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次の日。
朝食を済ませると俺は早速ゲームにログインした。
いつものようにコムギを召喚をすると頭の上に乗っける。
召喚獣も進化するので、そうなるとコムギの体格が大きくなる可能性が高い。
いつまでこうして頭の上に乗せることができるだろうかと、なんだか親になったかのような気持ちでしみじみする。
召喚獣の最初の進化条件はレベル20になること。
つまり現在のコムギのレベルは16なので、あと4上がれば進化できる。
いつの間にか俺を超しているのには驚きだったが、召喚獣はプレイヤーよりレベルが上がりやすいものなんだろうか?
そんなことを考えながら町を歩く。
今日の予定は、まだ初期装備だった防具をいい加減新調したい。
もう初期装備のプレイヤーはほとんど見られなくなったし、俺もそろそろ資金が貯まってきたことだからなんか格好いい装備が欲しいところだ。
「コムギ。今日は防具を見に行くからな。その後は新しい仲間を召喚するぞ!」
「コンコン!」
「あ。そういえば、召喚獣の防具ってのもあるのか?」
「コン?」
ふと思い付いた考えに足を止める。
コムギは上から俺の顔を覗きこんできたので視界にコムギの顔が映った。
「うーん。狐だから服とかは無理だろうけど、アクセサリーとかならいけるか?」
「コン?」
不思議そうに顔を覗きこむコムギをもふりながら、自分の装備を探すついでに召喚獣用の装備がないか聞いてみるかと考える。
「ちょっとそこのあなた!」
「え?」
後ろから突然声をかけられて肩をがしっと捕まれる。
いきなりのことに混乱しながらも後ろを見ると、何故か息切れをした金髪に着物姿というアンバランスな格好のプレイヤーがいた。
「ええっと、なにか?」
もしかして知り合いだろうかと考えるが、まだこのゲームを始めたばかりでろくにフレンドもいない俺には、こんなプレイヤーは心当たりがない。
戸惑う俺にそのプレイヤーは鼻息荒くつめよってくる。
「あなたまだ初期装備ですよね!これから装備更新のご予定は!?」
「え?あ、まあいまから買いに行こうかなと」
「よしっ!」
何故だか喜んで拳を握りしめた。
本当になんなんだ一体?
「こほん。自己紹介がまだでしたわね。わたくし、裁縫師で主に防具作成をしていますマリーと申します。どうぞよしなに。」
「俺はセイだ。よろしく。」
最初とはうってかわって、どこか気品のある丁寧な挨拶にたじろぎながらも挨拶をする。
「セイさんですね。あの、装備を買われるなら、よろしければわたくしの店に来ていただけませんか?特別にサービスいたしますから。ええ、それも盛大に。」
威圧感のある笑顔でにじりよるマリーに思わず後ずさるが、逃がさないとばかりに腕をがしっ!とつかまれた。
美人に詰め寄られたら男としては普通に喜ぶところかもしれんが、なんか怖い。
「わ、分かったから離してくれ。」
「うふふ。良かったです。」
どうせ装備を探そうと思っていたし、サービスをしてくれるということだから、見に行くくらい別に構わないだろう。
気に入らなかったら別の店に行けばいい。
そう思って了承したのだが
「ぐふふ。刀だけじゃなくて黒髪長髪。なんてドンピシャなのかしら。絶対に逃がすもんですか。」
不気味な忍び笑いが聞こえてきて背筋に冷たいものを感じる。
ちょっと判断を早まったかもしれない。
「ここがわたくしの店ですわ!」
不安を感じながらも案内されて到着したのは、いい立地に立つ思った以上に立派な和風の店。
周りが西洋風の景観だからかなり浮いて見える。
「呉服屋桜餅・・・。餅?」
なんか色々と店名とか突っ込みたいところだが、俺はマリーの店が想像していたものとは違って、ちゃんとした店だったことに驚いた。
まだ初期装備だった俺をかなり強引に連れてきたものだから、てっきりあまり繁盛しておらず、露店に案内されるだろうと思っていたからだ。
「ささ。どうぞどうぞ。」
呆然とする俺の手を引いてマリーは店の中へと入る。
店内は広く、呉服屋というだけあって服がずらりと展示されている。
和服だけでなく、普通に鎧やローブといったよくみる装備も展示されていた。
見る限り繁盛しているようだし、ますます俺を連れてきた理由が分からない。
俺は案内されるがまま展示スペースを通り過ぎ、なぜか店の奥の個室まで連れていかれる。
商談スペースかなにかか?と考えるも、俺は普通の客だし生産職でもないから、何故ここにいるのか理解できない。
「さて。それじゃあ早速商品をご覧にいれますわ。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
「どうかされました?」
そのまま話を進めようとするマリーを止めると、マリーは不思議そうに首を傾げる。
なんだ?俺がおかしいのか?
「いや。俺は普通に装備を買いに来ただけなんだが、どうして個室にいるんだ?」
「ああ。そのことですか。それはもちろん、セイさんが特別なお客様だからですわ。」
当然だと言わんばかりに満面の笑みで答えるマリーに俺は頭が痛くなったような気がした。
「だからどうして会ったばかりなのに特別扱いされてんのか知りたいんだが。」
特に接点もなく、始めたばかりの初心者プレイヤーを特別扱いする理由が思いつかない。
まさかユニーククエストを発見したのがバレたのか?
「実はわたくし、和服が作りたくて裁縫師になったのですが、みなさんが購入するのは金属鎧や革の鎧、魔法使いのローブ等といったファンタジーな洋服ばかり。何故か巫女服はそこそこ売れるんですけどね。防御の低い和服はなかなか売れないのです。このゲームの世界観と合わないという理由もあるのでしょうが。」
たしかにそう言われれば、このゲームで和服はあんまり見なかったな。
好きな人は好きだと思うが、ヨーロッパ風の町並みで和服を着ていたら大いに目立ちそうだ。
俺も革鎧を購入しようと思ってたし。
「なので、わたくしは和服を着てくださる専属モデルを探していたのです!」
「いや、俺は普通に革鎧が欲しいんだが。」
「・・・。和服の似合う方を、わたくしの作成した和服を着てくださる方を探していたのです!」
「いやだから」
「こちらが商品になります。」
「だから聞けよ!」
無理やりにでも俺に着物を着せようとしてないか!?
ずいずいと押し付けようとしてくるマリーに俺は顔がひきつる。
でもマリーが俺をここまで連れてきた理由がやっと分かった。
俺がまだこの時期になっても初期装備だったから、マリーの言う着物の専属モデルにしようと考えたのだろう。
「別に俺じゃなくてもいいだろう?」
マリーの思惑を知りため息をつくと、マリーは頬を膨らませる。
「もう初期装備の人はほとんどいません。それにセイさんは刀を持っていらっしゃるじゃありませんか。絶対和服が似合うと思うんですよ。」
たしかにマリーの言う通り俺は刀がメインウェポンだが、だからといって着物は動きにくそうだしなあ。
それに絶対目立つだろう。
「刀に黒髪長髪、籠手、それに狐の従魔。これだけ和風要素が揃っているんですから着物を着ないなんてもったいないです。ね?ね?」
そう言われてみれば俺はいつの間にか和風テイストになっている。
ついでに言えば鬼に遭遇したし、ジョブにも夜叉があるし。
俺が悩み始めたのが分かったのか、マリーはもうひと押しとばかりに笑顔で勧めてくる。
「モデル料としてお安くしますよ。着てくださるだけで宣伝にもなりますから。こう見えてβテスターですから性能にも自信があります。絶対に損はさせません。どうでしょう?」
「うーん・・・。」
マリーがβテスターなんて知らなかったな。だからこんなに店も立派なのか。
和服推しじゃなかったらもっと人気が出ててもおかしくはないが、それだとマリーのやりたいこととは違うんだろうし。
ゲームなんだから、自分のやりたいことをやってなんぼだ。
利益だけじゃない、そういった考えは俺にも共感できる。
「分かった。とりあえず装備を見せてくれ。それを見てから考える。」
「やった!どうぞどうぞ。存分に見てくださいな!」
マリーは喜色満面の顔で喜びを露にし、パネルを操作してウキウキと装備を並べる。
まだ購入するとは言ってないが、よほど自分の作品に自信があるのか。
まあβテスターなら他のプレイヤーよりレベルが高いだろうし、俺も少し期待してしまう。
普通に買おうと思えば、それこそ高額な値段になることは間違いない。
俺は早速、装備と鑑定証を確認するのだった。




