第5話 - 消される記憶 -
「昨日のこと、覚えている?」
立花からこの言葉を聞いて心の緊張が解けた。
「良かった。」
「じゃあ?」
「あぁ、覚えている。」
「はぁ~良かったぁ。」
立花も、同じだった。ゆっくりと肩を下ろした。
俺から、さっきのことを伝える。
「でも、おかしいよな。」
「うん。」
「忘れられるわけない。」
「うん。絶対に。」
「じゃあ、なんで?」
立花の言葉が詰まる。
「…分からない。私たちがおかしいのかな?それとも…」
「俺たちはおかしくなんかない!」
俺は声を荒げてしまった。昨日が現実じゃないなんて考えたくもない。
「だよね。」
立花が少し溜めて提案してきた。
「ねぇ、放課後ちょっと調べてみない?」
「何かありそうか?」
「分からない。けど、政策を調べてみるのはどう?ほら、食べ物の話。」
「何だっけ?」
「確か、"食べ物をなくして、人を殺す"って言ってた。」
「なるほど。調べてみる価値はありそうだ。」
「そうしよう。じゃあ放課後、図書館に来て。」
いつもより、一日がやけに長く感じた。
支度を整えていると廊下が騒がしかった。そこには、立花がいた。
俺は、これ以上待たせないように急いで廊下に出た。
「すまない。」
「ううん、授業早く終わっちゃって」
周りのやつらがひそひそ話をしている。
そりゃそうだ。あの立花ルミと"非能力者"の俺が話しているんだ。無理はない。
ただ、立花は目立つのに少し抵抗があるのか顔が赤かった。
「行こっか。」
「あぁ。」
俺たちは、横並びで時折、肩同士がぶつかりながら図書館に向かった。
本棚の間を並んで歩きながら、政治の本を探す。そのとき、立花が話しかけてきた。
「ねぇ。…昨日のこと聞いていい?」
「ん?」
「神尾くんの能力のこと。」
「あぁ、"非能力"のことか?」
「それもあるけど、"効かない"ってやつ。」
「あぁ、それね。」
自分のことはあまり喋りたくない方だが立花なら良いと思った。
「俺は能力が使えない。その代わり、誰の能力も効かない。」
「それって…。」
「いや、これは能力ではないらしい。変わった体質だと思っている。」
「だから、炎が効かなかったの?」
「あぁ、でも効かないってだけで衝撃は受けるんだ。普通に痛い。」
「じゃあ、何で助けてくれたの?」
「それは。」
改めて考えてみると何で助けたのか、よく分からなかった。
ただ、一つだけ確信していることがあった。
「死んでほしくなかった。」
「え?」
「自分のためだよ。」
「でも本当に助かった。ありがとう。」
別にお礼をして欲しいわけではなかった。自分のために助けたのは本当だ。
目の前で死なれると相当くらう。また同じ羽目になりたくなかった。
俺は、別の本棚を見に行った。
"聖騎士団の裏金問題"という週刊誌に小さく書かれていた。
手に取って、読んでみる。気になる文字があり、立花を呼ぶ。
「立花、これを見てくれ。」
「何?」
「"聖騎士団には大儀名分が存在している。それは人類の管理だ。設立以降、日本の人口が半分に減り、資源の均等化が行われた。意図的に人口を調整した。そう言わざるを得ないだろう。"」
「これって…。」
視界が歪んだ。次の瞬間、頭を殴られたような痛みが走る。
ぼやけた視界がもとに戻り本を読み直す。
「あれ…。」
「どうしたの?」
「ない。さっきまでの文字が。」
「そんなわけないでしょ。」
「…本当にない。」
「嘘…。」
「ほら、ちゃんと見てみろよ。」
「やだ、怖い。」
俺たちは、今日だけで2つ奇妙な体験をした。
一つ目は、昨日の記憶が俺たち以外で書き換わっていたこと。二つ目は、読んでいた記事が突然書き換わったこと。
今は、何も分からない。ただ、
——この世界は、何かがおかしい。




