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きれいなひと  作者: 宵ノ雪
第一章  孤独
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雨の日の邂逅(有栖視点)

彼女は傘を閉じて隣に座った。


「なに?」


「帰りたくないの。だからここにいてもいい?」


彼女は淡々としていて、前だけを見つめていた。


「いいよ」


さあさあと降る雨はまだやまない。


ただ隣で座って、何も話をしなかった。


そうしてしばらくたって、曇っていても日が落ちたのがわかるぐらいになった。


「……わたしのかあさまね、いなくなっちゃったの」


彼女が口を開いた。


「かあさま、もうげんかいって言って、出て行っちゃったの。

わたしがしっかりしないから、悪いんだってとうさまが言ったの」


彼女はゆらりと倒れ掛かってきた。もしかしたら、倒れていることに気が付いていないのかもしれない。


それほど、危うい雰囲気だった。


「わたしのとうさんとかあさん、いなくなっちゃったの。何も言わずに、いなくなっちゃったの」


触れた肩はやけに冷たくて、ぎゅっと抱きしめた。


「お揃いだね」


彼女はふっと笑ってこちらを向いた。


すこし濡れた顔が、とってもきれいだった。


「いっしょにいてくれる?」


「うん」


にこにこ笑って彼女は手を差し出してきた。


「なまえは?」


彼女はちょっと迷ってから耳に顔を近づけてきた。


「たまき」


かわいい名前と言おうとしたとき、彼女が言葉を重ねた。


「なまえではよばないで。

なまえでよばれるの、おこられるときだけだから」


理由はわからなかったけれど、うなずいた。


「なんてよべばいい?」


「つきって呼んで。たまきって、月っていみらしいから。

あなたはなんて呼ばれたい?」


ちょっと迷ってから、ひろこと伝えた。


「なまえで呼んでくるひとがいないから、なまえでよんで」


「うん、もちろん」


雨は小雨になっていて、もう帰れるぐらいだった。

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