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「うあっぶな!」
凪ぎ払うように鬼神の手が動き必死に避けた俺の頬すれすれを爪が通りすぎる。
もう何時間同じようなことを繰り返し逃げ回っているのだろう?1時間?2時間?いやいやもっと過ぎてると思う。
それくらい永遠と鬼神の当たったら終わりの攻撃を避けてはちまちまと意味のないような攻撃を続けてきた。
もう気を抜いたら終わりな作業ゲーな気さえしてきたぐらいだ。ちょっとでも油断したら死ぬけど。一回かすったら9割も削れたからな。まともにくらったら一発でお陀仏だ。
コムギもよく何時間も頑張ってくれていると思う。まあ頑張らなかったら死ぬわけなんですが。
正直コムギがいなかったら一人で両手を相手しなければいけないから最初から詰んでた。
ジョブ選択のとき召喚士を選んだ自分を誉めてやりたいくらいだ。
コムギには勝負がどうだろうと後でたっぷり甘いものを食わせてやらなきゃな。
そんなこんなで森の中を逃げ回り現在鬼神のHPはやっと半分を切った。
何時間もかかってやっと半分ってどうなのよ?しかもダメージの九割九分九厘は元々ついてた状態異常の継続ダメージだ。
いや、楽に倒せたらそれはそれでおかしいけども。
俺はずっと死に物狂いで逃げていてろくな攻撃ができていない。一方的に攻撃できていた最初のボーナスステージが懐かしい。
いや。過去を振り替えるな。これはもはや集中力との戦いなんだ。鬼神へのダメージは【戒めの楔】大先生に任せて俺はひたすら時間を稼ぐ。それが正しい攻略法だ。たぶん。
それにしてもやっぱりこれ難易度おかしいんじゃないかな?こんなところで出てきちゃいけないよ鬼神さん。君がいるべきなのはもっと先のエリアでしょうよ。誰だこんなところに設置したのは?
まあそのための【戒めの楔】大先生なんだろうけどさ。レベル一桁の俺が即ゲームオーバーになっていないということはちゃんと倒せるように調整はしているのだとは思う。
それにしたってこんな無理ゲーだと普通ならもう心折れてるんじゃないかな?俺結構頑張ってると思う。
・・・いかんな。集中力が切れてきてどんどん思考がグダグダと無理ゲー批判になってる。集中しないと。
幸いなことに鬼神の手は物理攻撃で向かってくるだけで、動きを見切れば避けれないことはない。かすっただけでHPがふっとぶけど。
手からビームとかスキルが使われたら終わってる。まだ使わないのか、使えないのかは分からない。俺は後者を強く希望する。
本当にぎりぎりの戦いなのだ。この状況でひとつでも欠けたらもたないだろう。
これを戦いと言っていいのかは分からないが。
俺の体を串刺しにしようとする5本の指から体をひねって避け刀で進行方向をずらして流す。上手く流さないと力負けするからな。筋力そんなに高くないし、振ってたとしてもこいつに勝てるわけないし。
封印のせいか祠からずっと苦し気な声が聞こえてくる。鬼神の両手も俺たちを正確に狙ってきてるというよりは暴れてるといった感じだ。
そんなに苦しいなら早く楽になってくださいといいたいところだが、素直に聞くわけないもんな。
ちょくちょく風魔法を祠の方にも叩き込んでるが効いてるのかどうか。
さらに1時間ほど経った。そろそろ俺の気力がヤバい。体力の方は常にレッドゾーンなので今さらだ。
そして鬼神のHPはようやく残り2割に到達しようとしていた。
しかし、2割になるとボスモンスターは激昂状態になり難易度がはねあがる。
こいつはボス、というかユニークモンスターだろうけど激昂状態になるんだろうか?
正直、これ以上になると対処しきれる自信はない。
コムギは持ち前の身軽さと小ささを生かしてひらりひらりと避けている。攻撃はもう捨てているようだ。
というか、お前こんだけ動けるなんて初めて知ったぞ。いつも俺の頭に乗ってるけど。
「・・・来たっ!2割!」
そしてやってきた鬼神のHPレッドゾーン。
祠の奥からひときわ怒っているような苦しんでいるような恐ろしい声がフィールド全体に響き渡る。
巨体な両手がぐぐぐっと力を込めるように丸められ黒いモヤを纏い始めた。
これは、来るな。激昂状態。
ゴゴゴゴォォオオオ!
フィールド全体が地震のように強い振動で揺れ、立っていることすら困難になる。
辺りがうっすらと陰り始め気温が急激に下がったような気がした。
そして・・・
「うっそーん・・・」
いつの間にか俺の胸に巨大な一本の指が突き刺さっていた。
俺のHPバーが一瞬にしてはじきとぶ。
速すぎて全然手の動きが捉えられなかったんですが。激昂状態で速度が上昇したのか。
とはいえこれで何時間も粘ったのが水の泡になったわけだ。
格上相手に結構頑張ったと思うんだけどな。
あとちょっとだったのに惜しかった。
まあ、ボス戦なんて2割切ってからが勝負だとは思うけどさ。
クリア目前で届かなかった俺は十分頑張ったと言いつつも、悔しさを感じながら光の粒子となって消えるのだった。
《ユニーククエスト『鬼神の生け贄』を限定クリアしました。》
《称号『鬼神の因子』を獲得しました。》
《称号『???の興味』を獲得しました。》
神殿の蘇生部屋のベッド上で俺は目を覚ました。
死に戻りするとホームがなければ基本的にここでリスポーンするんだが、それはさておき。
「聞き間違えじゃなかった。ユニーククエストが一応クリアになってる。」
あれ?倒さなくても良かった感じ?限定ってついてるから完全クリアではないようだけど。
俺かなり頑張ったんですが。クリアは嬉しいけどなんか釈然としない。
確かに達成条件は『???』だったけどさ。
まあ報酬とかもろもろは後で確認するとしてとりあえずここから出よう。ドロップアイテムも売りたいし。
デスペナは1日全てのステータス値半減だけで、所持金が減るとか持ち物がドロップするとかはない優しい設定だ。
ステータス値半減だけっていっても1日っていうのは結構長いし、レベルが上がれば上がるほどステータス値の半減は大きいんだろうが。
まあとにかく街を散策するには問題ない。空腹でさらにステータス値が減ってるから腹ごしらえもしたい。
神殿を出て食事を買うために露店へと向かう。
あ、その前に
「『サモン・コムギ』」
初めて召喚獣を召喚したときのように魔方陣が現れてその中からコムギが飛び出してきた。
「コ~ン!」
「おー。よしよしコムギ。ごめんな。負けちゃったよ。お前頑張ってくれたのにな。」
珍しくコムギは頭の上にのぼらず俺の胸に飛び込んで甘えてきた。
心配してくれたのか?可愛いやつめ。
「よし。それじゃあご褒美に食事に行くか!」
「コン!」
よほど嬉しいのか尻尾が激しく揺れている。こいつかなりの食いしん坊だからな。
まあ頑張ってくれたしこれくらいしないと罰があたるだろう。
と、その前にギルドで必要ないドロップ品を売り払う。今の所持金が52000リルになった。これでコムギが大食いしても足りないということはないはずだ、たぶん。
でもこの所持金じゃオーダーメイドの武器や防具はまだ先になるかもな。
コムギを頭にのせてこの前と同じ店に入る。ここ、美味しいけど安いから懐事情の厳しい俺にとってありがたい店なのだ。色んなメニューがあるし。
席に案内されて早速メニューに釘付けになるコムギ。その選ぶ様子はとても真剣だ。
見ていてちょっと面白い。
結果、コムギはフルーツたっぷりのタルト。俺はエビフライ定食を注文した。
さて、ゆっくり食事をとりながらステータスや今回の戦利品の確認をしますかね。
あの怒涛の戦闘後、ようやく一息つくことができた俺はメニューを開いた。




