表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、もしかして世界を作っている?無理だから!と気が付いたのは100年経ってからだった(と思う)  作者: 青井空


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

2 幸せの探求

癌だと告げられた。


別に、特別な人生じゃなかったと思う。

小説に出てくるような大事件も、ドラマみたいな確執もない。

普通の家庭に生まれ、普通に学校に通い、普通に就職して。

普通に恋をして、普通に別れた。それが三か月前。


平凡。

でも、それなりに幸せだった。


病院で聞かされたのは、ステージ4。

余命半年。


その瞬間、胸の奥に、小さな疑問が沈んだ。

――これでよかったのかな。


今までの人生に後悔はない。

けれど、あまりにも「何もなさすぎた」


私は会社を辞めた。


治療はしなかった。

両親は泣きながら治療費を工面しようとしたけれど、それは両親の老後のためのお金だ。

もし治るなら老後は私が支えられたが、助からないとわかっているのに、緩和ケアのために全てを使わせるのは嫌だった。

親不孝だとわかっていても、それが私の結論だった。


だから私は、自分なりに残りの時間を生きることにした。

やりたいことは特になかったから、とりあえず日本中を旅してみることにした。


有名な神社。

有名な景色。

有名な絵画。

有名なコンサート。


行って、見て、触れて、確かに心は動いた。

けれど――ふと気づいた。


『誰かが有名にしたものしか、私は追いかけていなかった』


残された時間を、自分だけの『特別』に使っていなかった。

だから旅をやめて、残りの時間を両親と過ごすために家に帰った。


有名じゃなくてもいい。

毎日の会話と少しだけ零れたような笑顔。

そんな小さな幸せを、一つでも多く集めたかった。


癌は若いほど進行が早い。

24歳の細胞は、本来なら命を長く保つための力を持っていたはずなのに、

その活発さが、病を容赦なく加速させていく。


旅をやめて2週間ぐらい経つと、体調はみるみる悪くなっていった。


もう遠くへは行けない。

できるのは、近所を散歩するくらい。


それでも――



ある春の日。

窓の向こうに、空が見えた。


驚くほど青い空だった。

吸い込まれるように澄んでいて、同時に胸に押し寄せる重たさもあった。

その青さは、気持ちよさをくれるはずなのに、なぜか「無理やり与えられている」ような感覚もあった。


ため息をひとつ。


「お母さん、散歩行こうか」


そう言うと、母は少しだけ嬉しそうに笑った。


お気に入りのワンピースを着る。

淡い黄色と白のマーブル模様、ところどころに金糸のような輝きが差してある。

ベルトで締めると裾がふわりと広がり、春の光を受けてやわらかく揺れた。


ゆっくり、ゆっくり歩く。

「このマンション、昔からあったよね」

「いや、それ最近できたのよ」


母の『最近』は、私が小学生の頃の話だ。

それは最近とは言わないよ、と二人で笑う。


空は青いままなのに、遠くでゴロゴロと雷が鳴った。


そして――ふと、目の前に鳥居が現れた。

苔むし、黒ずみ、時を刻んだ石の鳥居。


「こんなところに神社なんてあったっけ?」


首をかしげながら自然にお辞儀をして、

一歩、鳥居をくぐろうとした――その瞬間。


バサバサッ。


耳元で大きな羽ばたきが響き、

世界が、裏返った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ