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ペコとかまどのオカルトごはん!  作者: GOZOROPS
5皿目:デザート《妖精たちのティーパーティー》
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エリザベスという少女

ラブコメめいてきた

 エドガーはロンドンのイートン校に所属して教育を受けてはいるものの、夏休みには必ずエディンバラの古い屋敷を訪れる。


 バンシー伯爵家の本拠地はエディンバラであり、ロンドンには不動産業のためにいくつか邸宅を構えているに過ぎない。


 エドガーにとってエディンバラは第二の故郷であり、ヘンリーお祖父さまが生きているうちはロンドンの喧騒を忘れさせてくれる憩いの場でもあった。


 しかしそんなエディンバラは、いまや早くロンドンに帰りたいと思うほど陰鬱な場所と化している。


 両親の絶え間ない不仲が引き起こす猛毒にも似た険悪な空気が屋敷の隅々まで蔓延しているのだ。それに比べれば、人でごった返したロンドンの地下鉄の熱気や、交通渋滞が発生させる有毒ガスでさえ取るに足らない。


 使用人たちは廊下の暗がりで主人とその奥方の陰口を囁き、庭師でさえ噂話に加わる。当主は愛人の元へ出向き、その妻はメイドやエドガーに苛立ちをぶつけた。


 こんなところにはとてもじゃないがいられない。


 エドガーは日中、自室や図書室に籠るか、母の目を盗んで屋敷を抜け出しては草原で寝転んで本を読んでいた。


 エディンバラの古い屋敷は街の中心から見るとやや郊外にあり、中世に建てられた修道院を基にしている。そのため、周囲にはかつて畑や墓地として使われていた広大な敷地が広がっていた。


 ヘンリーお祖父さまがいなくなったエディンバラの屋敷は、以前よりも格段に窮屈になったようにエドガーには感じられた。


 かつては堂々と聳えていた門柱は寂しげに佇み、あれほど高かった天井も、今では圧し掛かるような無言のプレッシャーを与えてくる。蝋燭やガス灯はすべて電灯に取って代わられ、青白い光が邸内を寒々しく照らし出す。外に出てみれば、歴史が塵となってつもったような寂れた庭や、黒くくすんだ石壁が冷たい風に吹かれて佇んでいる。


「エリザベス……」


 青い光に導かれる少女の名前を口にすると、心細さが少しだけ和らいだ。


 生涯をかけて愛するに足る淑女、エドガーのすべてをかけても手が届くかどうか分からない高嶺の花。


 日曜日の朝に、彼女は屋敷の庭のベンチに座ってデイジーの花冠を編んでいた。その天使のような横顔をエドガーだけが知っている。


 エドガーは端的に言って自分に自信がない。


 バンシー家の遺伝を受け継いだ焦げ茶色の癖っ毛と青い瞳は、彼を実年齢よりも幼く見せる。


 勉強は人並み以上にはできるが、傑出しているわけでもない。運動神経も悪くはないが積極性に欠けている。その証拠にフットボールでも、彼にパスが回ってくることはめったになかった。


 趣味は物語を読むことと書くことだったが、それは自信になるどころか恥ずべき行為だとさえ思われた。


 父・ジョンは実用的な書物を是とし、空想にふける息子をよく思っていないということが、言われずともエドガーには伝わってきていた。奇妙なことに、夫婦仲の悪い母・アンもその点ではジョンと同じ思想を抱いていた。


 そのためエドガーは理解者たる祖父が亡くなってからは、余計に図書室に籠るようになった。


 スコットランド人は何事にも男らしさを求める傾向にあり、ジョンはその典型であるようにエドガーには思われた。エドガーは父をはじめとするスコットランド人らしい考え方を嫌っていた。自身がスコットランド人であることも嘘であればいいとさえ思った。


 このような事情から、エドガーは自身の魅力は「伯爵家長男であること」のみと考えるようになっていた。


 バンシー伯爵家は不動産業で成功を収めており、生活に不自由はしない。父が多くの愛人を囲えるのも、その経済的豊かさがあればこそである。


 ロンドンでエドガーにすり寄ってくる上流階級の息女は全員がバンシー伯爵家の資産を狙っている。エドガーの語る空想物語を聞いてくれる者など、ロンドンにはいないのである。


 エリザベスはそのようなロンドンの女たちとは明確に違っていた。


 まず、彼女はロンドン在住ではない。彼女はスコットランド貴族シェルフィード伯爵家の次女であり、生まれこそグラスゴーだが、長くニューヨークで暮らしているため、ほとんどアメリカ人の気質を持っている。


 彼女はエドガーに積極的かつ大胆に迫ってくる。その知性の煌めきと、太陽のような美貌はエドガーの心を掴んで離さない。


 彼女の猫のようなアーモンド形の瞳は青く澄んでいて、たとえ曇天のロンドンであっても快晴の空を見つけることができる。薄い唇の朱から目を逸らせば、膨らんだ胸の谷間がどこまでも深くエドガーを誘う。彼女の香りは春のそよ風を連想させ、彼女の声はエドガーの耳をくすぐる小鳥のさえずり。


 エリザベスだけがエドガーを湿った活字の森から引っ張り出してくれる。


 そう、彼女がロンドンの女たちと異なる最大の点は、エドガーに物語をせがむことであった。エリザベスはエドガーの語る空想の冒険譚に目を輝かせ、夢中になって続きを話してと迫るのだ。


 昼下がり、黄金の光に包まれた庭のベンチに腰かけた。新しい話を始めて、気が付いたら日が暮れていたことも一度や二度ではない。


 そんな時、明日必ず続きを話してねと指切りをしてくれるエリザベスの顔を、エドガーは直視できない。


 エリザベスといると、エドガーは自身の不甲斐なさに気付かされる。好きだとか、愛しているとか、その程度のことさえ言えない。それどころか、ありがとうの言葉さえも中々口にすることができない。


 自分とエリザベスは違う世界を生きている。同じ人間でさえないような気がする。


 どうしてあんなに素敵なエリザベスの許嫁がこんな自分なのだろうか。せめて許嫁ではない普通の幼馴染だったなら、今ほどの劣等感は抱かなかっただろうに。


 エドガーはそのことに関してだけは、大好きなお祖父さまを少しだけ恨んでいる。

また明日~

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