第8話 - 入団試験 後半 -
"通過"
この文字を見た時、自然と涙がこぼれた。
なんだよこれ…。嬉しすぎだろ…。
間違ってなかったんだな…。
早く、立花やヨミにも言いたい。
周りには、泣き崩れる者、青空を仰ぐ者、笑顔を浮かべている者がいた。
そんな中、大きな声が聞こえた。
「通過者は、俺の独断で決めた。」
全員が試験官に視線を向けた。
「実は今回の試験では体力を重要視していた。なぜならハードワークで壊れるやつが多くなってきているんだ。だから今はとにかく体力のあるやつが欲しいんだ。」
隣のやつが不満そうに試験官を見ていた。
それに気づいたのか、さらに続けた。
「そもそも能力が全てだと考えているやつが多すぎる。俺たちは能力があっても、弾丸一つで死んでしまうんだぜ?そんな奴を戦場で何人も見てきた。」
俺は思わず唾を飲み込んだ。
「だから、総合的な力が欲しい。これを肝に銘じておけ。」
試験官のトーンが少し変わった。
「まぁ、今回はそれが結果だが、お前らはどこまでだって成長できる。しっかり自分を見つめ直して次に挑め。根性あるやつは好きだ。」
すこし試験官の印象が変わった。
最初はえらそうな人だと思っていたが、不器用なだけだったのかもしれない。
指示に従って大聖堂に移動してる最中、緑色の髪をした女の子を見かけた。
あれって…。もしかして。
思わず声をかけた。
「立花!試験どうだった?」
「神尾くん!?通過したよ。多分ギリギリ。」
立花の声ってこんな落ち着くんだな…。
防具も全身泥だらけで、立花も頑張っていたことが分かった。
「流石は立花だな。」
「神尾くんは?」
不安そうな緑の瞳に俺が映る。
「なんとか。」
そう答えると、立花の頬がどんどん上がり、不安そうな瞳も消えって言った。
「やった!私たち、あと一歩だね!」
こんなに喜んでくれるのか。
もし、俺に尻尾が生えていたら、危なかった。
ビュンビュンと左右に大きく振ってしまう。
立花の声で、他からの視線を感じ、一気に冷静になった。
「あと一歩。気が引けないな。」
「そうだね。油断しない。」
この最終試験場である大聖堂はとてつもなく広い。
奥で準備をしている人の顔が全く見えない。
俺たちは等間隔で並んでいく。
壇上を見上げると、騎士団員の一人が声を出した。
「本日はお集まりいただきありがとう。俺は聖騎士団、副団長の氷室セイだ。最終試験は俺が監督する。」
なんか凄そうな人だ。
一人目の試験官とは明らかに違う。
決して一人目が弱そうに見えたわけじゃない。
それよりもっと何か冷たいものを感じる。
「最終試験は、1vs1のタイマンだ。ルールはシンプルでーー相手を殺せ。」
は?
一体、こいつは何を言っているんだ。
人なんて殺せるわけないだろう。
副団長と目が合った。
「今、どう思った?殺せるわけない、冗談だろ、とでも思ったか?残念だが、現場ではこういった命令は起こりえる。もし従わなければ、仲間が死んでしまうことさえある。我々は常に死と隣合わせだ。」
確かに戦場では仕方がないことだってあるだろう。
でも、それとこれとは別だ。
これは試験だ。そんなこと許されてたまるか。
ここにいる人たちは罪のない人間だ。
そんなのただの人殺しじゃないか。
「今から対戦相手の組み合わせを発表する。リストバンドを確認しろ。10分後に開始だ。辞退したいものはそれまでに名乗り出ろ。」
空気が一気に変わった。
周りには、動悸を起こす人、嘔吐する人、手で顔を隠す人、神に祈る人、など色んな人がいた。
立花は膝をついて、自分の肩を抱いて震えていた。
「嫌。できない。絶対イヤ。」
決して直接的な言葉を言わない。
俺は、これ以上見ていられない。
でも、辞退しろなんて、立花の思いを考えると、口が裂けても言えない。
声も掛けれず、何も考えが纏まらないまま、簡単に10分が過ぎた。
試合は全て一斉に行われるらしい。
位置につくと、俺の目の前には見たことある姿の男がいた。
「よう、ミル。俺の対戦相手はお前なのか。なんてラッキーなんだ。」
「坂東。」
坂東。いつも学校で嫌味を言ってくる連中の代表だ。
"お前なんかが受かるわけがない"と散々言われてきた。
「お前なんかがここまで上がってくるなんて、騎士団の試験はザルにもほどがある。」
「そんなわけねぇだろ。」
「まぁ、お前なら殺してもなんも罪悪感がない。ずっと死んでほしかったんだよなぁ。殺しても捕まらないなんて、なんて幸せな試験なんだ。」
こんな異常な奴を騎士団にしていいのか。
そんなの絶対に駄目だろ。
俺が死んでも止めてやる。
ーー試合開始を知らす鐘が響き渡った。
「ミル。お前はすぐには死なせねぇよ。散々いたぶってから息の根を止めてやるよ。」
坂東が手を前に出すと、何もないところから岩が現れた。
奴が手を薙ぎ払うと、複数の尖った岩が俺を目がけて飛んできた。
俺は、ギリギリのところで顔をずらして、岩を避けた。
こいつ、本気だ。
俺を殺してもいいと本気で思っている。
止めることなく、坂東は同じことを繰り返す。
でも、不意打ちされない限りは、絶対に当たらないと思った。
「てめぇ、ちょこまかしてんじゃねぇよ。」
痺れを切らした坂東が、腕に岩と巻き付ける。
そのままこちらに走って殴りかかってきた。
ただ、それも遅い。
奴の拳が、俺の顔を捉えることはないだろう。
すると、遠くから高い悲鳴が響き渡った。
「いやああああああああ!!」
俺と坂東は、その悲鳴の方を確認した。
すると、緑の髪をした女の子が、対戦相手の心臓を長い剣で貫いていた。
地面は血まみれで、その女の子も返り血を浴びていた。
そのまま二人とも地面にうずくまる。
「…立花?」ポロっと言葉がこぼれた。
坂東が笑った。
「ははは、立花あいつ人殺したのかよ!私、いい子でしょって顔して、命令されれば人殺しまでやれちゃうのかよ。」
は?立花が人殺し?
そんなわけないだろう…。
あんな優しくて人の気持ちが分かる立花が、人なんて殺せるわけない。
この目で見た現実を脳が受け入れようとしない。
あぁ、もうなんかぐちゃぐちゃだ。
坂東が嬉しそうに続ける。
「優等生ってマジきめぇな。今度学校でイジメよう。みんなこれ知ったら絶対あいつの居場所なくなるぜ。それで俺も同じ立場で気持ちが分かるって言ったら、すぐ俺に依存するぜ。絶対。」
「・・まれ。」
「は?」
「だまれっつてんだよ!!」
もう何も気にしない。
騎士団の試験もどうだっていい。
ただこいつをぶん殴れればいい。
俺の拳が、坂東の左頬を捉えた。
拳に血が飛び散り、坂東は2mくらい吹っ飛んでいった。
坂東の大きく腫れた頬を痛そうに抑えている。
「ってぇなぁ、おい!!てめぇ、ぜってー殺してやる。」
坂東は涙目のまま、岩を纏った大きな腕をムチのように弧を描いて、俺に振り回してきた。
もうこんな攻撃どうだっていい。
俺はその攻撃を喰らいながら、カウンターを合わせ、坂東の顎に拳を命中させた。
岩が当たって少し頭がグワンとしたが、坂東は地面に横たわり意識を失っていた。
まだ足りない。もっと殴りたい。なんなら殺してもいい。
絶対にこいつを立花に近づけさせない。
次の一発を用意していると、写真付きのネックレスが目に入った。
それは、坂東が幸せそうに家族と映っている写真だった。
俺はそれを見て、正気に戻った。
こんな野郎にも愛される家族がいるんだな。
そこから、坂東を殴る気にはなれなかった。
そして時間切れの合図が鳴り、試合は引き分けに終わった。
その後、試合が終わって動けるやつが前の方に集められた。
どいつも死んだ目をしていた。
でも、立花の姿はそこにはなかった。
しばらくすると、大聖堂の大きなモニターに合格者の名前が映し出された。
フルネームで名前が書かれていて、立花ルミの名前を見て、息をついた。
そのまま自分の名前も探しつづける。
ーーでも、俺の名前は見つからなかった。




