第10話 - 夏祭り、一緒にいかない? -
何となく、嫌な予感がしたんだ。
次の日、俺は真面目に学校に行った。
正直、サボろうと思ったが、どうしても立花のことが気になった。
試験前のあれ以来、喋っていない。
一人で抱え込んでいないといいんだが。
いつもより早いリズムで足音を鳴らし、立花のクラスに向かってみる。
珍しい生き物がいるような目で見られているが、関係ない。
「立花って今日いるか?」
ドアから一番近い席に座っている奴に聞いた。
「立花って、立花ルミ?たしか今日は来てないよ。」
「…そうか。ありがとう。」
昨日の試験はかなりハードだった。
普通なら学校の一日くらい休むものだろう。
ただ、なんか嫌な予感がしたんだ。
気のせいだったらいいんだけど。
でも、連絡先すら知らない俺にはどうすることもできない。
俺は、大人しくクラスに戻った。
カバンを下ろすと、ヨミが慌てて俺のもとに駆け寄ってきた。
「ミル!!お前試験どうだったんだ?」
「ヨミ、来てたのか。」
ヨミも、昨日の試験を受けてクタクタのはずだ。
こいつなら今日サボりそうだと思ったから意外だった。
「お前聞いたぜ。実技まで行ったんだってな。昨日、大聖堂に向かうところを見たって、別クラスのやつが言ってたよ。それで結果は?」
何て言えばいいのだろうか。
条件付きで合格を言い渡されたが、試験には落ちている。
なんかズルしている気分なんだよな。
そのまま伝えられず、濁して答えた。
「ギリギリ。補欠合格みたいな感じ。」
ヨミの目と口が大きく開いていた。
その後、両手を広げて俺に飛びついてきた。
「まじ!?お前すっげぇぇ!!おめでとう!!」
「近けぇよ。」
そうだ。俺、ずっと憧れだった騎士団に入れるんだ。
どんな形であれ、やっぱり嬉しいな。
暑苦しいヨミを引きはがすと、うっすら笑いながら立花の話をしてきた。
「お前のことは初耳だったが、ルミちゃんも受かったらしいぜ。さすがだよな。今日は学校を休んでるらしいが。」
「あぁ、知ってるよ。」
そう言うと、ヨミはやっぱりかと言わんばかりの顔を浮かべている。
ん、ちょっと待てよ。
こいつの人脈の広さなら、立花の家を知っているんじゃないか?
「ところでヨミ、立花の家がどこか知ってるか?」
ヨミの身体が隣の席にガタンとぶつかった。
「は?お前何する気だ?」
ドン引きしたような顔をしている。
何か勘違いしていないか。こいつ。
「いや、ちょっと色々あって心配なんだ。」
昨日あったことを言葉にしたくなかった。
言葉にすると、何かが壊れる気がした。
それを察したのか、こいつも深くは聞いてこなかった。
「まぁ、お前ならそんな変なことしないと思うが。残念だけど何も知らねぇなぁ。ミオなら何か知ってるかもしれないけど。聞いてみるか?」
「頼む。マイベストフレンド。」
「はいはい。じゃあ、あいつの教室に向かうか。」
さすがはヨミだなと思いながら、俺は席を立ち、後を追った。
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「ミオ。こいつがお前になんか用あるみたいだぜ。」
桜のようなピンク色の長髪に、大きな紫色に輝く瞳。
身長が高く、高校生とは思えないほど大人っぽい。
ヨミの好きそうなタイプそのままだ。
「ミルが?何?また変なこと言わないでよね。」
こいつらカップルはいつも俺を変人に仕立て上げようとするな。
その反面、喋りやすい気もしなくもない。
「俺がいつ変なこと言ったんだよ。立花について聞きたい。」
「ルミのこと?」
「そう。どこ住んでんのかなって。」
こいつもヨミと同じような反応している。
隣でヨミも吹き出した。
「は?ストーカー?きも。教えるわけないでしょ。」
カップル揃ってなんか勘違いしてるな。
それか、いつもの変人扱いのノリなのか。
でも、冗談で終わらせるわけにはいかない。
いつもよりトーンを落として、ゆっくり話す。
「そんなんじゃない。試験の時、あいつだいぶ無理してた。一人で追い詰められているかもしれない。だから会って話がしたいんだ。」
ミオはいつもと違う態度に驚いているように見える。
「…あんた、ルミとどういう関係なの?」
改めて聞かれると分からないな。
犯罪者に襲われた仲?一緒に調べ物をする友達?
んー、何か違うな。
でも、少なくとも...
「仲間だと思っている。」
ミオはヨミの方も見た。
ヨミは真剣な表情で軽く頷いていた。
そしてミオは携帯電話を取り出した。
「…分かった。ちょっと連絡してみるね。」
携帯電話で文字を打ち始める。
電話してくれたらいいのにと思ったが、携帯電話を持っていない俺にはその辺り分からない。
「...え?今日会えるって。1時間後くらいに天照公園に来てほしいって。」
ヨミとミオは顔を見合わせて意外そうな表情を浮かべていた。
天照公園は学校から歩いて10分くらいだ。
もう少し時間を潰してから行こう。
この後、二人から立花との関係性を隅々まで聞かれた。
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どうやら、二人は大事な用事があるらしい。
だから、俺は一人で天照公園に来た。
時計を見ると、あれから45分くらい経っていた。
立花はまだ来てないから、俺は公園のベンチに座って待つことにした。
待っている間、俺は何度も時計を確認した。
まだ1分しか経っていないのかよ。
時間の流れがやけに遅く感じる。
そんなことを繰り返していると、立花がやってきた。
「ごめん、おまたせ。」
立花は、制服ではなく黒いワンピースを着ていた。
何だかいつもと雰囲気が違う気がした。
そして、俺と同じベンチに少し距離をあけて座った。
花のような匂いが微かに香る。
俺は待っている間、脳内で話す内容をじっくり考えていたのに、それは全く意味がなかった。
立花が隣に座ると、頭が一気に真っ白になった。
もう思ったことを口にするしかなかった。
「なんか、今日は雰囲気が違うな。」
「いつも制服だもんね。あんま私服で外もでないし。」
目を合わせてはくれなかった。
一瞬の静寂が流れる。
「今日、学校休んだんだってな。」
「ちょっと、疲れが溜まっちゃってたみたいで。」
あれ、俺いつもどんな風に話してたっけ。
今までは何も気にせず話していたが、立花の一挙手一投足が気になってしまう。
足先で土をかく音、髪の毛を耳にかける仕草、ずっと先を見つめる瞳、指で指をなぞる動き。
そんなことに気を取られていると、隣から声が聞こえた。
「試験、どうだった?私途中で帰っちゃったんだよね。」
「ダメだった。でも、チャンスをもらってギリ合格だって。」
「そうなんだね。」
立花はこれ以上聞くことはなく、驚きも喜びもしなかった。
それは、試験に合格するという意味を誰よりも理解しているからだろう。
表向きでは対戦相手を殺す必要があったのだから。
今は俺の話なんてどうでもいい。
「無理してないか?」
「何が?」
「試験であったこと。」
「...大丈夫だよ。」
立花は無理して笑っているように見えた。
「辛くなかったか?」
「正直ね。でも騎士団に入るってそういうことだよ。」
何かを諦めたようだった。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫だってば。神尾くん心配しすぎだよ。」
さらに何か隠しているかのように、より笑顔で振る舞う。
寄り添いたいのに、上手く伝えることができない。
そんな自分に嫌気が差していると、ふと公園の掲示板にあった張り紙が目に入る。
「夏祭り、一緒にいかないか?」
「え?」
「合格祝いも兼ねてさ。」
少し間があって、立花が答える。
「うん。いいよ。」
俺は立花と夏祭りに行く約束をした。
そして、その日はそのまま解散した。
帰り道で街中に流れていたラブソングが、やけにいい曲に聴こえた。
まさか、立花と行く夏祭りで、また前みたいなおかしな事が起きなんて
ーー考えもしていなかった。




