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ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
5皿目:デザート《妖精たちのティーパーティー》
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ピンクと黒の乱入者

WASABI

 恐る恐る目を開けると、エドガーたちの前に、ふたりの少女が立っていた。


 一人は黒髪で、制服の上に灰色のパーカーを羽織っている。制服の形状はエドガーが友人から聞いた日本の女子高生のものにそっくりだ。


 もう一人はピンク色の派手な髪を振り乱すスレンダーな女。彼女はひょろりと長い手足をブンブン振り回して宙を飛ぶ妖精たちを叩き落とした。


「なっ……なん……」


 エドガーだけでなく妖精たちですら呆気にとられている中、黒髪の乱入者はマイペースにその辺にあった石を重ねてかまどを作る。そうして辺りに散らかった木々の枝を拾うとかまどに火を入れ、適当な大きさの岩にスクールバッグから取り出した調理用具を並べ始めた。


 ピンク髪の方は地面に落ちてこと切れた妖精たちを拾い集めている。


 開いた口が塞がらないエドガー。そんな彼の腕を柔らかいものが押しのける。


「……ねえ、エディ。痛いんだけど」


「あっ、ごめん……って、エリザ! いつ目を――」


「えっと……誰よりも私を愛しているって辺りから……」


「うっ、うわぁぁぁ!」


「それよりも、手……」


「えっ、わっ、ごめん!」


 エドガーは慌ててエリザベスの胸から手をどけた。エリザベスの年齢に対して大きく育った胸を、無意識とはいえエドガーは思い切り揉んでしまっていたのだ。


「……怒った?」


 柔らかかった。それは間違いない。エドガーが人生で触った何とも似つかない、指で包んでいるのに逆に包み込まれているような極上の弾力。


「そんな顔しないで。不可抗力だって分かってるから……それに、イヤじゃないし……」


「えっ?」


「なんでもない! それより早く上がりましょう」


 ふたりは泉から出てパーカーの少女が起こしたたき火に当たる。


 エリザベスの濡れた服が肌に張り付いて艶めかしい。ドレスタイプのシンプルな寝間着を着ているせいもあって、普段よりもそのナイスバディが強調されるのだ。


「エディ?」


「なっ、なに!」


 エドガーは慌てて目を逸らす。エリザベスは婚約者だが、それ以上に幼馴染として接してきた。エドガーにとってエリザベスは気の置けない友人みたいなもので、異性として意識したとしてもふわふわとした恋心程度のものだった。


(エリザ……いつの間にこんな身体に……)


 悶々とし始めたエドガー。


 エリザベスと一緒になるということは彼女の身体が白日の下にあらわになるということだ。それをエドガーは好きにできる。


 あの細い腰のくびれも、肉付きの良いお尻も、豊満な胸も、すべてがエドガーの手に収まる。気の強そうな唇を開かせ、心臓の上の柔らかさに手を重ね、そして……。


 そんな彼の邪まな考えを打ち破るように、ティターニアの号令が辺りに響いた。


「ピンク髪からやれ!」


 横槍を突いた襲撃に混乱していた妖精たちだが、我に返ったティターニアの号令によって一度攻撃を止めて陣形を組み直した。


 森の広場を覆うドーム状の妖精の屋根。その光の群から、少数の精鋭たちが威力偵察に放たれた。


『妖精ってどんな味かな。野菜みたいな?』


『それを今から確かめるんでしょ』


 弾丸のように飛来する妖精たち。


 エドガーたちの目には一筋の光条としか捉えられないその突撃を、ピンク髪の女はいとも簡単に鷲掴みにする。妖精たちは抵抗する間もなく握り潰されて大人しくなってしまった。


『とりあえず……ポン酢! ちょうだい!』


 ピンク色の怪物が手にした漆器の椀に、パーカーの少女が黒い液体を注ぐ。


 怪物が発したポン酢という言葉は聞いたことがない発音だったが、スマートな響きをしているとエドガーには感じられた。


 ピンク色の怪物は妖精だったものを乱暴に液体に突っ込むと、そのまま頭から齧りつく。


『うぅん、微妙かも? なんか違ーう』


 彼女はもしゃもしゃと豪快に妖精を齧る。ギザギザになった怪物の歯が妖精に食い込み、石臼状の奥歯でゴリゴリと摩り下ろしている音が辺りに響いた。その音は根菜を食べている時の音に似ていた。


『ペコ!』


 パーカーの少女がピンク髪の女を呼ぶ。


 ペコ。


 どうやらそれが怪物の名前らしい。その恐ろしさに対して何とも気の抜ける不思議な響きだ。どこの国の言葉なのか見当もつかない。


『次行こう。わざびとか行ってみる?』


『うん! つける!』


 パーカーの少女がスクールバッグから取り出したのはニンジンに似た形状をした植物だった。表面はゴツゴツしており、所々にイボができている。


 何より気味が悪いのは、その植物が全身緑色をしていることだ。たとえば森の木々は緑の葉を豊かに茂らせてはいるものの、幹や根までが緑色というわけではない。緑色の植物にはこの世のものとは思えない不気味さがあった。


 彼女はおろし金を取り出し、ペコのポン酢にわさびを摩り下ろす。ペースト状になったわさびは毒々しい緑色で、魔女の秘薬と言われても信じてしまいそうだ。


『ピリッてきた! ピリピリ~。でもなんか合わないな』


『難しいな……あたしもちょっと食べてみていい?』


『いいよ! はい、かまど! あ~ん!』


 ペコは頭をねじ切った妖精を少女の口に咥えさせた。彼女はもっしゃもっしゃと音を立てながら妖精を咀嚼する。


 明らかに親しげなふたりだが、一体どういう関係なのだろう。


『かまど、美味しい?』


 かまど。どうやらパーカーの少女はかまどという名前らしい。


 ペコのように明らかな異形ならばともかく、一見普通のアジア人に見えるかまどが妖精を何の抵抗もなく咀嚼している姿は、エドガーの目に極めて恐ろしく映った。


 エドガーは寝物語で読んだ魔女の物語を思い出す。妖精を食べるなんてどう考えても普通じゃない。やはりこの二人組は森に住む魔女とその眷属の悪魔だったのではないか。


『ペコ、これ砂糖じゃない? クリスマスのケーキに乗ってるサンタみたいな』


『あっ、確かにー。言われてみれば甘いね!』


『いやいや明らかに甘ったるいから。舌が雑すぎるでしょ。この味なら……そうだね、酸っぱいジャムとかいけるかも』


 パーカーの少女は肩にかけていたスクールバッグを下ろして真っ赤な液体が詰まった瓶を取り出した。またもや魔女の秘薬だろうかとエドガーは悲鳴を上げそうになったが、よく見るとそれは苺ジャムのようだった。


『行くよ、ペコ』


『よぉし!』


 ジャムの瓶を手渡されたペコは妖精女王の方に向き直る。


『スイーツ祭の始まりだ!』


「殺してしまえ!」


 呼応してティターニアが叫ぶ。


 妖精たちは一匹残らず鮮血のごとき紅に輝き、矢じり状の隊列を組んでペコに向かって一斉に襲い掛かった。

また来週~

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