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「油断したー!」


 ゲームの中で意識を取り戻した俺はガバリと起き上がると悔しさを込めて叫んでやった。


「コン!?」


「あっ。」


 どうやら俺の上で眠っていたらしいコムギをひっくり返してしまったが、悪気はないので許して欲しい。ごめん。


「というかどこだここ?」


 プンスカ怒ってますという様子のコムギを抱き抱えながら辺りを確認するが、当然ながらエリックの家でもなく、特徴といえば小さな祠があるだけの森の中のようだった。


 てっきり身ぐるみ剥がれて死に戻りしたのかと思ったがそういうわけでもないらしく、全く見覚えのない場所に放置されているだけだ。


 所持金や持ち物を確認してもなにかをとられているわけでもない。

 睡眠作用のあるお香で眠らされてそのままなにもなく外に放置というのはどういうことなのか?

 予想ではエリックは盗賊で俺はまんまと引っ掛かってしまったのだと思っていたが、この状況を考えるとそれも考え難い。


 ・・・油断するなという教訓イベントだったのか?


 思い返せば不自然な点は多々あった。森の奥にある村とか、生活感のない部屋とか。しかしそれもゲームゆえの不自然さかと思ったけど、リアリティーを追及したこのゲームの運営がそれを許すはずもなかったか。

 それに人助けのクエストがユニーククエストになっていたのも不思議には思っていた。


「まあ、いい教訓にはなったかな。・・・ん?」


 区切りのいいところでログアウトしようかとメニューを開くとログに見覚えのない文字が。


「ユニーククエストが進行?拒否不可?」


 慌てて受注しているクエストを見てみると


 ――――――――――――――――


 ユニーククエスト2

『鬼神の生け贄』 鬼神(弱体化、封印中)


 達成条件:???


 報酬:???


 ―――――――――――――――――


「は?いや、無理だろ。」


 なんだよ鬼神の生け贄って。え?俺か?

 いつの間にこんなクエストが始まっていた?


 というか、いくら弱体化しているとはいえ鬼神って絶対そんな簡単に倒せるやつじゃないって。普通にレイドボス案件だから。しかもかなり終盤のやつの。こんな序盤からやるクエストじゃないわ。


 いつの間にこんなクエストのフラグが立っていたのかと問われれば、きっと木こりを助けることがこのクエストを発生させるためのキークエストだったんだろうけど。


 そういえばエリックが話していた『一人でのこのこやってきた弱い獲物』と。


 この言葉から多分このユニーククエストを発生させるには、ソロであることと、レベルにも上限があるんだろう。


「俺が低いレベルにも関わらずソロでこんなところに来ているから、いいカモとして鬼神の生け贄に捕まったってことか?」


 さしずめエリックやその村の連中は崇拝者かなんかか?人のよさそうなやつだと思っていたが、結構危ないやつだったか。


 とはいえこれからどうするか。

 俺はレベル一桁だし、どう考えても鬼神を倒すなんて無理ゲーだ。

 普通のボスモンスターですら危ういわ。なのにユニークボスなんてなんの冗談だろうと言いたくなる。

 これクリアさせるつもりがないんじゃね?


「ま、拒否はできないみたいだしやるしかないんだけど。」


 どうせやるならどんな無理ゲーだろうとクリアを目指したい。どんなものかは分からないけど今回は報酬もあるようだし。

 ま、ボスがどんなやつかもわかってないから対策の立てようもないけど。


「コムギよし。HP、MP共によし。満腹度よし。心の準備たぶんよし。よっしゃ、やるか!」


「コン!」


 ・・・。


「これ、どうやったら始まるんだ?」


「コン?」


 俺ここで眠ってたし結構のんびりしてるけどいまだにクエストが進行する気配がない。そもそも鬼神ってどこにいるんだ?


「やっぱり怪しいのはあの祠だよな。というか他にはなにもないし。」


 俺は恐る恐る祠へと忍び寄る。

 いつも俺の頭に鎮座しているコムギは今回は薄情なことに離れて遠巻きに見ている。

 お、俺の信頼度が低いということなのか・・・。


 嘆いていても仕方ないのでいつでも戦闘できるように刀を構えて祠に近づく。


 あと3メートルという距離まで近づいたとき、祠がカタカタと音を立て震え始めた。


「やっぱりこの祠が鍵だったか!」


 一旦距離を取るためにコムギのいるところまで後ろに下がる。

 祠から黒い霧のようなものが漏れだしていて、いかにもボスが出てきますよって感じだ。


 ガタン!


「・・・なんだありゃ?」


 扉が吹き飛び中から這い出てきたのは巨体な黒い不気味な手。

 レベルはかなり格上のため、???表示で分からない。


 封印されている鬼神の両手なのか?封印が効いていて手しか出てこれないとか?

 よく分からないが全身で出てくるよりは難易度が下がるはずだ。これなら倒せる、のか?


「いや。見た感じ、あれはヤバいやつだ。」


「コン。」


 いくら両手だけだろうと弱体化していようとあれはダメなやつだ。全く倒せる気がしない。

 ましてやレベル一桁で挑む相手じゃないぞこれは。


 というか、現在進行形で足がすくんでいる危機的状況にあるんですが。


『威圧のレジストに失敗しました。』


 ああ、なるほど。威圧の効果なのかこれは。

 体は恐怖で動けないくせに、頭は今すぐ逃げろと警鐘をならす。

 このリアル感、本当にゲームなのか?


「コンコン!」


 足元でコムギがゲシゲシと叩いている。

 お前は凄いな。あれを前にして動けるなんて。俺の後ろに隠れてたから威圧を受けなかったのかもしれないけど。


「コン!」


「うあっつ、くはないけど!」


 俺がいつまでたっても動かないことにしびれを切らしたのかコムギは狐火を俺に当ててきた。

 ゲームなのでそこまで熱く感じたわけではないが、火の塊が飛んできたことで条件反射で叫んでしまった。

 鬼神の手から意識が外れたためかおかげで動けるようにはなったが、コムギの俺への扱いが酷い気がする。


「あ、ありがとう。助かった。なんか釈然としないけど。」


 未だに恐怖を感じるが体は動くようになった。鬼神の手はまだゆっくりと登場途中だし結果オーライということこで。


 ・・・ん?これはチャンスなのでは?


「おっしゃっ!お約束とか反則とか関係ねぇ!相手はずっと格上なんだ。遠慮なんかしてられるか!行くぞコムギ!」


「コン!」


 登場シーンは攻撃していけないとかテレビの中だけのはずだ。きっとゲームは大丈夫、だと思ってる。


 威圧を受けた、というより、狐火を浴びせられた八つ当たりに俺は登場途中の鬼神に風魔法を浴びせるた。コムギも狐火を叩き込む。


『オォオオォ!』


 祠の奥から響いてくる怨念のようなうなり声にこれは効いてるのかもしれないとMPを気にせずどんどん撃ち込む。まだMP回復薬は持っているからな。ここで使わなきゃいつ使う!


 完全にこいつが出てくる前にできるだけ体力を削っておきたい。


 意識すれば上空に出現する鬼神の巨大なHPバーは微々たるものだが確実に減っていっている。

 しかも、鬼神には【戒めの楔】という継続ダメージの状態異常がかかっているようだった。

 初めて聞く状態異常だが、これが封印の効果なのかもしれない。


 ちゃんとソロでレベルが低くても攻略できるような設定にはしてあるのかもな。


 しっかし、弱体化している上に封印の効果も受けていてこれって、本来はどれだけ強いんだって話だ。

 レベル一桁の俺が鬼神に挑んでいることが異常なんだろうけど。


 鬼神のHPは継続ダメージと俺とコムギの魔法のダメージを受けてもまだ1割すら減ってない。

 まだ向こうが動き出していない状態でこれとか、本番は逃げたりでろくなダメージを与えられないだろうし本当に大丈夫か?


 そうこうしている内に両手が完全に祠から出現した。両手が宙に浮かんでいるのはなんだかホラーチックだ。


 これでボーナスステージは終了したな。鬼神のHPはやっと1割を切ったところ。

 正直俺とコムギが攻撃しているダメージより継続ダメージの方がダメージが大きいようだ。これなかったらろくなダメージも与えられず詰んでたな。


 鬼神の縛りプレイ(?)に助けられながら俺とコムギは無理ゲーに挑むのだった。

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