いつものように
次の日、蒼井は有栖が教室にいないことを気にせずに踊り場に向かった。
始めの時以降、有栖が先に踊り場に行っていて、蒼井が来るのを待つというのが恒例になっていたから。
「……あれ」
けれど踊り場に有栖はいなかった。
二人ならちょうどいい広さでも、それに慣れていたら一人では広いその空間。
いつもの場所に腰を下ろして、有栖が来るのを待つ。
だいぶ長いことしてから、有栖がやってきた。
「月、無理にここに来なくてもいいぞ?」
「…え?」
蒼井は急にそんなことを言われて混乱した。
「どうして、そんなこと言うの?」
「無理をしなくていいんだ。
月は、私に合わせる必要はないんだよ」
有栖は既に蒼井との関係を諦めているように見えた。
けれど蒼井にとっては唐突なことで、到底理解できないことだった。
「…わかった。
有栖さんがそう言うのなら」
蒼井は、人の意思で引き裂かれることに慣れている。
抵抗したとしても、何にもならないことをわかっている。
「では」
有栖はそこで少しも立ち止まらずに立ち去った。
残された蒼井は、冷めた弁当を取り出して一つづつ口に運んだ。
『今日も卵焼きが入っているんだな』
『いつも。今日は海苔が入ってるの』
『美味しいのか?』
『うん』
『なら今度試してみよう』
『あ、さっきのテストどうだったの?』
『余裕だ』
『さすが有栖さん』
蒼井の頭の中で響くいつもの会話は、けれどもう実際に響くことはない。
冷たい弁当はいつものはずなのに、口に運んで飲み込む動作はどこか作業のようでいつもよりだいぶ早く食べきった。
(( ɵ̥̥ ˑ̫ ɵ̥̥)




