かわいい名前と言おうとしたとき、彼女が言葉を重ねた。
「なまえではよばないで。
なまえでよばれるの、おこられるときだけだから」
理由はわからなかったけれど、うなずいた。
「なんてよべばいい?」
「つきって呼んで。たまきって、月っていみらしいから。
あなたはなんて呼ばれたい?」
ちょっと迷ってから、ひろこと伝えた。
「なまえで呼んでくるひとがいないから、なまえでよんで」
「うん、もちろん」
雨は小雨になっていて、もう帰れるぐらいだった。




